スキマスイッチが今、ライブをする理由
【副題】
Streaming LIVE “a la carte 2020”から感じた彼らの想い
※このテキストは、2020年7月1日に「音楽文(powered by rockinon.com)」掲載された記事の転載です。
世の中から、「ライブ」というアーティストとファンの交流の場が消え、早4ヶ月。ライブができなくなってしまった直後の2020年2月28日に、当初ツアーファイナルを迎える予定だった地・熊本で無観客ライブを決行したアーティストがいる。その名もスキマスイッチ。彼らが、最後のライブから丸4ヶ月経つ6月27日に、無観客有料配信ライブ「Streaming LIVE “a la carte 2020”〜実際にやってみた!〜」を開催した。
今回のライブは、もともとは外出自粛期間中にファンクラブの会員がスキマスイッチから与えられた「あなたが考える神セトリは?」というお題に答えるところから始まったもの。「既存のライブ映像をつなげてひとつの『神セトリライブ』を作ってみよう」というスキマスイッチの提案から、ファンそれぞれがMAX13曲をチョイスし、自分が夢見るライブのセットリストを構想。ファンからの投票結果を踏まえて、スキマスイッチのふたりと「チームスキマ」と呼ばれるスタッフ陣が楽曲を選び、どのライブ映像を使うかを考え、YouTubeという仮想空間上にひとつのライブ会場を作り上げた。
このライブのセットリストを組む会議を行う様子も、ファンクラブの会員向けには配信され、ファンはそれぞれの視聴場所から自身が選んだ楽曲がセットリストに加わるのかドキドキしながら会議の行方を見届けていた(はず。少なくともわたしはドキドキそわそわしていた)。わたしにとっては、友人たちとSNS上や今流行りのオンライン飲み会のなかで「どの曲が入るかな?」「わたしが考える神セトリはこれ!」と意見を交わすのも、なかなか対面で会うことが難しいこのご時世、ナーバスになってしまいがちな状況下では、気分転換をする良いきっかけとなっていた。
ファンのもとにこの仮想ライブの企画が伝えられたのは、5月8日。実際にYouTube上に動画が公開されたのは、6月1日。ファンとスキマスイッチ、チームスキマの共同作業で組み立てられ、公開されたYouTube動画のセットリストは、本人たちの意向を汲んでか、募集時の13曲よりも3曲多い16曲で構成されていた。そして、映像を通しで観て、擬似ライブ体験をし、「やっぱりライブが恋しいな」と思っていた矢先の6月3日に、予想だにしない告知がわたしたちの元に飛び込んできた。
「みなさんと一緒に完成させた『LIVE a la carte 2020』が、なんと!!仮想ライブではなく、生配信ライブをやることになりました!!」
先述した通り、このライブは過去のライブのおいしいところを凝縮した、「夢のセットリスト」だ。夢だと思っていたことが現実になってしまう。こんなことってある?信じられないけど、どうやら現実らしい。告知された時点でほぼ3週間後とすぐそこに迫る新たな楽しみに、わたしは心を躍らせた。
スキマスイッチは、「ライブな空間」を大切にするアーティストだ。ステージ上にいるバンドメンバー、観客と心を通わせながら、予定調和ではなく「そのとき」「その場」で生まれた音を届けてくれる。サプライズも多々あり、40公演以上あるツアーのなかでセットリストが一度足りとも被らなかったことだってある。
そんな彼らが、あらかじめセットリストを公開した状態でライブをやることはとても新鮮な試み。とは言え、これまでの経験からするときっと「サプライズ」な要素、予想だにしない展開も起き得るのだろう。そう思うと、配信とは言え一体どんな「ライブ」が見られるのだろうかと、ただひたすら楽しみだった。何せ、ツアーも延期になり、先々の楽しみがすべて奪われてしまっている昨今だ。「ライブが開催される」という報が、どれだけ貴重で有難いことか。従来と異なる形とは言え、この報は「希望」でもあった。
あっという間に月日は流れ、ライブ当日。定刻19時を少し過ぎた頃に、いつものライブと同様の影ナレから「Streaming LIVE “a la carte 2020”〜実際にやってみた!〜」は始まった。
