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不正を働く可能性を低くする方法

誰しも自分の価値観を大切にして、自分らしく働きたいと思っていることでしょう。調査では、

「仕事をしているときの自分」と「仕事をしていないときの自分」のアイデンティティが一致していると感じる人は不正やごまかしを働く可能性が低い

ことが判明しています。

そりゃそうですよね。今のままの自分でいれば問題なく進めることができると言っているのですから、そこからさらに不正やごまかしといった本来であればする必要のなかった冗長的な活動をわざわざ苦労してまで加えようとする意味がありません。

それに比べ本音建て前をわざわざ使い分けなければならない、または使い分けることを強要させるような組織では、意図的な不正や責任回避のためのごまかしをしていかなければロクに進めることができないわけですから、そうした行為が横行してしまうのは当然です。

不正のトライアングル

通常、人はみな、自分に正直に仕事をしていると感じたいものです。

たとえば、環境問題や学ぶ機会、子育てを大事に考えている社員や入社希望者は、その価値観とぶつかったり、それを妥協させられたりするような仕事は「やりたくない」と思うでしょう。

職場でもあるがままの自分を表現してもいい、それによって評価が下がったり、成長や昇進の機会を奪われたりしない…そう感じたいということです。

それが、社員に「ありのままの自分」で働いてもらおうという考え方です。

こうした考え方が最近広がっている背景として、企業で働くミレニアル世代(1980年から1995年の間に生まれた世代)が増えていることがあげられます。実際にいまでは米国のどの世代の労働力よりも多く、2017年時点で米国の被雇用者全体の35%がミレニアル世代でした。

これはジェネレーションX(約33%)よりわずかに多く、ベビーブーム世代(25%)をゆうに超えています。そしてミレニアル世代は自分の価値観と一致するブランドの商品を購入し、そうしたブランドで働く傾向が強いことで知られています。

しかし、企業と社員の価値観を一致させるのが重要であることには、そうしたミレニアル世代の台頭と言う要因以外にもある明確な理由があります。

それは、

 モラル崩壊の防止

です。

最近の調査の結果、自分らしく仕事に打ち込める職場で働く社員は自分を「偽りのない本当の自分」だと感じ、それが結果的により倫理的な行いにつながりビジネスリスクを軽減していることがわかっています。

アイデンティティの統合性が低い(自分に一貫性がないと感じる)人は自分をごまかしているという意識が強く、結果的に「倫理に反する行為に走る」傾向が強くなることがわかっています。

これはアイデンティティの統合を感じる状況と感じない状況に無作為に置く実験を行ったときの結果です。

具体的にはまず「誰にでも複数の自分やアイデンティティがある」、すなわち仕事をしている人には「仕事をしているときの自分」「仕事をしていないときの自分」の大きく分けて2つのアイデンティティがあるとあらかじめ伝えました。

その後、その2つの自分が「相矛盾し、二分されている」のか、それとも「矛盾なく統合されている」のかを考えさせ、そのように感じた具体的な瞬間を例として挙げさせたものです。

自己矛盾・二分性があると感じた(統合性が低い)人は一貫してぶれがないと感じた(統合性が高い)人よりもごまかしている意識が強く、不誠実な行動をとる割合が高かったということです。統合性が低いほうの集団は、統合性の高い集団に比べて(裏表を当てる)コイン投げで正解した回数を偽って報告する傾向が見られました。

職場を対象に行った別の調査では、自分の統合性を低く評価した社員はごまかしている意識が強く、職場での不正行為に関する上司へのヒアリング結果と照らし合わせると倫理に反する行動をとる傾向が強かったのです。

たとえば、それぞれの社員がお金に関わる不正(「経費精算において領収書の金額を改ざんする」など)や、対人関係における不正(「仕事上で誰かに卑劣ないたずらをする」など)を働く可能性について上司に評価させたところ、全体的に見てアイデンティティの統合性の低さ…つまり自分らしくふるまえないことはごまかしの意識につながり、それは職場やその他の場所での倫理に反する行為と結びついていることがわかったのです。

