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「填鴨式教育」 東洋のフォアグラ

 以前、人工的に脂肪肝(フォアグラ)を作り出すガヴァージュと呼ばれる強制給餌が倫理的に問題になっているという話をしたが、実は中国の北京ダックも似たような方法で作られている。
 周達生著「中国食物誌」の6鳥類「填鴨(ティエンヤア)」によれば、孵化50数日になった北京種アヒルに穀物を中心とするエサを無理やり詰め込み、運動も制限すると、半月で体重が2倍ほどになる。まだ羽毛が出揃っていないアヒルを肥育する(場合によっては羽毛を抜く)ことで脂肪の蓄積を促し、美味しい肉ができるという寸法だ。現在では機械化されより短期間になっているが、嘴に無理やり填鴨器(餌の入った管)を突っ込まれる様子はまさにフォアグラ作りという感じだ。
 中国では「填鴨式教育」というと「詰め込み教育」をさすのだが、これは子供たちに主体的に思考させずにただひたすら大量の知識だけを教え込む様が填鴨の肥育に似ていることから名付けられた。

★おまけ:運動不足の鶏の方がおいしい?
 香港仔(アバディーン)といえば観光名物水上レストランがあるが、ここには「蛋民」と呼ばれる水上生活者たちもいた。
 彼らは被差別民で陸には上がらず、基本的に船の上で漁業や水運、商業などをして生計を立てており、宋代に書かれた「嶺外代答」によると従事する職業によって「魚蜑(魚蛋)」・「蠔蜑(蠔蛋)」・「木蜑(木蛋)」の三種類があるとされる。
 この最後の「木蛋」は山林で切った木を筏で運んできていたのだが、このとき筏の上で飼われていた鶏・豚たちは先ほどの北京ダックと同じく運動不足になったおかげで肉が柔らかく美味だったらしい。

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