ライブの全容は、7月5日まではアーカイブ配信されているので、この投稿文がもし配信期間中にアップされていたら、ぜひご自身の目で確認してほしいため割愛するが、彼らは仮想ライブとしてYouTubeにアップされた「LIVE “a la carte”」の映像内でピックアップされていた楽曲を、曲順はもちろんのこと、抜粋されたライブ映像のアレンジも踏襲しながら、新しいライブを構築していた。それは演奏面だけではなく、演出面でもそうだった。
たとえば、1曲目に演奏された「時間の止め方」。アルバム「musium」に収録され、同アルバムを提げたツアーでも同様にオープニングを飾っていたが、当時の演出で用いられていた白幕の振り落としの演出を、今回は照明で再現していた。全編を通して、仮想ライブで抜粋された映像の当時を再現するようなアレンジや楽器使い、装いの細かすぎる変化など、スキマスイッチふたりの遊び心溢れる振る舞いも見られた。
ライブの序盤で、ボーカルの大橋卓弥さんは「(お客さんの反応がないのが)寂しい」とぽろりとこぼしていた。いつもは時差なく目に飛びこんでくる観客の表情や聞こえてくる歓声がないことに対する戸惑いを少し見せながらも、2月28日の無観客ライブでも演奏された「奏(かなで)」のラスサビでのパフォーマンスは、画面越しとは言え、彼の想いが十分すぎるぐらいに伝わってきたように感じられた。
普段、テレビ番組などで行うカメラに向けたパフォーマンスについて、「苦手」と漏らす彼が、目の前のカメラをじっと見据え、少し目を潤ませながら身振り手振りも加えて歌を届ける姿。その渾身のパフォーマンスに圧倒され、画面越しなことを一瞬忘れて息を呑んでしまった。これは「ライブ映像」ではない。正真正銘の「ライブ」だ。実際に目の前にスキマスイッチがいて、演奏がダイレクトに届く状況ではなくとも、そんなことを実感した瞬間だった。
また、「奏(かなで)」終わりのMCで、配信サイト上で繰り広げられるリアルタイムチャットでのファンからのメッセージを確認した途端、明るくなった彼の表情とそこから先のパフォーマンスに見られた変化。終盤には「僕たちばっかり楽しんじゃってないかな?」とこぼしていたが、そこには「ここにはいなくてもお客さんがいる」ことを実感したうえで音を鳴らし、言葉を届けていることが見受けられた。「トラベラーズ・ハイ」や「全力少年」でのパフォーマンスは、彼らの目の前に実際に観客の姿が目に浮かんでいるのかも?と思える瞬間さえあったぐらいだ。
そして、セットリストがわかっているライブだったはずなのに、アンコールで予想だにしないことが起きた。YouTubeでの仮想ライブではセットリストに入っていなかった「Revival」が演奏されたのだ。
同曲のタイトルを日本語に直訳すると、「復活」や「再興」といった意味がある。舞台演劇やライブの世界だと「再演」という意味合いも持つ単語を冠したこの曲で歌われている言葉を振り返ると、もともとのセットリストからは外れていたにもかかわらず、この日に演奏することを決めたふたりの意図が見え隠れしているようにわたしには感じられた。
「君に会いたいなぁ」
「時が解決してくれるとよく耳にするけれど
でも 解決が“忘れること”なら僕はそれを望んじゃいない
思い出は時に曖昧で 美しくすり替わっていく
それでもいい そうだとしても忘れたくない」
今回のライブタイトルに用いられた「a la carte(アラカルト)」という言葉は、料理の世界で一品ずつお好み料理を選ぶスタイルのことを指す。今回の試みは、「スキマスイッチの既存楽曲、過去のライブ映像という豊富なメニューの中から、ファンとスキマスイッチ、チームスキマが選んだお好み楽曲で新たなフルコースを作り上げたもの」とも言えるだろう。
昨年12月25日に行われた「POPMAN’S CARNIVAL vol.2」の中野公演で、「ファンが選んだ楽曲だけでいつかライブをやってみてもおもしろいかもしれない」といった旨の発言をしてこそいたが、今回の試みは、きっとその頃の彼らが思い描いていた形とは違った形で実現されたはずだ。開催したいと考えていたタイミングだって、もしかしたら今ではなかったのかもしれない。
