down the river 第二章 第三部〜Thousands of departures〜
※本編を読まれる前に重要なお知らせです。
今回の第二章 第三部〜Thousands of departures〜では女性差別、軽視、蔑視、揶揄する表現が使用されています。
事実に基づき制作されていることと、その時の考えや、ありのままの姿と気持ちを表現する為に内容や表現方法を変える事なく、そのままの内容と言葉で表現しています。女性差別、軽視、蔑視、揶揄することは著者の意向とは著しく異なります。
尚、著者は女性至上主義でもありません。
そしてこの場で議論する気も全くありませんので、ご理解いただける方のみ本編へお進み下さい。
冒頭のお知らせを不快に思われた方へはこの場を借りてお詫び申し上げます。
ユウはS高校の校門の前に立っていた。
今日は合格発表の日である。
何もかも無視してきた。
浦野との関係、敬人との関係、そして母親の憎悪に満ちた幻、全て無視してここまできた。
「胃が痛いわ…マジで…。ウチは貧乏だからなぁ…。滑り止めの私立なんか行けねえよ…。」
小声で得意の独り言を言うと、中へと足を進めた。
職員玄関の前に大きなホワイトボードが置かれており、そこに模造紙が乱雑に貼り付けてある。
遠目にも番号が書かれているのが見て取れるがユウの視力ではまだ良く見えない。
「ハァハァ…ちと厳しかったかな…。何しろギリギリのラインだったから…。ハァハァ…見たくねえな。でも見なきゃなんも始まらねえし、終わらねえ。」
人はまばらであるがユウの独り言は段々とそのボリュームが大きくなっていく。そろそろ周囲に聞こえてしまってもおかしくないボリュームのレベルに達している。
そしてユウは来た。そのホワイトボードの前に立った。
「あ、あ、おぉ!!あった!あったぞ!!ハハハ!やった!」
手を取り合い共に喜ぶ人間はいない。S高校を受験した人間にユウの友人と呼べる者は誰もいないし、一緒に合格発表を見に行く者もいない。
孤独に喜び、孤独にその場を去って行く。
共に喜べる人間がいたならどんなに楽しいことだろうか。ユウは寂しい気持ちを覚えながらも、自分がやってきたことを評価された様な気がして、むず痒い照れと喜びにモジモジとしながら帰路についた。
S高校はユウの家の最寄り駅から2駅、時間にして10分程度で、駅から20分近く歩く。
「ふ〜ん、緊張で全然遠く感じなかったけどこりゃ冷静になってみたらかなり遠いな…。」
ブツブツと文句を言いながらユウは歩き、駅を目指した。
ヘトヘトで駅に着きホームで電車を待っていると合格発表を見に来ていたらしい他校の女子中学生数人が大騒ぎしている。話の内容はどうやら仲の良いグループが全員合格したというものだ。
「ここの駅はS高校しか無いもんな。あいつらS高校生になるわけか…うるさそ…。うざっ。」
ユウははしゃぐそのグループに悪態をつき電車を待った。
「何だろう…すげえ今、どうでもいい気持ちで一杯だ…。誰も友達いねぇし。そしてこれからできる気もしねえし。なんでS高なんか受けたんだろ。見栄?見栄なのか?はぁ…なんか疲れた。結局ヒデもワンランク下を受験したんだもんな。あぁっと、ヒデどうだったかな。」
携帯電話、スマートフォンも無い時代だ。すぐに連絡を取り喜びを分かち合うことも出来ない。
そして電車が来た。これにこれから少なくとも3年間乗って行かなければいけないわけだ。
ユウは電車からの景色をジッと見つめる。
『虚しいなぁ。なんでだろ。まぁ当たり前か。別に目標があってS高を目指したわけじゃねえし。昇華をする為に頑張っただけだからな。』
茶色く枯れ果てた田畑の風景をボンヤリ見ながらユウは物思いに耽る。
『終わったんだな…。戦いが…。』
電車はユウの家の最寄り駅に到着した。
ユウはノタノタと遅い足取りで電車から降りると他校の中学生達も降りてきた。
S高校の最寄り駅のホームにいた大騒ぎしていた女子中学生のグループも降りてきて相変わらず騒いでいる。
ユウはそのグループの背中を追う形で改札口へと向かった。
『うるせぇな。こいつらもう少し賢く生きればいいのに。ハハハ、身体を捧げりゃこいつら大概のものは手に入るのによ。俺がやろうとしてできなかった事をこいつらは簡単に出来るんだ。贅沢な奴らだ。女ってだけで手に入るものは山程あんのに学歴まで手に入れようってか。ふざけんなよ。』
そう思いながらもユウの頭の中は浦野で埋め尽くされていた。浦野の恍惚の表情と裸体が悪態の内容とは裏腹に頭の中から溢れ出て下半身へとこぼれ落ちていく。
ランクはそこまで高くはないが、S高校は進学校だ。
家庭の経済状況をよく知るユウは進学など考えていない。
その為何もかも手に入れようとしている、そうユウが勝手に思っている目の前のグループに勝手に嫉妬し勝手に女というものを揶揄しているのだ。
