1-3*転居|1章 はじめに|ニューロマン都会編
入社して3年目の夏。
名古屋で一番古い商店街、円頓寺商店街に引越した。
転居先は、一階に「まつば」という純喫茶が入っているアパートの二階。
築30年以上の古い物件だが、窓から見える商店街の風景や高度経済成長期の面影を残した建物のデザインが気に入った。
アパートの大家さんは、「まつば」を営業している老夫婦だった。「まつば」は近隣のお年寄り達が毎日定刻にコーヒーを飲みに来る憩いの場になっていた。私もすぐに顔なじみになった。
商店街では毎年夏に七夕祭りを開催していた。
各店舗が工夫を凝らし、子どもに人気のキャラクター等のハリボテを作る。私も参加してみたくなり、一般公募枠でハリボテを作った。すると今まで顔見知り程度だった人達とも共通の話題ができ、知り合いがどんどん増えていった。
商店街を歩けば誰かしらに声をかけられるようになった。
近所のお店で食事をすれば高確率で知人と出くわし、一緒に呑んだり二軒目のスナックにハシゴすることが日常になった。
何でも相談できる円頓寺の母と呼べる女将が3人もできて、町中が親戚のような感覚だった。
それから東京に引っ越すまでの4年間、毎年ハリボテを作り続けた。
しかし、1年ごとに閉店や高齢を理由にハリボテ作りを引退する店舗が増えていった。
今はあたり前のように存在している商店街も、近い将来必ず世代交代の時期を迎える。
いつまでも、あると思うな商店街。
高度経済成長期の面影さえも無くなってしまうのではないかと危機感を覚えた。