いつ行われたっておもしろい取り組みであることに間違いないが、なぜこのタイミングで、この形での決行となったのか、現在の世の中の状況は、「過去」になってからも決して忘れてはいけない。ただの「思い出」にしてはいけないことなのだ。そして、このタイミングで音楽がわたしたちにどのような力を与えてくれたのかも、深く胸に刻み込んでおかなくてはいけないことと言えるだろう。そんなことをふたりが教えてくれたような気がした。
「音楽にどんな力があるのか僕らにはわからない」と、彼らはたまに口にする。しかし、わからないながらも音楽が持つ力を信じ、ファンに音楽で自身の想いや考えを伝えることを決して諦めず、常に挑戦を続けている。今回、このタイミングで有料配信ライブを行うことを決めたのも、今音楽を奏でること、目の前に観客を入れられない状況であってもライブを開催すること、無料ではなく有料で映像、音質ともにハイクオリティなライブを届ける必要性をアーティストとして感じつつも、物理的には離れ離れなファンと、音楽を使って「同じ空間」を共有したいという想いがあってこそのものだったのではないだろうか。
今回のライブでわたしは、映像でもライブの温度感を伝えられる、そんな可能性を感じることができた。とは言え、同時に「本当のライブに勝るものはない」とも痛感してしまった。それは、「みんなに会いたい!」と叫んだ大橋卓弥さん、そして隣にいた鍵盤の常田真太郎さんも同様なのではないだろうか。ステージで音を出せることの喜びと、演者と観客がコミュニケーションできることの喜び。このふたつが相まってこそ、スキマスイッチのライブはより楽しくなる。わたしは、スキマスイッチのライブの醍醐味を約2時間50分のステージのなかで改めて感じることができた。
それでも、いつまで続くのかわからぬこの状況下で、「つながり」を感じられたこの時間は、かけがえのないものであった。仮想ライブのセットリストを作るだけでも連帯感を感じることはできたけれど、これに「配信ライブ」という体感がともなったことで、体験の価値はより高いものになったようにも感じている。そんな体験を得るきっかけをくれたスキマスイッチ、そしてチームスキマには感謝してもしきれない。近い未来に、また本当のライブの空間で同じ時間を共有できるようになった暁には、この感謝の気持ちをめいっぱい直接伝えたい。わたしは今、そう強く感じている。
ライブの終盤で、大橋卓弥さんは「またいつか、絶対に直接皆さんのことをこの目で見ることができる。そんな日が来ると信じています」と語っていた。常田真太郎さんは、「みんなの街に行きたい!!」と叫んでいた。2月の無観客ライブの最後に言った「絶対にまた会おうね!」の約束は、物理的にはまだ果たされていない。それでも、彼らは今回のライブの終盤に、新たなセレクションアルバムを8月19日にリリースする旨と、その中に「今」の想いを詰め込んだ新曲を収録すると発表してくれた。スキマスイッチは、いつだって音楽を通してファンと対峙し続けてくれる。つながりはいつ何時も絶えることはない。思うように同じ時間・空間を共有することができない今だからこそ、彼らが生きていて、今というときをどう過ごし、何を考えているかが伝わることの安心感が、少なくともわたしにとっては大きな心の支えにもなっている。
今回のライブの最後に演奏されたのは、2018年11月に開催された15周年記念ライブ「Reversible」でも最後に披露されていた「リアライズ」。その曲の終盤で歌われるのは、こんな言葉だ。
「僕が手にしたい未来は 僕が作る」
同じ言葉でも、周年ライブのときとは響きが違ってしまうぐらいに、世の中は変わってしまった。それでも同じ言葉を力強く歌う様子に、スキマスイッチふたりの強い決意をわたしは感じ取った。その想いを持ってこれからも歩み続けるスキマスイッチに、これからもたくさんの勇気をもらい、そして助けられるのだろう。ひとりのファンとして、微力ながらもそんな彼らをこれからも支え続けたい。そう強く感じられる時間であった。
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