ベンチマークがただの飲み会になっていませんか?
宇宙一外食産業が好きな須田です。
さて、今日は新業態を開発する際に、ベンチマークが大事ですよというお話しの昨日の続きで、具体的なベンチマークの行い方をご紹介したいと思います。
先だって昨年末から継続していたある案件のために、ベンチマークの目的でクライアントに同行して名古屋まで行ってきました。
名古屋で大繁盛しているお店であり、あらゆる媒体で高評価を得ている素晴らしい業態でした。
競合になり得る可能性もあるということもあり、勿論素晴らしい評価を得られているお店なので、商品もサービスも環境も参考にさせて頂き、学ぶことを目的でお邪魔しました。
たまたま、急遽先に予約さていた方のキャンセルが出たとかで、希望日に訪問することが出来ました。
待ち合わせ時間よりも少し前に名古屋入りして、社長・常務と駅で落ち合ってからお店に行きました。
さて、入店してから個室に通していただき、ドリンクをお願いして待っていると、料理長らしき方が来られて、予約していたコースの説明が始まり、本日の食材を紹介され産地はどこであるとか、等級はチャンピオンであるなどの解説をしてくださいました。
実はこの方はこのお店の経営者であり料理長も兼任されているようでした。
コースが始まり、一皿一皿提供されていきましたが、だんだんと社長と常務の雲行きが怪しくなり、最初はビールを飲んでいたにも関わらず、「焼酎は何があるの?」と言い出しました。
一応置いてはありましたが、このお店でベンチマークをしているこの段階で焼酎でなくてもと、私は思いながらおりましたが、お酒がすすむにつれて、そのお店の悪い点、気になる点を指摘し出し、サービススタッフにお店のことを根掘り葉掘り聞くようになってしまいました。
全ての料理が終わってお店を出るころには、相当に酔われておられて、お店を出てからの開口一番が、「なんでこんな店が流行っているのか、わしにはわからん。名古屋人は味を知らんのか!」
「名古屋まで来て大損した!なんの参考にもならんかった」と叫ばれました。
結果として、ベンチマークは、大失敗です。
素晴らしいお店の素晴らしいポイントを見つけることも、どのポイントがこの地域のお客様の心に響いているのか、繁盛ポイントが何なのか、全く観察することなく終了しました。
本当に、時間も経費も労力も無駄になってしまいました。
私個人は色々と情報を得てきましたので、無駄な部分はありませんでしたが、肝心のクライアントが「わからん なんでこんな店が良いんですか?」 と、お店の良さを感じようとせず、何度解説してもご説明しても、美味しい美味しくないの感想を述べて終わってしまいました。
その後も何度か同じクライアントと、幾つかの参考店のベンチマークに行きましたが、状況はほぼ同じ感じでした。
実はこのパターン、非常に多いんです。
過去に何度となくクライアントとベンチマークに行っておりますが、参考店の良いポイントを探ることなく、自店と比較して「ウチの方が美味い、ウチの方が金がかかっている、ウチ方が勝っている」と叫ぶ社長のなんと多いことか。
冷静になって感じることも、観察することも、
良い点を参考にすることもせずに、ただ食べて飲んでに、
終始してしまう方が本当に多いです。
何故、参考店にお客様が足しげく通うのか、何が集客力の原動力なのか、商品のどこのポイントがお客様を引き付けるのかを探すことをしないで、出てくる商品の写真だけをバチバチと撮っていきなり食べ始める方がほとんどです。
勿論、いつも必ずベンチマークに行く前にはベンチマークの意味と意図、実際にどうやって商品を食するのかなど事細かにレクチャーしますが、多くのクライアントはお酒が入ってしまうと、ほぼ同じ行動になってしまいます。
いきなり愚痴の様になってしまいましたが、ベンチマークの重要さに気付かれていないために、ただの飲み会の延長になっているケースがほとんどです。
使っている食材を分析することもなく、調理法を検証することもなく、産地も食材のカットの仕方も下処理のやり方も、味の方向性も香りを感じることの無く、ただ口に商品を放り込んでいく方が本当に多いです。
一品一品説明しながら、分解して食材をお見せしていても、私の話しを聴くこともなく、パクっと一口で食べてしまいます。
そういったクライアントをたくさん見て来ました。
その結果、参考店の商品から何かを得ることは無く、ただいつもの通り自社のスタッフに商品開発を依頼して、出てきた商品に対しての感想を述べる経営者のなんと多いことか。
これでは社員を引き連れてベンチマークをすること自体が、経費と時間と労力の無駄です。
私はこのようなクライアントとのベンチマークは、
次回からは中止するようにしております。
如何でしょう、あなたはベンチマークでこのようなことはなさっていませんか?
