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自分で考えようとしない人

業務に役立つ「スキル」や「知識」は、当然ながら多ければ多いほど良いはずです。

営業はさまざまな顧客と接し、さまざまな案件の話し合いをし、さまざまな提案をするため、その業界に関連する最新の知識のみならず、他の業界でのトピックス、さらには多様な話題や雑学も知っていることが望ましいでしょう。

技術はさまざまな顧客、様々な業界と接し、さまざまなニーズについての話し合いをし、様々な要求実現をするため、実現方法に関連する最新の技術や知識のみならず、世の中で起きているIT事故やインシデントにも耳を傾け、ありとあらゆる問題を回避できる万全の態勢を整えておく必要があります。

それだけ話せることや実現できることがあれば、どのような相手であっても共通の話題があっさりと見つかりやすいものです。業務もはかどることでしょう。

だから、それらのスキルや知識を身につけるために、学びは欠かせないわけです。

私の知り合いの優秀と呼ばれる方々もやはり勉強熱心で、謙虚で、そのうえで他の人の話をよく聞き、吸収できるものは何でも吸収する姿勢を持つ人が多いです。好感が持てる方々が多い気がします。

ところが一方では、社会人になって相当の年数がたっているにもかかわらず全く学ぼうとしない、自分で考えようともしないという人たちもいます。しかも、結構な人数の人たちが、物事を深く考えません。

さすがに、この状況には危機感を覚えます。

何が危機なのかというと、端的にいえば

自分でモノを深く熟慮できない(考えられない)人が増えていて、
そのような人たちがチームや組織の中枢にもたくさんいる

ということです。

ビジネスにおいて「物事を考える」場合、営業であれ、開発の現場であれ、経営層であれ、大まかには次のような手順となるはずです。

1.ビジネスで結果が出ているのか、出ていないのかを知る
 (現状把握)

2.結果が出ているなら、なぜ結果が出ているのかの原因を特定する
 (成功分析)

3.ビジネスで結果が出ていない場合も、その原因を特定する
 (失敗分析)

4.結果が出ていないなら、その原因を解決するための方法を検討する
 (解決法の検討)

5.解決方法がわからなければ、「何がわからないのか?」を知る
 (解決法の調査)

6.「わからないこと」を知るためにどうするのか具体的な行動を検討する
 (解決法の検討)

7.わかったら、それを活用して原因の解決方法に生かし、実行する
 (解決法の実行)

8.実行計画がうまくいっているのかを評価し(解決法の評価)、
 うまくいっていなければその原因を特定し(失敗分析)、
 改善案を検討する(解決法の検討)

企業内の階層が違っていても、考え方そのものは大きく変わりません。
すべてのビジネスどころか、すべての活動の基本となる行動指針です。

大雑把に言えば、PDCAフレームワークを正しく運用するビジネスモデルですが、基本的に企業はすべてこのサイクルで回ることを暗に義務付けられています(そのために"年度"と言う有期的な概念があり、計画と振り返りが会社法的にも義務化されているわけです)。実際に文字にしてみれば、誰もがやっていることだし当たり前のことでしょう。

考えた結果、生じる成果の大きさ、役職や結果への責任の大きさ、影響が及ぶ範囲が違うだけで、これができなければ、どのような活動であっても悉く無為に帰します。

ところが、「考えない人」はこの考え方、そして考えることそのものを放棄してしまっています。

その結果として、最もわかりやすいのが

 何も調べず、
 考えず、
 すぐに他の人に答えを聞きたがる

と言う行動です。

一般的に、

 「有識者に仕事が集まりやすい」

と言われるのはそのためです。
自ら考え、自ら行動できる人間が極端に減ってしまっているゆえに、犠牲となる生贄候補が出てくると、その人に全てを押し付けようとしてしまうのです。

しかし、それ以上にもっと重大な問題があります。


考えない人は周囲から「仕事ができる人」と勘違いされやすい

私が知りうる限りのいくつかの業界の、誰もが知っている大企業の部長級の役職の人でも、

 物事を考えずにすぐに部下に丸投げしたり
 社外のコンサルタントや取引している企業に丸投げしたり

をすることがあります。しかも、よりによって事業戦略に関することまで立案を社外に丸投げするなど「考えないにも程がある」と言いたくなる事例もあったりします。

けれども、これが実態です。
その考えない人が

 「自分自身に自信がなく、また自ら努力する気がないがゆえに、
  日頃からの姿勢として他の人の考えや意見を求めやすい」

ためにこのようなことが起きます。

しかし、考えない人でも仕事でそれなりに考える瞬間は当然ながらあります。それは「自分がわかること・できること」を取り組むときです。

考えない人は往々にして自分ができること以外はやらないし、やる努力もしないし、そもそもやれません。考えない人は、自分を成長させる気が無く、自分ができることだけを数をこなしてたくさん作業します。言い換えれば「事務作業」「工場作業」のようになってしまっているのですが、それが私たちにはその考えない人が非常に仕事をしているように見えることがあるわけです。

