案外できてないPDCAの「A」
自分の仕事にPDCAサイクルをあてはめた時、Actionとは何をすることでしょうか。
これが理解できていなければ理解できていない以上、当然その原則に即した行動は起こせません。「なんとなく」「ふわっと」した感覚的なもので解った気にはなっていても案外言語化できる人は少なく、それだけ適切に実施されていないということがわかります。
Actionには「同じ仕事を繰り返す際の『改善』」だけではなく「新しい仕事にチャレンジする時の『過去の経験の活用』」も含まれています。既成の「〇〇スキル」に振り回されるのではなく、オリジナルのスキルを自力で発明するための"自分なりの理論"という考え方と具体的な実践方法について検討してみましょう。
2種類のAction
「アクション」と言われると活発な活動を想像してしまいますよね。
ですが、PDCAにおけるActionの意味はちょっと違います。
もともとPDCAは工場の生産管理(QC活動)の分野で使われた考え方から生まれたこともあって、Actionには「改善」や「対策」、「是正」、「再発防止」という言葉があてはめられることが多いものです。
これらの言葉をみなさんの仕事におけるPDCAについても当てはめると、ちょっとしっくりこないかもしれません。
「改善とか是正と言われると、なんでもかんでも今が悪い状態に思えてくる」
「ミスが無かったら、Actionは不要ということ?」
と思う人もいるかもしれません。
しかし、仕事における本質的なActionとは以下のような意味だと理解してください。
成功は繰り返すことができるように。
失敗は繰り返さないために。
Actionは常に「次の仕事」のために行います。
過去を振り返るのはCheckの役目ですから、Actionの段階になってもまだ過去に固執する人はそもそも理解できていないことがよくわかります。
そしてActionにおいて用いる材料は、Checkで得られた「自覚された経験」です。もちろんその中には成功の経験も含みます。
ですからCheckをおろそかにしてしまう、あるいは未熟なままだと適切なActionを実施するための材料不足となってしまうということです。
さて、Checkで自覚した経験を"上手に活用する"...これがクセモノです。
過去の経験が「そのまま使える場合」と「ひとひねり工夫が必要な場合」があるからです。
そのまま使える場合
成功した結果を踏まえてそのプロセスを再利用する場合、多くの人は「そのまま使える」と思いがちですし、プロセスを部品化していればそうなることも多いと思います。
"そのまま使える場合"というのは、次の仕事が過去の仕事の繰り返しである場合です。
下記のような仕事が例として挙げられます。
・毎月行われる部門会議の議事録作成
・毎日かかってくるお客様からの電話の応対
・担当顧客10社の財務分析の続き(5社終えているので、残りの5社)
・文房具などのオフィス備品が不足した時の注文
このような場合、過去の経験の上手な活用とは「やるべき事を必ず忘れないようにする」ことです。前の仕事を終えた時には強く自覚できたことも、自分の記憶だけに頼っていると、「ああ、また○○を確認しなかった...」というように再び見落としてしまうこともあります。
逆に言うと「自分の記憶だけに頼らなくても済むような仕掛け」を作ればいいのです。
この手のActionにおいてタブーとなるのは
「気を付ける」
「注意する」
「頑張る/努力する」
「正しく行う」
「適切に実施する」
など具体的プロセスに落とし込んでいないケースです。
「人」に依存した、あいまいな表現でしか対応できないものについては、2つの意味で信用に値しません。
じゃあこれまでは最大限「〇〇」していなかったのか?
→気を付けていなかったのか?
→注意していなかったのか?
→努力していなかったのか?
→正しく行っていなかったのか?
→適切に実施していなかったのか?「〇〇」さえすれば二度と再発しないと言い切れるのか?
→気を付けさえすれば
→注意さえすれば
→努力さえすれば
具体性が伴わないから、こう聞かれるとおそらくは言葉に詰まってしまうことでしょう。
ひとひねり工夫が必要な場合
みなさんは"同じ状況で同じ成果を出す"ような仕事だけを行っているでしょうか?
そうではないはずです。
今はそういう仕事ばかりという人もいずれそうではなくなります。
もうずいぶん前から「ビジネス環境の変化が激しくなった」と言われています。
むしろ、常に変化するものと思っているくらいのほうがいいでしょう。
プロジェクト活動のように「独自性」という要素が常について回る活動においては、同じことをしているだけでは成功しないケースも出てきます。
そもそも、思考停止してまったく同じ手続きで行われる作業などというものは次々とITによって自動化されたり、あるいはAIにとって代わられたり、そうでなくても外部委託されたりすることのほうが多いでしょう。
お客さまや競合会社が変化したら、企業や組織の提供する商品やサービスも変わります。どんな業界、職種であっても「同じ条件で、同じことを、同じようにやる」機会がどんどん少なくなっています。
みなさんの仕事もそうです。
ようやく慣れてきたと思った頃に、急に新しい仕事が指示されます。
こんなとき、過去の経験はすべて無駄で役に立たないものになってしまうのか?
