顧客の言いなりになるのが仕事ではない
先日、あるプロジェクトにて、開発の進め方が非常に属人的で、わかりやすく言えば「一応作るものは決まっていたが、ルールのあまり明確でない中でエンジニアの主観的な感覚で開発してた」状態になっており(そこはお客さまもある程度容認されていたみたいですが)、納品後にテストさえちゃんと実施していれば新人でも見つけられるような初歩的なバグが発見され、お客さまから
「画面開けばわかるようなバグが何で残ったまま納品されてるの?
なんでこの程度のことがテストもされてないの?
したの?したなら、なんでこんなのが残ってんの?
おたくの開発プロセスってどうなってんの?」
と叱られると言う恥ずかしい問題があり、現場のリーダーやマネージャーは何一つ答えることができなかったそうです。後日、部課長がそろってお客さまのお怒りの内容を聞いて来たそうですが、お客さまからは
「今後どう進めていくつもりなのか」
「会社としての開発プロセスはないの?」
「たとえば設計書の作り方とか」
「レビューするにしても、チェック方法とか整理されてないの?」
といった感じで、色々と不満を述べられたと言うことです。
お客さまのお怒りはごもっともだ、と私も思います。10人近いメンバーが常駐していますが、おそらくは月々1000万前後のお金をお客さまから頂戴していて、その金額に見合った価値提供をしなければならない義務を私たちは負っています。
その義務を果たせていないまま、お客さまに納品しているのですから、いくらその契約形態が準委任(業務委託)だから成果物責任はない…と言っても、その業務を「きちんと遂行した」とは言い切れません。なにせ、プロセス(仕事の仕方)のどこかに欠陥があるからこそ納品後にも初歩的なバグがお客さまの手によって発見されているわけですから。
これで言い訳するようでは、まともなIT企業人とは言えません。
かれこれ何年もの間、私たちの会社が継続してお付き合いさせていただいてきたお客さまとの関係性ですが、今回、あまりにも稚拙なバグを見せつけてしまったことで、「本当にテスト確認してんの?」と言う不信感を抱かれたらしく、現在お客さまからは、別の業者への鞍替えも検討されているようです。
おそらくは、半分脅しで半分は本気でしょう。許容期限内に改善されたと証明できなければ、本当に商流が途絶えるかもしれません。
お客さまとしても、来期の予算を考えなければならない時期ですし、当然、来期以降も何かしらのIT投資はあるでしょうから、最低限でも今期中に
「もう二度とこのような初歩的な問題を起こさない」
ことを証明しなくては納得はしてくれません。そして、起きてしまったことに対してお客さまが怒り、そのうえで私たちに求めているのは、まさにココ!『再発防止』にこそあります。むしろ、これ以外にやってほしいことなんてありません。
まだ今期中は継続して今の納品したシステムに対する機能追加や改善もあるようなので、従来の契約上の活動をしながら…と言うことですから、たとえば
「今までの開発の仕方をリセットして新しい進め方に切り替えろ」
等と言うことを期待しているわけではありません。かれこれ何年もほぼ固定のメンバーで進めてきて、多少の問題はあったようですが、逆にいえば問題が無かった時期もあったはずです。つまり、今までの進め方を全否定する必要は無いはずです。
ですから私は
①現在までの進め方をすべて整理し、図表化する
②過去に遡って全ての問題を整理し、①のどこに不備があったのか特定する
③①にて特定された問題個所の進め方を改善する
④今後、進め方は③にて定めた進め方にする
とすることで、既存プロセスに対する最小限への変更コストのみで、従来の開発にもほぼほぼ影響なく進められるように現場のリーダー/マネージャーに提案をしてみたのですが…
彼ら曰く、
「いやでも、お客さまからは、
会社としてのプロセスはないの?って言われてるし。
設計とか、レビューとか…」
の一点張り。確かに、
「今後どう進めていくつもりなのか」
「会社としての開発プロセスはないの?」
「たとえば設計書の作り方とか」
「レビューするにしても、チェック方法とか整理されてないの?」
とは言われているようですが、それはお客さまが私たちの会社を信用するために、何かしら根拠が欲しくてたとえ話を出したにすぎません。お客さまが求めているのは、
「現状のプロセスの改善」「問題の再発防止」
であって
「是が非でも、会社としてのプロセスを見せてほしい」
と言うことではありません。そんなこと、お客さまの立場になってみればわかるはずです。「会社としてのプロセスを見せさえすれば、現場はその通りにしていなくて問題を起こしていても満足するのか?」と言うとそんなことは絶対にありえません。逆に「会社のプロセスがどうあれ、顧客の事情や技術要素、業務体系によって、最適化された現場のプロセスの方がスマートで成功する」と言うのであれば、そちらの方がいいに決まっています。お客さまが本当に求めているのは、そういうことです。
にもかかわらず、思考を停止し、お客さまの言った言葉尻だけをとって、「自社基準のプロセスが無ければいけない」「お客さまがそう言ったんで」と、とにかく頑なでなんか現場のマネージャーが勝手に資料を作り出しているのです。
これから2カ月半の間に現状の問題点を克服して、且つ現場のメンバーで実行に移し、その効果測定を行い、お客さまに提示して安心していただく…というところまで進め、信頼を回復し、来期以降も継続して注文をいただけるようにするのが先決なのに、「個人が」「勝手に」「会社の冠背負って」「開発体系を」「1から作る」なんて現場の開発を抱えながらできるわけがないじゃないですか。
