顧客は機能だけでなく「あるもの」を買っている
ちょっと一般消費者の目線に立って考えてみてください。
人はなぜ高額商品を購入するのでしょうか。
機能性だけを考えれば何百万円もするバッグや、何千万円もする車は必要ありません。
しかし、わざわざ高額なモノを買おうとします。
その答えは「アイデンティティ」にあります。
わかりやすく言えば"自分らしさ"のためと言ってもいいでしょう。
では、ITであればどうでしょうか。
機能さえ満たしていればなんでもいい?
そんなはずありません。
顧客のニーズはもちろん機能を中心に触れられていることがおおいことでしょう。けれども、その背景には必ず「ニーズに至る経緯」があります。
そしてそうであるならば、マーケターでもある私たちは価格を決定する際、
「顧客は何が欲しいのか」だけでなく
「顧客はどうなりたいのか」を考慮する必要がある
ということを意味します。
もちろん「どれだけ儲けたいか」という目線でしか考えられないと言うのは論外です。
人はどんなときに、とんでもなく高い価格を快く支払おうとするのでしょう。
その心理がわかれば、心理をコントロールするだけで、気持ちのいいビジネスが成立します。実際、たとえば次のようなものに高額を支払う人はいます。
英国のサウサンプトン、カリフォルニア州のカーメル、コロラド州アスペンといった好立地にある別荘。
マンハッタンの432パーク・アベニューやサンフランシスコのミレニアム・タワーのような、有名な超高層ビルの分譲マンション。
デザイナーの名前が付いた高級なファッションアイテム、たとえば途方もなく高額なエルメスのバーキン・バッグ。
あるいは車も高額商品です。
50万ドルするロールス・ロイスのファントム
ひょっとすると家よりも高い自動車を、何故必要とするのでしょう。
理由がわからなければ
25万ドルのベントレーのフライングスパーではダメか。
それとも15万ドルのBMWのM760で妥協できないか。
となります。
その答えはアイデンティティに他なりません。
このような商品を買うことによって自分が何者なのかを自分で強く意識でき、他者にもその同じ認識を持ってもらうよう仕向けることができるからです。わかりやすく言うと、
"金持ち"
のステータスを持ち、周囲にもそう認識してもらうために購入しているわけです。
卑下たいい方をすれば、自己満足と言うことになります。これは単に高級品の性質であって、上述のすべてはその例にすぎないと最初に思うかもしれません。
しかし、一定のサイクルで変動する景気につられて、こうした高級志向は必ず巡り巡ってきます。
同じように、アンデンティティを強く象徴するものは、同じアイデンティティを持つ者を強く惹きつけます。有名人がシャネルを使い始めると同じようにシャネルが欲しくなりますよね。その年をにぎわせた有名人やスポーツ選手の名前を自分の子供につける親…なんてのも同じ心理によるものかもしれません。
右に倣え的な思想を持ちやすい日本人は流行などに流されやすい傾向がありますが、それでも個々人のアイデンティティは確かにあります。
そして、これはビジネスにおける商取引でも同じことが言えます。
幅広いビジネス分野にも当てはまることでしょう。
製品の設計や価格設定の際には「顧客は何が欲しいのか」だけでなく、
「顧客はどんな人になりたいのか」
「顧客はどんな会社にしたいのか」
を考慮することが必要です。
以前から何度も言ってきたと思いますが、IT企業とは厳密にはITサービス産業に属しています。パッケージ製品を作って、量産し、売りさばくような企業であれば概ね『製造業』と言って差し支えありませんが、そうでない以上は
第三次産業の「サービス業」
に位置づけされていることを忘れてはなりません。
サービス業が提供するものは、
「機能」ではなく、「満足」です。
「モノ」ではなく、「コト」です。
一昔前に「コト消費」と言う言葉が流行りました。
経済産業省では、"コト消費空間づくり研究会"まで立ちあがったほどです。
【モノ消費】
個別の製品やサービスの持つ機能的価値を消費すること。
価値の客観化(定量化)は原則可能。
もう少しわかりやすく言えば、
「商品・サービスの機能に価値を感じて使うこと」
と言えるでしょう。
顧客の窓口担当者 ≠ システム利用者の場合、
こちら目線で仕様が決定されやすいという側面を持ちます。
そうなると、受入テストや現地テストで仕様が大幅に変わることもよくあります。
【コト消費】
製品を購入して使用したり、単品の機能的なサービスを享受するのみでなく、
個別の事象が連なった総体である「一連の体験」を対象とした消費活動のこと。
「商品・サービスによって得られる経験に価値を感じて使うこと」
を指していると言っていいでしょう。
こういうケースは非常に稀です。
超上流工程の中でも、エンジニアからのたたき上げマネージャーなどではなく、
コンサルタントに近い方がいれば、こうした目線でお客さまと会話が進むことが
多いでしょう。
IT企業はモノを作る会社であるということは知っていても、コトを売る会社であることを忘れる傾向があります。
常に、お客さまのアイデンティティに訴えかけることのできるモノでなければ"モノ"としてもお粗末ですし、"コト"としても不完全になるということを忘れないようにしましょう。
誤解しやすいのは、SIerなどが一次請けで入っているようなケースです。
お客さま…と言っても、SIerの反応をみたところで無事黒字で収まったかどうかくらいしか気にしていません。彼らから好評を得ても、それはモノ消費が上手くいっただけで、コト消費につながったかどうかは分からないのです。
エンドユーザーの反応ではなく間に入っているベンダーの顔色だけしか見ていないと、いざと言う時にエンドユーザーと直接取引するような案件では、大きな成果は期待できません。
なぜなら、利用者の
アイデンティティを「満足」させる
こと以外を価値基準としてしまっているからです。
いただいたサポートは、全額本noteへの執筆…記載活動、およびそのための情報収集活動に使わせていただきます。