言い換えれば、

 赤信号 みんなで渡れば 怖くない

を地で行っていることが証明されたと言うことです。「ダメ」なことと分かっていても言い訳できる理由が与えられれば、「ダメ」なものを「ダメ」と言えず自分も同じように倫理に反してしまう…と言うことです。

企業の中に、倫理的に正しくない人、あるいは倫理的に正しくないことを強要してでも目先の数字にばかりこだわる人がその人が上司や上役に立ってしまうと正しくない行為を直接行ったり、正しくないことをする人を擁護したりします。

そうすると、周囲は「ここではそれが許されるんだ」「1人だけ真面目に行動しててももったいない」と免罪符を得た気になってしまい、企業倫理全体にヒビが入ってしまうことになります。つまり社員に自分らしく働いてもらうことは、

 企業にとって非常に意味のあること

だったのです。

そして社員のアイデンティティの統合を支援する具体的な方法には次のようなものがあります。裏を返せば、全く逆のことを推進している企業ではすでに組織内で不正が発生しているかもしれないということです。

ある程度自主性に任せる

仕事のやり方を自分なりに工夫できるようにすると、社員の「自分らしくある」という意識を強める大きな助けになります。

この

 「ジョブ・クラフティング(仕事を創ること)」

の範囲には業務内容や人との関わり方(メンタリングやミーティングなど)、さらには自分の役割に対する社員自身の認識も含めるとよいでしょう。

組織の使命や理念を有言実行する

組織の使命や理念は壁にポスターを貼ったり、マニュアルやレポートに書いたりするだけでなく、社員にはっきりと伝えましょう。そうすれば社員は使命や理念と自分の行動とを結びつけやすくなります。

 『有言実行する』

ということは実行中の内容を社内で共有する、体現している社員を評価する、そして理念に共感するサプライヤーや取引先とつき合うということです。

企業がその使命や理念に反したときは、社員にもわかります。

そのため、そうしたことがあからさまにあるいは密かに起こっていないか、互いを尊重し合うことを規範にしているのに、社員と上司の足の引っ張り合いを黙認していないかなどを注視しましょう。

プロセスと方針の透明性を高める

いわゆる可視化です。

上記に関連しますが、採用、昇進、サプライチェーン(要するに開発業務)など、何に関しても会社としてどのように行っているのかを全社員に明らかにすることです。

透明性に関する企業方針の表明とそれを裏打ちする行動は、社員が大切にして必要とする真正性、信憑性の重要な部分になります。透明性…つまり様々なプロセスや活動、成果などが見える化(可視化)できるようになれば、

 「誰が」「(具体的に)何を」やっていて、
 「どれだけの」成果を出しているのか

がわかるようになり、同時に

 「誰が」「何を」やろうとしていないのか、
 そのせいで「どんな」結果になっているのか

も見えるようになります。なかでもコストの動きと成果を結び付けられるようになれば、少なくとも冗長的な出費の多くは抑えることができるようになるでしょう。結果、"やましい"ことを自覚している人たちの行動が目に見えて変わるようになるはずです。

強制力は強くしすぎない

信憑性ある情報を常に求めようとする社員のニーズを何でもかんでも満たそうとしないことです。年配層や元々倫理観の薄い人をはじめ、アイデンティ統合を強く意識している社員ばかりではないからです。

使命や理念の促進に努めるのはよいことですが、いつもありのままの自分を出すことを一斉に強要するようなことはしないほうがよいでしょう。

これから入社してくる社員たちにとっては、徹底させてもいいかも知れません。しかし、既存社員には既に自分自身の「形」が出来上がっている人も多いため、無理強いすればパフォーマンスが出なくなることも考えられます。

組織づくりのエクササイズは、頻繁に行うほど効果が上がるものでもありません。社員のニーズは一括りにはできないことを理解し、できる限り個別に把握し、対処する努力をすると良いでしょう。

とはいえ、社員に自分らしく正直に働いてもらうことの重要性を認識し、そうした真正性、信憑性を明確にした職場づくりに積極的に取り組めば、社員が倫理に反する行為を犯すリスクの軽減にもつながることを覚えておきたいものです。

要するに、社員のアイデンティティ統合ニーズを満たすことは、全社にわたりモラルの徹底を図りたい企業ニーズに応えることでもあると言うことです。

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Takashi Suda / かんた
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