そんなの、今の会社で本当にできるのなんて、私含めてもう1人いるかいないかってところですよ。今まで何年も何十年も携わっていながら、つい先日までまともに言語化したことが無くて、ずっと属人的な開発しかしてこなかった人に作れるわけがありません。
仮に作れたとしても、残り2ヶ月半のうちにいつ完成し、いつお客さまに提示するのか、まったく予想できません。ただでさえ、1週間かけて「工程の名前」決めただけしか進んでいないような進捗スピードですよ(名前なんて適当でもいいので、私なら5分で終わるレベルです)。どう考えても残り6週間でどうこうするなんて無理に決まってるじゃないですか。現実が見えてないとしか言いようがありません。
仮に今から、それを現場のマネージャーが作るとして、その作業にかかった工数はどうするのでしょう。当社の赤字になるのか、それともその分を追加請求するのか。ですが、そんなの追加請求しようものなら、お客さまも完全にブチ切れると思います。
ただでさえ4Q(第四四半期)に入って、通常は今期予算が枯渇する頃。
稟議や決裁申請をすれば、予算の捻出はできるかもしれませんが、一般的に嫌がられますよね。計画外予算が多くなればなるほど、
その企業の「予算計画」は粗い(信用できない)
ということを世に知らしめることになるわけです。非上場企業なら監査法人にチクチク言われる程度なのでまだしも、上場企業の場合は投資家から色々と物言いが入るかもしれません。
つまり、計画精度の低いマネージャーは経営層から見ても信用できず、「面倒な部下」として見えますし、部長や課長も同罪扱いとなるので非常に嫌がられます。経営層に上がるチャンスすら棒に振る可能性もあるわけですから(いやまぁ、社内政治力次第…なのかな?)。
そういう背景を理解していれば、受注した活動以外の仕事を勝手にすると言うことが、どれだけお客さまに迷惑をかけることになるか、すぐにでも気づくはずです。だからこそ、私は「最小限」のコストで、最大限のパフォーマンスを提供するための方法を提案しているのですが、どうにも聞き分けがありません。ただただ、お客さまが言った言葉が全てにおいて正しいらしく、他部署の、そして他人の意見は聞く気が無いようです。
お客さまが本当に望んでいることと、お客さまが言っていることが乖離する…なんてのはIT業界においては日常茶飯事ですし、派遣契約で常駐しているわけではないのですから、お客さまもそんなロボットみたいな人を欲しているわけではないのがフツーと思うのですが…。
一般的に、非IT企業の方々にとって、IT企業のエンジニアと言うのは専門性を持ったプロフェッショナルと言う認識を持って接してきます。ですから、ただのロボットではなく、プロとしての姿勢を持って、時に提案してくれたり、思考のフォローをしてくれたり、そのうえで仕様が確定すれば、誰よりも高いITスキルを持って、要求を実現しなければなりません。
それなのに…。
言いなりになるだけでいることが正しいと思い込んでいる人たちに囲まれ、何を言っても聞く耳を持とうとせず、「じゃあ、自己責任で好きにすれば?」とも言わせてもらえず、かと言って客のために会社のために何を言っても取り合おうともせず、八方塞がりな状況に陥っています。
代わりに開発プロセスを作ってあげることは可能です。
おそらくは1~2週間もあれば、150~200頁超のマニュアルができるでしょう。元々、私の中にはほぼすべての工程のほぼすべてのノウハウが詰まっています。既に文書化しているものも大量にあります(誰も読もうとしませんが)し、現場の成果物様式等にあわせてテーラリングして見直すだけなので、そんなに時間はかからないと思います。
一方で、最短で作ろうとすると問題も出てきます。
・スイッチングコストを最小にしようと思ったら、
今の現場に即して作成する関係上、会社全体で応用できない
・今の会社自体、技術領域が広すぎて、1つにまとまらない
こうした問題を抱えたまま、現行プロジェクト向きのモノを作っても、逆に彼らはそれでお客さまの怒りが静まったら、一切中身は読まずに元の木阿弥に戻ってしまうことでしょう。
そもそも今まで誰の意見も聞かず、我流で進めてきた人たちにとって、ルールや規定をしっかり読み込んで順守すると言う考え方が無いのです。それは、今まで何年も何年も色々な部署の色々な人を相手にしてきて、嫌と言うほど身に染みてわかっています。
ルールがあっても、絶対に読まない
ルールを読んでも、決して守らない
つまり、お客さまへのポーズだけであって、一切今までのやり方を変える気が無いのです。「エゴ」が強く「自己中心的」で「事なかれ主義」的な人たちって、誠実さのかけらもなくってまったく敬意が払えませんよね。もちろん、そんなことにしか使わない人たちのために、私が労力を費やしてあげる義理もないので、現時点でアドバイス以上のことはするつもりもありません。
ただ正しいことをすればいいだけのことなのに、なぜこんなにも世の中っておかしなことばかり行われているのでしょう。
どんなに能力が低くても素直な子なら大抵のことは指導できる自信がありますけど、プライドのせいか、歳のせいか、凝り固まった頑なな考え方を持って、そのうえで問題を起こすような人の相手は、時間をただ浪費させられているような感覚に陥るので、精神的にしんどいです。
本当、毎日がストレスだらけです。