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【超解説】 映画も小説もシェイクスピアだらけで解説できません

When we are born, we cry that we are come
To this great stage of fools.
(我々は産まれた時、泣いてしまうのさ、
こんなバカばっかりの舞台に上げられたってな)

King Lear, Act 4, Scene 6

これまで映画や小説の元ネタになっている名作として「オデュッセイア」「白鯨」「闇の奥」を取り上げてきたが、シェイクスピアだけは引用が多すぎて避けていた。しかし、前回のnoteで扱った「Vフォー・ヴェンデッタ」がシェイクスピアのセリフばかり引用するものだから、ウォシャウスキー兄弟姉妹を恨むしかない。
日本列島が室町時代の頃、ストラトフォード=アポン=エイヴォンに産まれたシェイクスピアは、有名な著作のほとんどを40代の時に書いた。ちなみに、8歳ほど年上の妻の名はアン・ハサウェイである。大袈裟な顔のキャットウーマンと同姓同名だ。
ウィリアム・フォークナーの小説「響きと怒り」はマクベスの sound and fury から、ヒッチコックの映画「北北西に進路を取れ」はハムレットの north-north-west から、オルダス・ハクスリーの小説「すばらしい新世界」はテンペストの O brave new world から、のように列挙しているだけで疲れてくる。
レオナルド・ディカプリオ主演の「ロミオ+ジュリエット」がシェイクスピア作品の映画化として最も有名だろう。シェイクスピアが他の追随を許さない不世出の才能だったのは、その人間を描く透徹した観察眼と、それを鮮やかに表現する文才を併せ持っていたからだ。詩集である「ソネット集」も大変高い評価をされている。シャーロック・ホームズとディケンズが合体したような人なのだ。
さて、シェイクスピア本人は劇団を所有して、脚本を書きつつ、自ら役者としても舞台に立ち続けた。まさに演劇の人だ。それゆえ、シェイクスピアの作品はほぼ全て舞台で演じられることを前提にしており、時に大仰な台詞も舞台ならではの迫力に満ちている。特に有名な"四大悲劇"と呼ばれる「ハムレット」「オセロ」「リア王」「マクベス」は、誤解と葛藤という"人類普遍の原理"を扱っているので、どこの文明の人でもファンになることができる。それに舞台が前提なので、どの作品も短い。これも大切なことだ。最近の小説は徒に長いものが数多い。優れた作家は短篇が上手いものだ。
ディズニー映画からハリーポッターに至るまで、シェイクスピアの作品からの引用は数え切れないほどあるので、舞台がテーマの映画「バードマン あるいは (無知がもたらす予期せぬ奇跡)」での主人公リーガン(マイケル・キートン)の台詞を紹介しておくことが適切だろう。追い詰められたマクベスの独白の引用である。

Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow
(明日へ、そして明日へ、また明日へ)

Macbeth, Act 5, Scene 5

温故知新である。古典を知れば、映画も世界も違って見えるようになる。

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