そんなことはありません。
「ひとひねりの工夫」があれば、あなたの過去の経験は未知の新しい仕事にも活かすことができます。新たな仕事を与えた上司もそれを期待しています。やる前から「教わっていないからできません」とか、ちょっと手をつけただけで「これは私には向いていません」なんて言ってほしくないのです。
そのためには抽象化できなくてはなりません。
抽象化とは、端的に言えば過去の経験から法則性や共通点を見出すことです。
そうして整理された仕組みやプロセスは、特定条件などによって具体的に活用できたり、テーラリングの必要が生じたりするようになります。この流れを汲まずにただただそのまま活用しようとすると失敗してしまう例は数多くあります。
「前はこれでよかったのに…」
「以前はこれで成功したのに…」
という言い訳をしなくて済むようにしたいなら、抽象化するスキルをきちんと身につけておきましょう。
○○○という意味では同じ
「PDCAサイクル」の図を見ていると、1つの仕事だけについて同じ円の上をグルグルらせん状に回り続け、ひたすら改善していくイメージを持ってしまいます。
ところが、現実の仕事はそうではありません。
そもそもそういうイメージを世の中全体に与えてしまっているのが問題です。
常に変化するビジネス環境の下ではその仕事を望むか望まないかに関わらず、新しい仕事が次々とやってきます。
まったく同じ仕事を延々とサイクルするのであればたった1つのサイクルでもいいでしょう。元々、工場の生産管理の中で生まれた仕組みです。工場の量産現場ではそれでもよかったかもしれません。
しかし、今はそういう仕事ばかりではないはずです。
プロジェクト活動のように、大枠は似たような業務であってもまったく同じものを複写するようにまったく同じ活動だけしていればそれで良いということはありません。必ずテーラリング(応用)することが求められます。
では、過去の経験を次の仕事でも応用するとは具体的にどういうことでしょう?
以下に例を挙げてみます。
これらの例には全て共通点があります。
「◯◯◯という意味では同じ」
「◯◯◯の部分は同じ」
という言い方をしていますよね。
この「◯◯◯」が、過去の仕事と今の仕事の共通点です。
上記の例だと順に
Wさん:「最初の関係作り」
Xさん:「成果物の集約」
Yさん:「ファシリテーション」
Zさん:「実務レベルの担当者の巻き込み」
となります。
これらは全て、過去の仕事から学んだ自分なりのコツやノウハウです。自分なりに体系化したもので、ビジネス書に載っているような立派な理論ではありません。
誰にでも役立つかどうかもわからない、ほんのささいな場面についての自分なりの理論。でも少なくても自分には役に立っている自分発の理論。この理論に唯一の答えはありません。自分流なのだから、自分の役に立てばいいのです。
たとえば上記の中の「最初の関係作り」というのは、
「最初の関係作り」とは?
→訪問時は、自己紹介の前に「訪問の目的」を必ず伝える。
というようなシンプルな理論かもしれませんし、
「最初の関係作り」とは?
→課題を訊かないと提案できないが、最初から詳しい事情は教えてくれない。
→できるだけ早く「この営業には社内の事情を話してもいいかな」と思われる
ような、信頼関係を作らないといけない。
→信頼関係を作るために、まず訪問前に△△を準備する。
→訪問時には☆☆について説明した後、「○○○」という言い方でお願いをする。
というように、細かく考えられた理論かもしれません。
ボリュームを多くするか少なくするかはその理論を作る人次第です。
このような形で培ったことが自分自身の中で整理されていると、色々な場面で応用することができるようになるわけです。もちろん、様々なシチュエーションや条件に対応できるようにするためには、細かく整理されていたほうがいいでしょう。
上記の「最初の関係作り」の場合だと、特定の1社に限らず様々な訪問先で役立てることができます。営業だけではなく、社内の他部署の人との「最初の関係作り」にも役に立つかもしれません。
他の「成果物の集約」「ファシリテーション」「担当者の巻き込み」も同様です。
こうした理論の積み重ねによって「ベテラン」というものが構築されていきます。
ただし、あまりにも属人的で本人の感覚や経験則でしか使えないような理論になってしまうと、集団活動においては大きなリスクとなりやすいことも覚えておいてください。理論を整理した際には、極力言語化できるようにしておくことをオススメします。図でも表でもかまいませんが、理論である以上、とにかく他人と共有できる形にしておかないと後で周囲と齟齬を起こしてしまい、困ったことになるかもしれません。
こうした理論は「色々な仕事で使い回しが利くちょっとした教訓」のようなものです。
与えられた仕事の中で自分なりの理論をたくさん作っておくと、新しい初めての仕事を任された時にうまくやり遂げる可能性が高くなります。
なぜなら、
初めて手がける仕事でも「ゼロからのスタート」ではなくなる
からです。
部品化された様々な理論の中から使えそうな部分を探して「ここまでなら何とかやれそうだ」と余計な不安を解消することや、「この部分は同じ要領でやれば2~3時間くらいだろう」という見通しを立てることもできます。
観察は「攻めの行為」
思い出で終わらせない
「自分の部下/後輩にせっかく観察の機会を与えたのに、何も学んでない...」
そう嘆く上司や先輩社員にくわしい事情を聞くと、
・顧客訪問に10回同行させたのに
「先輩すごいっすね。自分にはできません」で終わってしまった。
・競合会社のプレゼンテーションを見学する機会を与えたのに
「たくさん名刺交換しました。異業種交流っていいですね」で終わってしまった。
・ずっと隣で仕分け作業を見ていたはずなのに、
「これはどうやるのですか?」と基本的な事をいつまでも訊いてくる。
こんな事、やっていないですよね?
