コミュニケーション不良の要因となる語彙力
今、世間では大人の言葉遣いが問題になっています。
子どもっぽい話し方をしている、社会人らしく見えない。
そして、そのことで損をしてしまう。
そういう人は確実に増えているように見えます。
特に、当社のような技術力主体の企業の場合、就活に訪れる学生にもやや「コミュニケーションが苦手」と言う人が多いかもしれません。就職活動の際、あまりにも学生言葉、子どもっぽい言葉遣いをしてしまうと、
「この人は社会に出すにはちょっと不安である」
「その教育を担うだけの余裕がうちの会社にはない」
というふうに判断をされて不利になることもあるのは言うまでもありません。ですから、学生は就活のために、事前に勉強したり、文章を作ったり、リハーサルを繰り返して面談や面接に挑むわけです。
しかし、こうしたことは就活よりも、ビジネスの中でこそ本当は求められていますし、実際にビジネスの中で駆使しないことには、商談や交渉、会議などが上手く進まないことも多々あります。
さらにはメールのやりとりが仕事の中心になってきていることも、大人の語彙力が減っている背景にあるように思われます。メールでの言葉遣いというのは、ちょうど書き言葉と話し言葉が混ざったような新しい文体の文章です。純粋な書き言葉と違って、メールというのは話し言葉のような気安さも少々含んでいます。話し言葉の伝統と書き言葉の伝統の重なる部分が、ちょうど今メールという形で非常に拡大してきているのです。
“きちんとした大人の言葉遣い”という点で、ベースになるべきは、書き言葉です。しかし、今SNSなどで話し言葉で文をつくる傾向があるので、それが失われつつあるように思います。
必要なのは、語彙を増やすということ、語彙力を高めるということです。
日本語の語彙は大変豊かで、1つの意味を表現するだけでも何種類もの語彙が存在します。ですから、1つの言い方だけではなく、「言い換える力」を身に付けていくといいでしょう。こうも言えるし、ああも言える、あるいはニュアンス的にはAよりもBのほうがよりニュアンスが伝わる、といったように、細かなニュアンスが伝わるように言葉をセレクトする力が語彙力というものです。
語彙力がない人は、決まりきった言葉、あるいは子どもっぽい言葉しか使えません。そうすると、正式な場面でのあいさつ、たとえば
・結婚式
・葬式
・みんなの前でプレゼンテーションをする
・会議を取り仕切る
等といった場面で恥をかくことにもなってしまいます。
そこで、フレーズとしてまずは使いこなせるようになっておくとよいでしょう。たとえば、次のような例を見てみましょう。
なるほど
会話の中で相手に同意をすると、相手も安心して話をしてくれます。
「なるほど」は、状態や理屈を確認し、納得することを示す言葉です。
会話では相手の言葉に同意する気持ちを表します。
相槌として使いやすいため、クセのようになって連発してしまう人が多いようですが、多用していると、「ちゃんと話を聞いているのか」と相手に疑念を抱かせる恐れがあります。
また、目上の人に対して使うと尊大な印象を与えるので、頻繁には使わないのが基本です。
「おっしゃるとおりです」
「確かにそうですね」
「ごもっともです」
大丈夫です
「大丈夫」も普段さまざまなところで使います。
たとえば「その仕事1人でできる?」と言われて「大丈夫です」、また「手伝おうか?」と言われて「大丈夫です」など、便利な言葉ではありますが、最近は「心配ありませんよ」という意味や拒否の意味でも使われるため、意味がとりにくいことがあります。
「心配ありません」という意味でしたら、
「問題ございません」
「差し支えありません」
という言葉が丁寧ですし、「不要です」ということを言いたいなら
「お気持ちだけいただきます」
と言ったほうが伝わります。
ぶっちゃけ
「ぶっちゃけ」は、ぶっちゃける(打明)を略した語です。
「ぶっちゃける」は「ぶちあける」から転じた言葉で、"隠すことなく語る"という意味です。
「ぶっちゃけ」は、2000 年代から使われるようになり、2003 年にテレビドラマで俳優の木村拓哉さんがセリフで多用したことから、一般に浸透しました。
まさか目上の人に「ぶっちゃけ、言わせてもらいますが…」などと口にしている人はいないとは思いますが、つい仕事の場面で使ってしまう方もいるのではないでしょうか。
言い換え表現としては、
「ありていに言えば」
があります。「有り体」は、ありきたりなこと、ありふれたことのほか、ありのままであること。「ありていに言えば」は、「隠すことなく」という意味です。ほかにも、
「率直に言うと」
「本音を言うと」
などの言葉も近い言葉です。
まとめ
語彙力の低下は、そのままコミュニケーション力の低下につながります。
語彙力がないために、ビジネスシーンでの会話が思うようにままならず、話したい時に、話したい内容を、ビジネスとして表現することができないか、あるいはその自信がないために不安が膨張し、そういった場に出ようとしなくなるからです。
そして、ビジネスとしての語彙力が低下すると、当然文書の中に記載する言葉も、その質がどんどん低下することになります。
限られた語彙しか知らなければ、その限られた語彙の中でしか表現ができません。そうすると、500語の語彙を持つ人と、20語しか語彙を持たない人との間で作成された
・議事録
・仕様書
・設計書
などは目に見えて差がつくことになるでしょう。
そして500語であっても、20語であっても、読み手によって正しく伝わる内容であればまだしも、20語の語彙では表現があいまいすぎて、読み手の解釈次第で読み誤る可能性も出てくるようになると、その文書は"粗悪な品質"と言う評価を受けることになりかねません。
ありとあらゆる活動において、最終成果物ができるまでの過程に作成された成果物を『中間成果物』と言いますが、この中間成果物の品質が悪いと、最後に出来上がる最終成果物にまで影響が出ます。
中間成果物の品質の大半は"コミュニケーション能力"によって担保されていますから、その中でも最も影響を与えやすい"語彙力"が欠けていると、技術力がどんなにあっても、正しい製品を作ることが困難になってしまうと言うことを覚えておきましょう。
今のご時世、どんどん国語力だけでなく、コミュニケーション能力が低下しつつあることの一例と言えます。
そしてそれは、伝える側だけでなく、読み取る側にまで問題が波及しており、このままでは会話、メール、文書などを用いた通常のビジネスコミュニケーションは正しく機能しなくなる可能性も含んでいると言えるでしょう。
おそらく、ビジネス領域においてはAIにとって代わられることでしょう。でも、人間同士の日頃のコミュニケーションすらままならなくなるほど読解力が低下してしまったら、もはや集団活動や助け合いという生き方はできなくなってしまうかもしれません。他人と意思疎通を図ることができないということだからです。
とはいえ、未来を悲観する前に、まずは自身のコミュニケーション能力です。
他人をどうこう言う前に、まずは自身がしっかりできていなければ、自分より若い人材が入社した際、あるいは子供に対しても、しっかりとしたコミュニケーションを見せられる先輩/先人にはなれません。
苦手だから向上努力を怠っていいものではないため、苦手は苦手なりのペースで日々精進するようにしましょう。
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