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山種美術館特別展『東山魁夷と日本の夏』感想

山種美術館、初訪問。
恵比寿駅西口から徒歩14分程度。
坂を登って下る道のり。

山種美術館は、日本画専門の美術館である。
成功した実業家の山﨑種二が作った美術館。山種証券の創業者だそうだ。山種証券は巡り巡って今はSMBC日興証券となっている。


ビジネスで成功した後、美術品や芸術品を収集する人達がいる。
さらに、収集した美術品を自分だけのものにせず、多くの人の目に触れる場作りまでする人がいる。山種美術館は、そんな場所の一つ。

庶民代表としては、ノーブルな方のご好意を、下流でありがたく受け止め、拝見させていただく。

山種美術館はこじんまりとした規模なので、鑑賞に身体的負担を感じない。
鑑賞時間は1時間みておけばじっくり堪能できる。

今回の展示は私好みであった。
https://www.yamatane-museum.jp/exh/2024/kaii.html
『東山魁夷と日本の夏』

爽やかで涼しかった。
日本画のフラットな世界が私が好きみたいだ。
色味も好きだ。
ミニマルでよい。

目玉作品

今回の目玉作品は、種二の依頼で東山魁夷が山種美術館のために描いた巨大壁画、『満ち来る潮(うしお)』。

元絵は皇居の壁画になっている。
皇居を訪れる国賓などのために、「これぞ日本」という絵を描いてくれ!と依頼されて描いたんだそう。そっちも見てみたいけど、国賓にならないと見ることはできない。まあ、私は一生見ることはないだろう。
(と思っていたのだが、以下のテレビ朝日の番組で皇居の壁画を見ることができた。テレ朝さん、ありがとう!)

しかし、種二は、一般市民にも鑑賞させたいと考えた。それでうちの美術館にも描いてくれ、と依頼したのだ。

東山魁夷は最初モチベが上がらなかった。
「同じの描いてって言われてもなあ…」

そのうち閃いたらしく、
「そうか、皇居のは静かめの海にしたから、山種のは動きのある海で行こう」このように方針が定まり、制作に着手してくれたそうだ。

最初の論点設定、意義を感じられるかどうか、は重要だね。

山種版の『満ち来る潮』は金箔、銀箔をたっぷり貼ってあって、絢爛豪華。
とはいえ、上品さは失っていない。

光が指してキラキラ反射する水面を表現しているのだろう。
金箔は夕刻の暖かみのある光なのだろう。
風が強く、波の荒さ、力強さも表現しているのだろう。

この大作を書き上げる前に、何枚も小さなスケッチを制作していたのが印象深い。
やはりいきなり取りかかったりはしないのだな。

実際に海に取材に行っている。
一箇所ではない。
いろいろな海に出かけている。

取材、大切。


東山魁夷以外の作家たち


東山魁夷以外の作家作品も多数出展されていた。
魁夷と他の作家たちで半分・半分という割合。

他の作家たちの中で、私が気に入ったのは奥村土牛。
全部見終わって、記憶に残ったのは土牛の作品ばかり。

・海
・水蓮
・朝市の女
・枇杷と少女

以上が、今回の土牛作品なんだけど、いずれも良かった。
全部、1日たったけど、思い起こせる。

朝市の女は能登旅行で朝市で魚を売っていた女性を描いたものなんだけど、
その人が着てたみたいなブラウスと絣のモンペを買って帰って、息子のお嫁さんに着せて、魚も築地で鰤とかカレイとか買ってきて、それで作品を描くという、こだわりようなのだ。

私は、このエピソードが大変気に入った。

私も日本画が描きたくなった。少し。


山種美術館のカフェ最高


そして、山種美術館の素晴らしさのクライマックスは、併設された美術館カフェにある。

展示された作品をモチーフにした和菓子が特別提供される。
この和菓子が素晴らしい。
見た目が抜群に美しい。
しかも、作品のエッセンスを絶妙に抽出している。
日本画が和菓子ナイズされているのだ。

以下の美術館サイトPDFで和菓子の写真が確認できる

https://www.yamatane-museum.jp/upload/cafe240720.pdf

ご覧いただければ、菓子の美しさをご理解いただけると思う。
だが、できれば展示そのものを見た後で、これらの和菓子を見て欲しい。

たくさんの展示絵画がある中で、なぜこの5作品をモチーフに選んだのか。知りたい。

まったく次元の違う日本画の美しさ、本質、作家の意図を汲み取り、大胆に切り取り、強弱をつけて和菓子に成形している。そこに感動した。

時間がなくて味わうことができなかったが、
メニュー表を見ただけで、「絶対美味しいに違いない」と確信した。


練り切りが1つ700円代と大変高価だが、食べ物になった美術品を口でも鑑賞できると思えば、べらぼうな金額ではない。

近い内にカフェを再訪したい。


<追記>
テレビ朝日朝の報道バラエティ、グッド!モーニングの1コーナー『グッド!いちおし』にて山種美術館の『東山魁夷と日本の夏』を採り上げていた。(9月6日)

館長に取材しており、見ごたえあり。館内の解説ではわからなかったこともあって、理解が深まった。テレ朝グッジョブだ!

この番組内にて、「見たい〜」と切望していた皇居の『朝明けの潮』の画像を見ることができた。ありがとうテレビ朝日。

東山魁夷先生の制作風景写真(朝日新聞社提供)も見ることができた。クレーンを使っての制作である。あの巨大な壁画はクレーンを使って制作されたのか。

テレ朝の番組制作力と、届ける力と、伝えるタイミングに感服した。

系列新聞社から素材提供を受け、皇居の壁画写真データを発掘し、2枚の壁画を並列で画面に収める。しっかりと館長に取材もしている。

10分足らずの短いコーナーではあるが、充実のコンテンツだった。ディレクターの気合、歴史ある報道メディアが蓄えた文化資産、構成力を感じた。

『グッド!いちおし』は朝の慌ただしい時間帯の放送で「ながら観」される宿命にも関わらずしっかりした構成で、私は毎朝結構楽しみに見ている。

美術系のテーマ回は特にお気に入りだ。セレクトする展示会が私好みなのだ。今後もこの調子で長く続いてほしい番組とコーナーである。

東山魁夷が戦後国民的画家になった理由を考察

美術の教科書にも東山魁夷の作品が掲載されているし、日本で教育を受けた人で彼を知らない人はいないと思う。

いまでこそ誰も知る大作家の魁夷だが、美術館の解説文によると不遇な時期があったらしい。

東山魁夷が国民的人気作家になったきっかけが、戦後開催された第3回日展で特選を受賞したことにあるとのこと。

私が美術の世界に疎いせいもあるが、「日展で特選になったくらいで、国民の認知が広がり、人気作家になるものだろうか?」と思ってしまった(日展関係者の方、本当にすみません。素人の感想です)。

しかし、第3回日展が開催された時期を改めて考えてみると、昭和22年(1947年)である。

第2次世界大戦終了後2年しか経っていない。国民は全員戦争の被害を受けているし、まだ全然立ち直っていない。

魁夷自身も戦争犠牲者だ。徴兵されて従軍している。挫折経験もある。特選受賞前の境遇はどん底。受賞の前年に応募した第2回日展では落選。家族関係では母と弟が亡くなっている。(情報元:Wikipedia

こうした挫折とどん底経験者が作り出した暗い谷から見える希望の光のような作品が、多くの国民の共感を呼び、明るい未来に向かってがんばろうという気持ちを呼び起こした。

当時はバズるとかない時代だけど、こうした気持ちの盛り上がりが国全体に伝播し、彼を表舞台に押し上げるきっかけとなったのであろう。


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