もっとも美しい兵器 / 「トップガン」
さて、オリバー・ストーン監督に"ファシスト映画"と呼ばれた「トップガン」は、僕にとって思い出の一作である。父親が買ってきたVHSのビデオテープの中で、おそらくいちばん再生した映画である。留守番の時など、暇さえあればマーヴェリックの勇姿に夢中になったり、エンディングの曲として使用されたチープ・トリックの Mighty Wings を何度も聴いたりしていた。
僕の心を捉えたのは、なによりもグラマンが開発した F-14 (トムキャット)の美しさだった。可変翼を持つ双発エンジンの機体はどんな"メカ"や"ロボット"よりもカッコ良く、父親は僕に F-14 のプラモデルを買ってくれた。いつも机に飾っていたことを思い出す。戦闘機を作る人になるのもいいな、などと考えていた。
ちなみに、よく誤解している人がいるので書いておくと、F-14 は海軍の艦上戦闘機である。空母に積まれている機体だ。「トップガン」は空軍の話ではない。
さて、もちろん当時は英語を聞き取れないので、晩ごはんを食べながら、"おちゅべ、おちゅべ"と父親に言う。言葉の意味は分からないが、音の響きが面白く、弟と2人で"おちゅべ"と騒いでいたら、父親が、それはたぶん Watch your back じゃないか、後ろに気をつけろって意味だ、と教えてくれた。大人になってからそのシーンを見ると、父親の耳が正しかった。
映画は三幕構成のお手本のようなシンプルな筋書きだ。トップガンへ派遣され、相棒のグースを失い、自信をすっかり無くしていたものの、戦線へ復帰してライバルのアイスマン(ヴァル・キルマー)とともに敵機を撃墜、一度は去っていった教官のチャーリーと再会を果たすーー、という、このアメリカ海軍の全面協力の映画は、それゆえに silly (バカげている)かつ warmongering (戦争をけしかけている)だとヴァル・キルマーに批判されたほどだ。ヴァルはスタジオとの契約があったので出演せざるをえなかったそうだ。また、トム・クルーズも映画が公開されてから、本作を fairy tale (おとぎ話)だと思って観てほしいと発言している。当時の僕は戦争云々のことは分からないが、撃墜された敵のパイロットは可哀想だなと思っていた。
一昨年、続篇に当たる「トップガン マーヴェリック」が公開され、2年に及ぶ咽頭癌の治療から立ち直ったヴァル・キルマーも海軍大将の役で出演していた。アカデミー賞はヴァルに助演男優賞をあげたらいいのに、と思った。
子どもの頃は、本当にくだらないことに夢中になるもので、上掲のセリフを聞き取った"とりみつ でねへん コロコロれすたい"は今でもハッキリ覚えている。父親も当時、なんだそれは、とお手上げだった。大人になってからセリフを聞き取った時、じぶんの成長を感じたのではなく、ああいう無垢な心で世界を受け取れなくなっているという一抹の寂しさを覚えた。
そういえば、映画「トップガン」でエンドクレジットが表示される前に流れるライチャス・ブラザーズの曲は You've Lost That Lovin' Feelin' だ。今でもたまに、クルマを運転している時などに口ずさむことがある。映画はこうして少年の人生に思いがけず影響を与えることがある。僕は今でも飛行機や戦闘機が好きだ。それに、今でも、F-14が最も美しい機体だと思っている。