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変な客こそ、本命

美奈さんは、もといみなさんは経験ありませんか?

 「あれだけの経験をしたら、たいていのことは何とかなる」

みたいなこと。

私は何度かあります。

少なくともあんな(どんな?)アホみたいなトラブルプロジェクトを多かれ少なかれ改善に向かわせたからこそ現在があるし、あの経験のおかげでたいていのトラブルプロジェクトはなんとかできる自信が身についた…と自負しています。

正直、100億クラスの規模以上になってくるとそこから先は何億、何百億規模が増えたところであまり関係ありません。プログラムに求める複雑度にも限界がありますから、ビジネス向けのシステムであればもうその辺の規模を超えると月もすっぽんも大した差はありません。無限大から見ると1兆も1も大差がない…そんな気分です。

裏を返せば、そういう経験こそが宝なんだな…という気さえします。
まぁ、相応の地獄を見ないと得られない視点なんですけど(:3_ヽ)_

予期せぬ成功ほど、イノベーションの機会となるものはない。
だが、予期せぬ成功はほとんど無視される。
困ったことには存在さえ否定される

P.F.ドラッカー『イノベーションと企業家精神』

通常、経営者にもなろうという人にはなにかしらのビジョンがあるものです。
オーナー社長であれば、企業や事業に対する夢もあることでしょう。
たとえば

 技術もあれば、ノウハウもある。
 そして無事、新製品、新サービスを世に出す。
 当然買いに来てくれる人をイメージしている。

平穏だけどすべてが思い通りで理想的なシチュエーションのみが繰り返されていく、そんな会社を思い描いているかもしれません。

しかし現実はそんなに甘くはありません。

 想定外の客が現れる。
 腹が立つ。

というシーンは往々にして起こることです。世の中が個人のイメージ通りに動くわけがないと知識としては理解していても、そうならないことにストレスを抱く人がほとんどではないでしょうか。

けれどもドラッカーは「変な客が来たら、それが本命の客だ」といっています。ラッキーで、チャンスと言っているのです。"予期せぬ客"というカモがネギならぬイノベーションを背負ってきたもので、むしろ手厚くもてなさなければなりません。

ドラッカー自身が調べたところでは、成功したイノベーションのなかで最も多いケースが、この"予期せぬ成功"が寄与していたというのです。

個人的にはこんな言葉も浮かんでくるほどです。


たとえばITの初期をイメージしてみてください。

そもそもコンピューターというのは科学計算用として開発されました。私も大学生の頃はFORTRAN(フォートラン)という科学技術計算用プログラミング言語を学ばされました。まぁ間違いなく社会に出れば使いませんけども。

そしてその後、事務用としての需要が見つかったのです。事務用の購入先である企業を真っ先にとらえたのがFORTRANを開発したIBMでした。

当時、技術的にIBMに先行していたユニバックは対企業という予期せぬ客のニーズに応えようとしていませんでした。精緻な芸術品の象徴たるメインフレーム・コンピューターは給与計算などという俗なもののために開発したのではないという認識だったのです。

しかし、IBMは率先して小型化やユーザーフレンドリーを売りに客層を広げることを考えていきました。結果、需要に対して供給をおろそかにしたユニバックはIBMに徐々に市場を独占されていくことになっていった…という経緯があります。

マネジメントにとって、予期せぬ成功を認めることは容易ではない。勇気が要る。同時に現実を直視する姿勢と、間違っていたと率直に認めるだけの謙虚さがなければならない

P.F.ドラッカー『イノベーションと企業家精神』

好き嫌いやプライドなど、およそ業務には全く無意味な主観的感情こそが新しいイノベーションを阻害する大きな要因となることも多いのです。

そういえば最近関わっている超大手SIerのプロジェクトマネージャーは、ご自身の考えに固執するあまり、周囲の意見や顧客のニーズに見向きもしません。その結果、顧客側は(失敗されても困るので)歩み寄ろうとあの手この手を考えて問題が起きにくいよう配慮しているのに、SIer側だけが勝手なことをしてどんどんプロジェクトの状況を悪化させている…なんて状況です。

本当に、我が道を行くだけでいいのでしょうか。

大事なことをどこかで見落としてはいないでしょうか。

 「成功したいのか」 ⇔ 「我を貫きたいのか」

ビジネスである以上はどちらを選ぶべきかは明白なはずです。

個人はともかく、少なくとも組織としては前者を選ぶべきです。そうでなければ従業員に適切な給与を支払うこともできません。そして組織がそうである以上、その組織に属する個人は組織の指し示すベクトルに従うべきで、そのベクトルの中で最大の成果を上げる具体的な手段については自由が認められているのだと思います。

ゆえにイノベーションというものは、常に己が今立っている場所を俯瞰して、その状況下において柔軟な思考価値観を持つようにしなければ、結局周囲の流れに逆らうだけで自ら逆境を作ろうとしていることにほかなりません。そうなってしまうと、もう成功できるか否かは、運に身を任せるしかなくなってしまいます。

己の力量でコントロールしないプロジェクトマネジメントなんて、もうマネジメントとは言いませんよね。そうならないよう、ビジネスにおいては状況を見定め、己に与えられたミッションの効果を最大化させることを最優先に考えるようにしましょう。

少なくともエゴまみれな人に務まるような代物ではありません。

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Takashi Suda / かんた
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