「言った言わない」のトラブルを防ぐ
記憶違いや勘違い、思い込みといったミスは「話したつもり」「聞いたつもり」のトラブルを引き起こしがちです。自分の脳を過度に信用しすぎた結果といえるかもしれません。
ミスがなくならない。同じミスを繰り返す。
「また、やってしまった!」と地団駄を踏む。
こういうことがなくならない背景には、どうも自分自身をあるいは脳を信用しすぎているのではないかと思えてなりません。
実は脳ほどアテにならない器官はありません。
疲れると集中力も落ちてきます。
記憶力が格段に弱くなるのがわかります。
しかもその程度は一人ひとり違っているのです。
みなさんも「こんなミスをしてしまうなんて信じられない……」とあとから振り返って愕然とした経験があるでしょう。
覚えておかなくてはならないのは、集中力や記憶力が落ちていくのはあなただけではなく、相手にとっても同じだということです。お互いに脳を、あるいは自分自身を過度に信用しすぎているのです。
このことがわかると口頭のやり取りだけではなく、書面でも知らせておくことが必要だと気づくと思います。相手の記憶違い、勘違い、思い込みといったミスも書面一つで防ぐことができるのです。
口頭だけでなく書面でもきちんと伝える。
そうすれば、相手が忘れたり勘違いしたりすることもありませんから、設計ミスや仕様漏れを起こさせないで済みます。
「念には念を入れる」
たったこれだけのことで、お互いに安心して仕事ができるのです。
逆に、意図的にそういったミスを誘発させるシーンに持っていく人も後を絶ちません。物事をうやむやにして自分の責任を回避する人によくあることです。
しかし、これを実践する人は自己保身に走った相当の卑怯者であるということを認識しておかなくてはなりません。
仕事は丁寧かつ正確に処理しなければなりません。
しかし、忙しさのあまりつい送り先を間違えたりといったミスはあちこちで頻発しています。こんなとき「話したつもり」「聞いたつもり」という水掛け論で気まずくなることは避けたいものです。
そのためにも「書面」にしておくこと。
「ほら、これが証拠ですよ」という切り札になります。
もし、本当に相手が忘れてしまっていただけなのであれば、むしろ「あぁ、そうだったね。忘れていたよ。」となるわけです。
口約束と文書
いざというとき、どちらが強いかはわかると思います。営業マンなら「こちらの契約書にサインをお願いします」というひと言がモノをいうのです。
みなさんもできるだけ書面にしましょう。
相手にもできる限り書面にしてもらいましょう。
これがミスをなくす極意です。
いまどき、大企業でも中小企業でもチームでの仕事が中心です。
1人ですべて完結するビジネスなんてものはほぼありません。
私もそうです。
1人で「作業」をすることはあっても、1人で「仕事」をすることはありません。さまざまな人たちと一緒に1つの仕事を完遂させます。
チームで仕事をするときに最も大切なのは「ルール」です(今はまだそこまで至っていませんが、本来プロジェクト計画書はルール大全でなければなりません)。
たとえば、多くの会社では「9~18時」などと勤務時間が決められていたりしますよね。このルールによって「9~18時には必ず全員出社している」という状況をつくり出すことで、「この企画の進捗状況を朝一番で○○さんに報告しよう」のように予定を立てることができるのです。
また「レポートライン」をきちんと決めておくことも大切です。
レポートラインとは、業務報告や意思疎通を行なう際の情報伝達経路のことです。プロジェクト計画書では、"コミュニケーションプラン"と言う形でルールを定義することになっています。
たとえば、お客さまから大きな注文を受注したとしましょう。
この情報を流す際、「担当者→係長→課長→部長→担当役員→社長」というように事前に順番を決めておくのです。この情報のルートをきちんと守ることでスムーズに伝達を行なうことができます。
それなのに、もし担当者が係長を越えて課長にいきなり報告したとしたら、どうなるでしょう。係長は重要な情報を知らされないままになります。
「○○係長、今回の注文だが在庫はきちんと確保してあるのかな?」
「その注文について報告を受けていませんが」
では話になりません。
一般的な会社において、
どんなに優れた人材であっても、
組織を軽視した行動をとれば、ただの邪魔な存在
となるのはそのためです。チームワークは「仲良しごっこ」や「馴れ合い」と言う意味ではありません。"Team + Work"であり、チームでしかできない仕事をチーム全員で実施するからこそチームワークなのです。
これを理解していない人は、いずれチームから疎まれるようになります。
仮にこの時、たまたま係長が席を外していたため先に課長に報告したのだとしても、情報伝達のルールを無視していることには変わりありません。また情報伝達のルールを無視していい理由にもなりません。
課長は自分に報告が来ている時点で係長には報告済みだと判断する事態は変わらないのです。この意思疎通の齟齬が思わぬミスを生む原因となります。
しかも、スルーされた係長は「俺のことを軽く見ているのか」と担当者に対して不信感を抱きます。今後、関係がぎくしゃくしてしまって仕事が進めづらくなる可能性もあるのです。
ルールは1人でも守らない人がいると意味がなくなります。
チームメンバー全員にルールを徹底させる必要があります。
そのためには、「メンバー全員でルールを決める」という方法が効果的です。チームリーダーが1人で決めるのではなく、全員で話し合ってルールをつくるのです。こうすれば全員に「当事者意識」が生まれるので、ルールを逸脱した行為が起こりにくくなります。
複数人で仕事を進めるときは「自己判断」がミスの原因になります。
属人的であることを許容する組織が最も恐ろしいのはこの点です。各自が好き勝手なことをやっていると、すでにもうチームとしての連携をとることは不可能です。結果、さまざまなトラブルが生じます。
もちろん、ときには臨機応変に対応することも大切ですが、その場合でも「ルールから逸脱しない」というのが大前提なのです。仮にルールに誤りや不足があるならルールを無視するのではなく、
『ルールを見直す』
から始めなくてはなりません。それができないのは、ただの無法地帯に生きる人でしかないのです。
思い込みで生じるミスのほとんどはコミュニケーション不足が原因です。
こんな有名な話があります。
私たちは「自分は相手のことをわかっているし、相手は自分のことをわかってくれている」と考えてしまいがちです。
しかし、ビジネスの場ではそうした考えは捨てるべきです。
「分かり合えていない」という前提に立ってコミュニケーションを取っていきましょう。相手と何度もやり取りを重ねることで少しずつイメージを共有していくのです。
「この点はどうですか?」
「どう考えていますか?」
と突っ込んで質問していくとズレはどんどん修正されていきます。
そして、意見の食い違いから起こるミスを防ぐことができます。
お互いの勝手な思い込みで仕事にロスが生じないように、密なコミュニケーションを取ることを意識してください。たったそれだけで、コミュニケーション不良が原因となる認識齟齬の発生率は劇的に改善されることでしょう。
裏を返せば、その努力を怠る人というのは確信犯的に
「コミュニケーション不良による認識齟齬を今後も発生させてやる」
と言っているのと変わらないわけです。