周囲の人を両極端に分けてしまう
一方で、若手社員側の言い分を聞いてみましょう。
たまに、こういう言い方をする人がいます。
「私の周りには、将来の目標になるような先輩や上司がいません。
何も学べません。私は不幸です」
手本になるような人を「ロールモデル」と言います。
で、そのロールモデルがいないことを嘆いている…気持ちはわかりますがそんなに高望みしないでください。将来イメージにぴったり合うような人がいるというのは、よほど幸運なことです。
私だって25年以上同じ業界にいて、何千人と一緒に仕事をしてきたにもかかわらず、そんな上司や先輩は一人としていませんでした。
もしかして、周囲の人を
「この先輩(上司)が私の目標。この人から全てを学ぶ」
「この先輩(上司)の存在は、私の職業人生に何の意味も持たない」
と両極端に分けていませんか?
それはやめてください。かなりもったいない極端な考え方です。
どんな人からも何かしら学ぶことはできます。
たとえば、反面教師という考え方だってあります。
少なくとも私は自らの成功と失敗のほかに、そうした反面教師からも多くを学び取って自分を改善し続けてきました。
「部分」の観察
あなたの上司の「全体が人としてどうか」ではなく、学びたい部分…もっと言うと「盗みたい部分」を見つけてその部分に注目して観察してください。
観察というのは受け身ではなく「攻めの行為」です。
人は注意を向けた情報だけを取り込みます。意識を向けていないと、聞こえたはずの台詞や、見えていたはずの動作も取り込まれることはありません。「あの先輩のこういう所」「あの上司のこんな時のやり方」...観察から学べることはたくさんあります。
以下のような「部分」に着目してみましょう。
何(what)を観察するか?
事前に「何を観察するか」を決める
たとえば次の例などを見てください。
漫然の観察するのではなく、事前に"何を観察するか"を決めておくことで欲しい情報が入ってくる確率はぐっと高くなります。
本質をつかみ、自分の理論確立へ
観察したらそれで終わりではなく「本質」をつかみましょう。
つまりは抽象化です。本質をつかめばただその通りマネをするのではなく、応用の利く自分のノウハウになります。
本質をつかむにはどうすればいいか?
それは"質問"することです。
とはいえ、
「Bさんすごいですね!どうすればBさんみたいになれますか?」
こんな質問ではよほどの人格者でもない限り、相手にしてくれないことでしょう。オープンクエスチョン…なかでも「How」で聞こうとするのは最も相手に負担をかける最低な質問方法です。
「How」で質問をしても許されるシーンはかなり限定されます。
普段は「絶対に使わない」くらいのつもりでいたほうがいいでしょう。
もっと具体的に、観察した事実を用いて質問します。
たとえば
「先ほどの訪問で、お客さまに○○を説明する際に『☆☆☆』という言い方を
されていましたよね。お客さまはとても納得されていましたが、先輩は意識して
ああいう言い方をされたのですか?」
このように訊かれたら先輩だって嬉しいものです。
「よく見ていたね!」と感心して解説してくれるでしょう。
他の状況でも同様です。
通常はクローズドクエスチョンを中心にします。
たとえば
「Bさんはこのタイプの案件ではいつも○○をしていますが、
それが受注のポイントなのでしょうか?」
こういう聞き方であれば、素直に答えてくれる人も多いでしょう。
また、通常はクローズドクエスチョンを中心にしつつ、どうしても自分の理解が及ばない部分については「How」を極力用いない形でオープンクエスチョンに頼ります。
たとえば
「どうして、このような順番で行っていらっしゃるのですか?」
「なぜ、報告書にこの項目を入れたのですか?」
このように「Why」を使ってみるのもいいでしょう。
「Why」は意気込みや前のめりの姿勢、興味を強く抱いていることを示す聞き方でもあります。当然、聞かれる側もそこまでの意欲を見せられて嫌な気持ちにはなりません(なるとしたら、相当「個人主義」な人くらいでしょうか)。