お好きなお酒を飲んで、同行したスタッフにもお酒をバンバンおすすめして、気がつけば会社経費で宴会のようなベンチマークにはなっていませんか?
ベンチマークとは、自店よりも参考店の何が優れているのかを消費者視線で感じ、学び取ることが目的です。
絶対に消費者そのものになりきってはいけません。
消費者視線でプロとして感じて観察して分析することが目的です。
どこの何が自店よりも優れているから、消費者は自店ではなくこの参考店を選択するのかを素直に学び取る作業です。
気付きを得る最大のチャンスがベンチマークという行為です。
ですから、自店と比較することは大事なことですが、「ウチの方が優れている」と自意識過剰な意見や認識不足は自戒すべきです。
数年前、事業継承された40代の二代目の社長と都内のある業態をベンチマークしたことがありました。
そのお店は西麻布のちょっと奥まったところにある繁盛店でしたが、私も勉強不足で知らないお店でしたが、本当に素晴らしいお店でした。
ベンチマークの同行をお願いされた時にシンプルに伺いました。
「社長今回のベンチマークの意図は何ですか?」と。
すると明確な答えが返ってきました。
「このお店のある商品が非常に気になっている、自店ではそのままではお出しできないがヒントが欲しい、そして最後に出てくるデザートの評価が抜群に高い、デザートにたどり着くまでの商品の流れと味の変化、デザートでどのような印象を自分が感じるのかを、自分の感性のみだけではなく須田さんのプロとしてのお考えも併せて体験したい。」
ベンチマークの意図をご理解なさっているなと感心しました。
先代の社長にきちんとした教育をされた結果なのだと、改めて先代の創業社長の素晴らしさも感じた経験でした。
その二代目社長と実際に店舗に伺い、コースの途中で目の前で板長が気になっている商品の準備を始めた瞬間から、私たちの会話は全て止まりました。
一瞬たりとも気をそらすことなく、全てを記憶しておりました。
素材の扱い方、カットの方法、火入れのタイミング、音と香り器の誂えまでを一瞬たりとも注意をそらすことなく凝視しておりました。
あまりの凝視に、料理長が「緊張してしまいます」と言い出すほどでした。
提供された一品はまさしく逸品で、素晴らしい仕上がりの料理でした。
香りを感じ、素材を分解し一口一口丹念に吟味するように食し、ある程度してから全ての食材を一口頂き、食感と鼻腔に抜ける香りの感じとのど越し、後味と余韻の長さを感じておりました。
私と同じことをその若い社長もなさっていました。
その後幾つか料理が出て来て、〆のご飯もお椀も終わり、デザートになった時に、お茶を進められました。
後で理解出来ましたが、デザートが素晴らしい理由は実はこのお茶でした。
品の良い香り高い中国茶でしたが、その香りとデザートの相性が素晴らしく、お椀を飲み干したあとの、出汁の旨味を上手に消しさりつつも、お茶の旨味と出汁の旨味をわずかに残しつつ、デザートにたどり着くという感じでした。
計算された流れでした。
大満足のひと時であり、多くの学びを得られた瞬間でした。
そこからが大変でしたが、楽しいひと時でした。
社長がお泊りのホテルのラウンジで、深夜まで今まで経験したことの分析と、自店ではどこまで再現ができるか、どこまでを模倣すべきか、アイデアを膨らませ思考錯誤を繰り返しました。
電車が無くなるので、私はその日のうちには帰していただきましたが、次の日も朝8時にホテルに到着し、朝食を共にしながら、午前中に考えを纏められておりました。
メインで4品とデザートで4品もデザインを打ち合わせしており、ほぼ最終候補がいており、最終の現場のスタッフで検証の件を経るだけの状況でした。
その4日後に試作品の参考写真が送られてきて、コメントが添えられておりましたが、そのコメントを読んでいると、新たな課題が見えて来ましたので、解決策のヒントを送るようにしました。
その2週間後に完成品の写真とお客様の感想が届きました。
ヒットを仕掛けられる商品が産まれた瞬間です。
ベンチマークとはこうあるべきと、強く感じた経験でした。
さて、明日は、具体的にどのようにしてベンチマークを行えばよろしいのかの、手法を公開します。
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