ボールは渡して終わりではない
たいして大きく膨らむ話ではありません。
端的に言えば、
「キャッチボールって、AさんからBさんにボール投げたら、
もう終了なんでしたっけ?」
と言うお話です。
そもそもコミュニケーションのことを「言葉のキャッチボール」なんて上手いこと言う人がいるなー、的な表現があるように、一方通行のことを指しません。常に応答、返信、リアクションといった何かしらのフィードバックがあって、初めて「1コミュニケーション」成立したと言えます。
ですが、ビジネスの場ではこのことを忘れてしまったエンジニアやマネージャーが数多く存在しています。
それはコミュニケーションじゃない
ある時、進捗が思わしくないプロジェクトの立て直しに入った時、色々調べていくと、課題管理がまったく昇華されておらず、いくつかのクリティカルパスに影響が出ているのを発見しました。
その点について、どういう状況になっているのか、マネージャー含めチームに聞いてみると
「期限までに、この内容でよいかどうかの回答が
ユーザーからありませんでした。
そのため、この箇所の仕様が確定していません。
わたしたちも困っています」
要件定義や上流工程などでよく耳にする発言です。「資料をユーザー部門へ渡して決断してほしい旨を依頼したが、回答がなかった。このため終わらない」というのです。
よくある話ですが、だから「ユーザーが悪い」と言い放つようなら、これは根本的な考え方を変えさせる必要があるかもしれません。
原因として考えられるのは
たしかに、ステークホルダー間で期日が遵守されない場合、期日を守るべき側にこそ「期日を守るべき」責任があると言えます。ですが、遵守できない事情があるかも知れない…ということを、私たちはあらかじめリスクの1つとして考慮しておくべきです。
特に可能性として高いのは
「専門用語の相互不理解」
です。ITに長く触れてきた開発メンバーと、そうではないユーザーとの間で、ITにまつわる専門用語を連発されてもユーザーとして困るでしょうし、IT上の常識を前提とした話をされても敷居が高かったりするでしょう。
また、ユーザー企業もユーザー企業で、若い担当者に丸投げするだけで、決裁者はろくにエスカレーションも受けようとせず、「我関せず」を決め込んでいる場合も少なくありません。
ユーザー企業の担当者にも自らの仕事がある中で、IT企業側のコミュニケーションに答えているわけですから、IT企業側のエンジニアやマネージャーにしても、担当者に負担がかからなくていいような配慮があってしかるべきです。
ですが、IT企業側のエンジニアやマネージャーは、課題管理表等で質問する際、頻繁に
オープンクエスチョン
を使っているのを見かけます。酷い場合には「How(どうすれば)」と言う聞き方をしています。
なんかこう…フロントっぽくないと言うか…こう…ね?
超上流や上流と言われる工程を担当するわけですから、ユーザーとの調整や交渉は必須スキルです。また、主導権をもって業務にあたるという観点からも、いかにクローズドクエスチョンに持っていくべきかを検討するべきではないでしょうか。
「期限までに依頼事項の回答を誘導するのもスキルの一つ」
と考えるべきです。そのためには、どのような質問の仕方が、相手にとって答えやすいか?を考えなくてはいけません。そして、
「それができないとプロフェッショナルとして恥ずかしい」
と思わないといけないとも思います。なかでも、「ユーザー側にも事情があるかもしれない」と言う発想は必ず持つようにしたいものです。
コミュニケーションが成立させる責任は私たちにも
たとえば先述のように、リテラシー差によって
・会話が伝わりにくいかもしれない
・資料の内容が分かりにくいかもしれない
・現業の作業が忙しくて時間がとれないのかもしれない
と言うのは往々にしてよくあることです。みなさんも、ユーザー目線で専門用語バリバリのRFP(提案依頼書)などを渡された時、読むのが苦痛になってしまうケースがあったりしませんか?
私は、初めて金融系のプロジェクトに参画した時、メガバンクのRFPを見たとき、2割も理解できなかったことを覚えています。
そう考えると、同じ苦痛をユーザーに与えてしまっている可能性も考慮しておくべきではないでしょうか。
私たちはシステム開発のことだけを考えていればいいのかもしれませんが、ユーザーは現業があります。事情を無視して「責任はユーザーにある」と放言してしまうと、プロジェクト進行上でコミュニケーションに亀裂が入ることになりかねません。今後の協力が取り付けられなくなる可能性も出てきます。
やり方はいくらでもあるはずです。
一緒に考える時間を作ってもよいし、ユーザーの上長に依頼して担当者の手を空けてもらうこともできるでしょう。プロジェクトマネージャーは、ユーザーの担当者一人ひとりも大切なステークホルダーであると、今一度認識を強め、彼らの負荷も気にしながら、作業の進行を阻害する要因を共に解消していかなければならないのではないかと思います。
そうしなければ、
「ボールを投げました」
「あとは、相手のせいです」
「自分たちは悪くありません」
というだけでは、円滑なコミュニケーションを成立させることは難しいでしょう。
ボールを投げるのであれば、相手が受け取りやすいボールを。
ボールを受けるのであれば、相手が投げやすい構えを。
キャッチボールがそうであるように、私たちは様々なコミュニケーションにおいて相手とキャッチボールが継続できることを前提としたうえで、最大限の努力をするべきだと思うのです。
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