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理系と文系に差はない

半導体、太陽光発電、液晶パネル…どれも出始めは日本がトップだったけれども海外に抜かれてしまった商品です。

半導体は最早上位に日本は2社のみです。
ソニーが急激に挽回していますが2018年は1社だけでした。

太陽光発電に至っては既に中国に抜かれてしまっています。

業界や企業にもよるとは思いますが、いわゆる「モノづくり」産業においてはハードウェア/ソフトウェア関係なく、その要因の1つに日本の「文系軽視」があるのではないかと感じています。

当然、私が長年所属していたIT系企業の採用でも同じことが言えます。IT系企業では昔から

 「理系的なモノの考え方が出来なければ」

みたいなセリフを仰る人は必ずいますし、採用の時点で気にされている企業も多いことでしょう。ですが、これを発言する人の大半が理系的な発想とやらをベースにしていないことにみなさんおそらく気づいていません。

確かに理系的なモノの考え方は必要です。

ですが、本当に理系的なモノの考え方ができていれば「理系的なモノの考え方が大事」であるその根拠を明らかにできるはずです。しかし、それを明らかにしない人、できない人は意外と多いのです。

ちなみに、私に言わせてみればどんな企業、どんなビジネスであっても

 数学的発想と現国的文章能力の両立は必須だろう

と思っています。文系、理系どちらか一方だけでビジネスが成り立つと思ってる方がよほど危険だと考えています。

たとえば、大学生の就職活動はとりあえず「企業説明会」なるイベントに参加することから始まる学生も多いのではないでしょうか。企業説明会…、有名企業側にとっては自社の紹介やアピールをすることで学生に対する周知をはかる機会であるとともに、学生側は業界の様子や仕事内容等について現場の方から聞くことの出来る良い機会でもあります。

文系の学生であれば統計学・経営学・経済学を専攻していたりする人もいると思いますが、そうすると特にデータ分析やエンジニア、マーケター、営業辺りに関心が出てくるわけなのですが、とりあえず広く業界を見てみようと特に絞らず色々な企業の話を聞くことでしょう。

その中で、いわゆる日本のB2Bのメーカー企業ではやはり「理系」の「優秀な技術を備えた」学生を求めるようで、説明会の場でも理系学生ばかり優遇しており文系の営業やマーケター系の説明はテキトーに流します。

実際、ITエンジニアの中で「技術者」と呼ばれる人の大半は、実際にはプログラマーかちょっとできるプログラマーの集合体で、本当の意味でのエンジニアやアーキテクトと呼べる人はほんの一握りしかいません。

そのため統計学などには疎く、意外と文系関連の問い合わせにまともに回答できる人がいません。統計学などは一昔前に騒がれたビッグデータで用いる技術要素ですし、AIなかでも機械学習を中心とするベース技術にもなりうるものであるにもかかわらず、です。

また、営業や経営などでもマーケティングなどBI(Business Intelligence)の原点にもなる知識エリアなので決して軽視していい領域ではないのですが、なぜかエンジニアリングとは切り離して考えてしまう古い体質の人が多いようです。

まあ、この待遇差は当然かもしれません。

 「優れた技術で高品質な商品を作る」
 「高品質な商品であれば自然と売れる」
 「特に相手がビジネス向けであれば尚更」

それが古来より、日本のB2Bメーカー企業のやり方だったはずです。説明会でもこの手の企業では必ず次のような言葉ばかりが見受けられると言います。

 「自社に備えた優秀な技術が強み」
 「良い商品を作ることが売上に直結する」
 「とにかく技術が大事」

しかし、これでは優秀な文系人材を確保できません。
優秀であればあるほど

 「あぁ…。
  日本のメーカー企業に行くと文系は大事にされなさそうだ。
  行かないでおこう。」

思われてしまうためです。
というのも、マーケティングの基本的な考え方として

 「たとえ良い商品であっても、買い手に良さが伝わらなければ売れない」
 「商品の価値は品質だけでなく、買い手の知覚によっても決まる」

があるからです。この考え方と折り合いのつかない企業に行っても優遇される道理がありません。

もちろんB2B企業がこのようになるのも仕方ないことです。

実際マーケティングの教科書類はB2Cビジネスがメインで、B2Bメーカーの実例はあまり掲載されていません。広告効果も小さく、B2Bメーカーのマーケティングのメイン要素は「営業」であるのも確かです。そのために営業部がいたり、技術部の管理職が営業活動をすることになるわけです。


