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事後承諾

 朝起きたら、三年間同棲した彼女がいなくなっていた。
 置き手紙も何も残さず、彼女だけが跡形もなく消えていた。
 初めは何かの犯罪に巻き込まれたのでは、とも疑った。
 とりあえずアパートの中を調べたが、彼女の荷物は全て元の位置のまま。
 ベッドも化粧台も動かされた形跡はなく、ただ靴と携帯だけがない。
 着の身着のままで出ていったということだろうか。
 僕は会社に電話して事情を説明すると、仕事を休んで彼女を探すことにした。

 あの日、どれだけ走り回ったか分からない。
 近所のお店や彼女がよく行っていた公園。
 去年彼女といっしょに歩いたあの川沿いの桜並木の道を、一人息を切らして懸命にペダルを漕いだ。
 彼女はどこにも見当たらなかった。
 僕は青ざめた。汗びっしょりだというのになんだかひどく寒気がして、叫び出したくなるのを必死でこらえた。

 一日が経ち、二日、三日経っても彼女が戻らないので、僕は警察に捜索願を出した。
 やがて一週間が経った。相変わらず彼女は見つからないが、かと言って出勤しないわけにも行かず、僕は抜け殻のような状態のまま仕事を続けていた。
 まるで寄りかかっていた椅子の背もたれが急になくなってしまったような、そんな感覚だった。
 あのアパートのありとあらゆるものが彼女のことを思い出させるせいで、僕は家に帰るのをやめて、ネカフェに寝泊まりしていた。
 彼女が失踪した、という事実を受け入れることは到底できなかった。
 それだけ僕にとって彼女はかけがえのない存在だったし、心の中で重要な位置を占めていたと思う。
 でも、彼女にとってはどうだったのか。
 それはもう分からない。
 数日前、僕は見つけてしまった。
 部屋の隅にあるテーブルの上に置かれた付箋——一番上にあった紙が剥がされて捨てられていたせいで、肝心のメッセージの内容全ては読めない。
 だが、そのすぐ下にあった紙の表面に残された筆跡を鉛筆で薄く塗ったとき、かろうじて一行目だけが浮かび上がったのだ。
「あなたと過ごした3年間は、人生最悪の時間でした。」

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