さらに、考えない人は自分ができることしかしていないので、ミスも少なくなります。従って、考えない人なのにその人のことを周囲が

 「仕事がすごくできる人」

と勘違いしてしまうのです。

しかも、考えない人は自分にできないことはすぐに他人に求めるため、「周囲を巻き込む力がある」と誤解されがちです。実際には"巻き込む"のではなく、"丸投げ"しているだけなのにより勘違いを助長させてしまうことになっているのです。

でも、それを評価する上司は適切に見定められません。

実際に、周囲からは「巻き込まれ」たと勘違いされ、ただ丸投げされた人たちは、どんなに助けてあげたとしても何か見返りがあるわけでもなく、ただただいいように利用されるだけで、徐々に疲弊していくことになります。

その勘違いが、考えない人本人自身に

「自分は仕事ができる」

「自分の仕事の仕方や考え方は間違っていない」

「だから自分は正しい」

と思わせてしまう温床となってしまっているのです。このようにして制度が未熟な組織では、考えない人が量産されていきます。


怖いのは考えない人が組織の中枢に食い込むこと

このような「考えない人」が、チームや組織で重要なポジションに就くとどうなるでしょうか。

そもそも考えない人は、自分ができることしかやらず、自分にできないことは他人に押し付けるような人ですから、考えない人の深層心理には

 「失敗したくない」
 「責任を取りたくない」

という性質があります。

普段、周囲から「優秀」と思われている中で、

 ・日頃の発言の中に"他責"を含ませる発言が多い人
  (できること以外「他人がやるべき」と言う発想)
 ・自ら「まずはやってみよう」と言う発言のない人
 (基本的に「誰かにやらせる」ことしか考えない)

などは、考えない人である可能性が一段と高いことがわかります。このことは新人であっても変わりませんし、職位が上がって責任と業務の範囲が広がっても変わることはありません。

だから、考えない人にとってわからない難しい問題が起こると、それを他人や部下、社外の取引先などに丸投げして、あたかも自分に責任がないと見える状況をつくろうとします。

さらに卑怯なのは、そうして他人に丸投げし、自らは何一つ貢献していないのに、上司に報告する際には「実行してくれた人」の話が一切出てこないため、報告を聞いた上司がなんとなくその考えない人の功績だと勘違いするように日頃から振舞っていることです。

そのせいで、考えない人が「仕事ができる人」とますます誤解されていくのです。


問題の根幹は「考えない人」を重用する組織

もちろん、すべてが考えない人の責任ではありません。

 『事実』や『経緯』を見ようとせず
 『結果』だけしか見ようとしない組織であれば

抽象的な報告だけを鵜呑みにしてしまうのも仕方のないことです。

因果応報あるいは因果関係と言う言葉があるように、成功には成功した原因、失敗には失敗した原因があり、その原因はすべて経緯の中にしか存在しません。

結果は大事ですが、結果だけしか見ていなければ、仕事の本質から大きく外れていても気付けず、このような誤った人事観となってしまうのです。

考えない人が昇進あるいは重職に就き、組織をマネジメントするようになるとどのようなことが起こるでしょう。

 ・意思決定の多くが保守的で、無難な決定になる。
 ・新たなチャレンジは乏しくなる。
 ・失敗はしないが、成功もしない。
 ・組織としての安寧は得られるが、成長しない。

という可能性が出てくることにもなりかねません。どんどん閉塞した組織となっていきます。人体でいえば正しく血液が流れないような状態です。当然、次に起こるのは細胞の壊死…すなわち部下やメンバーが成長せず、期待した活動ができなくなっていき、最終的には不良在庫のような存在となっていくわけです。

あるいは「丸投げ」ばかりしてロクに管理もしようとしないために、大トラブルを起こすまで放置しっぱなしになったり、またその責任を現場の担当者に押し付け、より疲弊させるような働かせ方をすることになるかも知れません。

考えない人の組織は、社内の業務改善にもさほど興味がなかったり、興味がある体を装っていても自ら動くつもりはなく、結局従来通りの業務フローを続けてしまいますが、もしも競合他社、あるいは他部署がRPA(Robotic Process Automation)などを導入し、コスト削減に成功すると、考えない人が長となっている組織は相対的に高コスト体質になり、ものすごい勢いで競争力が失われていきます。

その理由は簡単です。

 その組織の意思決定権者が考えない人であり、
 その人が組織をマネジメントしているから

です。

チームであれ、課でれ、部であれ、それが組織である以上、組織の成長、組織のレベルは、それを統括する者(意思決定する者)のレベルが上限となります。

たとえば、部下が能力150の提案をしても、上司が能力50までしか考えられないと、上司のキャパシティを超えてしまって、上司が考えようとしなくなり、結局保守的な却下と言う判断しか下せません。