そもそも、売れる商品とは何でしょう。

お客さまは当然対価を支払って商品を購入するわけなので、簡単に考えてしまうならば一般的には

 (顧客が感じる価値) > 価格 = 顧客は購入する
 (顧客が感じる価値) < 価格 = 顧客は購入しない

となるはずです。

それではB2B取引における商品の価値とは何でしょう。

B2Cであれば消費者によって感じる価値は様々です。だからこそ顧客対象の分析が重要になるわけですが、B2Bにおいては相手もビジネスを考える相手。故に重要なのは

 儲けを生み出せるかどうか

となります。当然既存のものより品質の良いものであれば儲けを産むことが出来るわけなので、よく言われる高品質、最新技術は商品の価値を構成するものの一つと考えることが出来ます。日本の商品は高品質で低価格がウリであると言われます。

しかし、言葉だけ取ってみればよさそうですが、内実はどうでしょう。

品質は価値の一部ですので、高品質・低価格の商品とは、

 不等式の右側である「価格」を小さくし、
 左側の「価値」を大きく取った

良戦略商品のように見えます。ただ、商品の価値は品質の良さや使われてる技術だけではありません。商品にはある種の"潜在的な価値"があるわけです。ここは多くのエンジニアが最も嫌う

 顧客の要求事項とその背景、および経緯

を知ろうとしない限り絶対に理解することはできません。

「なぜ、お客さまは私たちに依頼したのか」
「なぜ、そんなソフトウェアが必要なのか」
「なぜ、今なのか」
「そのソフトウェアを導入したら、お客さまは何がうれしいのか」
「そのソフトウェアを導入したら、どれくらいの(費用対)効果が出るのか」

そのことを知らずに、あるいは知ろうとせずに

「お客さまがそういったから」
「そうしろって言われたから」

と言う理由だけでしか動けないロボットのような姿勢ではこの"潜在的な価値"は一生理解できません。かと言って、根性論で何とかしようとか、気に入られさえすれば仕事になるとか、接待をして仲良くなれば仕事につながるとか、古き良き高度成長期を彷彿させる精神的打開策しか持てないようではダメです。それは文系・理系どちらか一方どころかどちらも持ち合わせていない人の手法です。

たとえば、"弁当を作る企業に管理システムを売る"とします。

まず、お客さまであるこの弁当企業では、弁当に印字されたラベルを抜き取り式で検査員が適当な印字が施されているか検査、管理します。これを人力で行う理由は既存のセンサーだと精度が悪く、印字検査を適切に行えないためです。

ここで仮に最新式のセンサーによって、検査員に割く人員を削ることができるとします。実現できれば、年間で2億円の経費を削減することが可能になる…と仮定しておきましょう。つまり、このセンサーを買うことでお客さまは「年間で2億円」も得することになります。

このように表面的には分からないお客さまにもたらす効用を潜在的な価値と呼ぶことにします。

ということは、このセンサーが5年間壊れず使用できるとすれば、先を見越すとこのセンサーの価値は少なくとも10億円以上あるわけです。単に技術や品質だけでなく、この潜在的な価値をいかにお客さまに伝えることが出来るかが商品を売る場合は重要で、このお客さまに対する潜在的な価値を高めることが出来れば出来るほど商品の価値は高騰させられるわけです。

逆を言えば、そういう商品だと理解したうえでエンジニアリングすれば、

 どのような責任意識で臨めばいいか
 どのような提案をすべきなのか
 どのような観点で設計すればいいか
 どのような思想でテストを考えればいいか

なども見えてきます。当然、実際のソフトウェア(システム)の品質や機能だけでなく、使い勝手などまでも総合的に向上することになります。

ただ、いくらソフトウェア(システム)のなかにそのような潜在価値があったとしても、お客さま自身が気付いていなければほとんど理解されません。よってこの潜在的な価値をうまく提示し、理解していただき、正しいビジネスとすることでお客さまが見ている商品価値を高めることこそが、超上流工程…すなわち文系能力を駆使したフロントエンジニアリングの仕事だと考えます。

そのために理系重視、あるいは文系重視に傾倒することがどれほど致命的な事態を招くことになるのかを私たちは正しく理解しておかなくてはなりません。

そして管理職、マネージャー職においても、それらの人材を適材適所できるよう最大限配慮することこそが人的資源マネジメントの本質なのではないでしょうか。

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