 「考え続ける」
 「一生成長し続ける(リカレント)」

と言う点において、上司が部下よりも常に優れていなければならない理由はそこにあります。

図23

考えない上司は、部下が優れていれば優れているほど、足枷/邪魔にしかなりません。このような企業は実際にとても多く、「デジタルディスラプション」のあおりを受けて倒産するケースは年々増えています。

考えない人が最終的に決定したことは、失敗を回避する無難な選択であることが多く、組織や企業の成長、機会の損失、部下を含む人材の拡充など、その影響は組織全体の戦略面にも及びます。

組織が出す結果は及第点であったとしても、組織全体があきらめやぬるい雰囲気になっていくのです。そんな組織の多くは、"現状維持"と言うぬるま湯に浸りきってしまい、ビジネス環境の変化などさまざまなことに鈍くなっていきます。


「考えない人」は伝染する

さらに、そのような組織は社員にも考えない人が増えていきます。

どんなに深く、広く考えても、考えない上司の下では自分の意見が採用されることは難しく、「考えるだけ無駄」だと判断し、考えることを止めてしまうからです。

そんな空気のまま1年2年過ごせば、もう考える人に戻ることは困難です。

さらに、多くの場合は、自分のロールモデルとして自分の直属の上長を考えるでしょう。転属や転職などの機会がない人は、直属の上司しか参考にできません。

よほど風通しのいい企業であれば、他部署の上司を参考にすることもできるかもしれませんが、欧米はともかく日本国内においてはなかなか難しいかも知れません。

そのような中で、自分の上長が考えない人でも組織をマネジメントしているなら、部下から見れば

 「あ、こういうふうに組織をマネジメントすればいいんだ」

と見えてしまいますから、考えない人のやり方が部下に浸透していくことを止めることはできません。そのやり方で大きな成功は望めなくても、とりあえず問題にならなければ、なおさらそれが正しいやり方だとして一層強固に浸透していきます。

こうなってしまったら、ちょっと指摘した程度では絶対に改善されることはありません。「問題でもないのに、なぜ改善しなければならないのか」と反発するからです。

振り返り自体も意味がないものと思い込み、more betterとなる改善活動すらしなくなります。


現在のビジネス環境の変化の早さは、多くの企業や組織にさまざまな問題を生じさせています。AIや自動化の波が激しい昨今、イノベーティブに活動することは必須となっています。

しかし、考えない人はその重要性すら考えないか、あるいは他人から教えてもらって知ってはいても考えたくないので、丸投げできる他人を探すだけです。

ビジネス環境の変化に対して競合他社よりも後れを取っていたり、新たなビジネスチャンスを見落すなど、多くの企業、多くの組織でさまざまな問題が起こっているはずです。

だから本来は

 「何も問題がないと思っていること」

自体が問題なのです。
問題を見落としているからです。

目先の数字だけで「問題がない」と判断すること自体がナンセンスです。場合によっては、問題があっても限られた数字(売上や利益だけ)に影響しないケースもあるでしょう。

しかし、数字に影響がないからと言って問題や課題をそのまま放置していれば、当然それが許される風土(常識)として定着していってしまいます。そうすれば、いざ問題や課題が顕在化した時に「何も考えていなかった」わけですから、どう判断していいか、どう行動していいか、何一つわからない人ばかりが雁首を揃え、「アイツが悪い」「どーなってるんだ」と他責や丸投げが横行するわけです。

そもそも、問題が潜在的に存在していても、顕在化してから数字になって現れるまでにはタイムラグがあります。

 案件レベルなら1~数か月
 事業レベルなら半年から2~3年
 戦略レベルなら4~5年

経ってから後悔するような結末になることは珍しくありません。

ところが考えない人の組織では、そのことに気付きません。
考えないということは、先を読まないということでもあるからです。

だからビジネスの環境変化に適応できず、自社の財・サービスが顧客のニーズの変化に適応できず、ある程度時間が経ってから業績が悪化し始めるわけです。


最後に

このように、『考えない人』が組織の中枢に増えれば、チームも、組織も、もちろん企業も衰退していってしまいます。

タチが悪いことに、この思考のプロセスが、考えない人本人の自覚なしに進んでしまうこともあります。考えない人の皆が皆、一様に悪意があって考えていないわけではありません。

中には

 「手を抜いて」
 「仕事しなくて」
 「他人を利用して」

といった考え方をしている人もいるかもしれませんが、殆どの場合、考えない人の多くは

 「考えなくても、問題にならなければ組織は何も言わない」

ために、それが正しいことなのだと誤解してしまっているにすぎません。悪意があるのではなく、それが正しいことだと思い込んでしまっているのです。

実際には因果関係が目に見えにくいだけで、様々な問題の温床となっているのですが、それが明確に指摘されず、また評価等にも影響しないため、どんどん悪化をこじらせてしまっています。

ナチュラルにタチが悪い人とも言えるでしょうが、そこには組織風土にも原因の一端があることを忘れてはいけません。

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Takashi Suda / かんた
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