「煙草が吸いてえな。…ううん…どうしよ。」
勝手に盛り上がり勝手に苛ついたユウは改札口を出ると急に喫煙欲求が湧き始めた。
駅まで乗り付けてきた自分の自転車を停めている駐輪場の2階に辿り着くとポケットから煙草を取り出し10秒程煙草の箱を見つめた。
『今誰かから見つかって問題になったら今までやってきたことが台無しだ。止めとこ。さっさと学校に帰って報告だ。』
ユウは煙草をポケットへ戻すと、自転車に跨り猛スピードで中学校へ向かった。
・・・
「新田ぁ!!!よく!!…よくやった!!お前は本当に頑張った!!俺の話を信じて頑張ってくれたんだな!!」
下村は教室の教壇の上からユウの両肩をバシバシと叩き、目に涙を浮かべ、顔を真っ赤にして怒号の様な大声でユウの結果を労った。
「あり、あ、痛ッ…あり、う…下村、し、下村せ、先生ありがとう、…うっ、ありがとうござ、…ます…。痛いって!!先生!!痛えって!!本当に!!ちゃんとお礼も言えねえじゃんか!!」
ユウは下村の分厚い胸板に両手を当てて引き離した。
「あ、お、おう!すまんすまん!ハハハ!でもお前は本当によくやったよ!!ほとんどの連中が報告を終えたってのにお前だけ遅いから心配してたんだ。」
下村は後頭部をポリポリと掻きながら教壇から降りた。
「すいませんね。遅くなって。でも、下村先生には本当に感謝してますよ。」
ユウは頭を深々と下げると教室の後ろのドアへ歩きだした。
「新田。」
下村に呼び止められたユウその足を止め、振り向いた。
「はい?」
「よくやった。お前は欲に打ち勝ったんだ。」
「打ち勝ってませんよ。俺はまだまだ弱い。」
「いいや、打ち勝った。少なくとも俺の目から見たらな。」
「見えてるものが全部じゃないですよ。」
「フン、フハハ!偉そうに言うな。でもそうだな。見えてるものだけじゃないのは確かだな。そして見られていると思っているのも全てじゃない。」
「…え?」
「欲に打ち勝ったその心があればきっと煙草も止められる。黙っといてやるからさっさと止めるんだ。」
ユウは顔を真っ赤にして俯いた。
「家で両親が吸っているなんてレベルじゃないんだよ、お前の煙草臭さは。いいか、卒業式まで残り数日だ。さっさと止めろ。いいな?」
「…はい…。」
負けた。というより勝てる訳が無い。
所詮は子供の隠し事だ。全てお見通しだ。
ユウは顔を真っ赤にしたまま教室のドアを開けた。
「おい、新田。」
「ん、んなんでしゅるか!?」
ユウは驚きと動揺で舌を噛んでしまった。
下村はフッと軽く笑い、目頭を押さえながら下を向いた。
「よくやった。」
下村は1言だけ言うと後ろを向いてしまった。
ユウも察するともう一度深々と頭を下げて無言のまま教室を後にした。
「さて、もう一人報告しなきゃいけねえんだよな。なぁ…浦野…浦野さと美…。」
ユウはゆっくりとした足取りで浦野のクラスの前を通り過ぎた。
浦野はいない。恐らくクラスの生徒全員の報告を終えたのだろう。
「職員室かぁ…面倒臭えなぁ…。」
ユウは脱力した様子でノロノロと歩き始めた。
今日歩いた距離は中学生になってから最長ではないだろうか。
ユウは足裏の痛みを堪えて職員室へ行く為に階段をゆっくりと下って行く。
「クソ…なんでこんな階段長いんだよ。タハハ、でももうすぐこの階段、この校舎ともお別れか。」
一歩足を踏み出す度に足裏に走る痛みが、辛い思い出と楽しい思い出を順番に甦らせた。
体育館の倉庫で目が覚めたあの日から全てが崩れ、全ての歯車が狂い始めた。
敬人に対しての感情が覚醒し、短い蜜月期を過ごしたものの自身の暴走した感情と阿高亮子によっていとも簡単に崩壊していった。そして崩壊した感情と思いは哲哉により溶解が進行し、溶け切った後迫島の力により再生し始める。そして下村や、浦野、そして迫島の力を借りて今ここに立っている。
「俺は…勝ったんだろうか…。わからない…。」
ユウは痛む足に思いを馳せながら階段を下りきり、職員室の扉の前に辿り着いた。
コンコンと扉を叩き、扉を開くとその足を職員室の中へと一歩進めた。
「失礼しま…」
パチパチパチ…
ユウが言い終える前に職員室の中で盛大な拍手が鳴り響いた。
「おめでとう。新田。本当におめでとう。」
下村が涙を堪えきれない様子で、いつもより小さい声で祝福してくれた。
「よくやったよ。お前は元々バカじゃないんだ。だからここまで取り戻すことが出来たんだ。」
「吉屋先生…。あ、ありがとうございます。」
吉屋はユウの右肩にポンと手を置いた。
因縁の相手である高石は不在だ。
そして浦野が自分の席から立ち上がり、ユウの元へとやって来た。
浦野はユウの目の前に立つと恐怖を覚える程ゆっくりとした瞬きをしながらユウの顔を見つめてきた。
「偉いわ。本当に頑張ったわね。朝自習、夏休み、冬休みの補習、本当に頑張ったと思う。流石ね。」
「いや、先生が一生懸命教えてくれたから…。ありがとうございます。」
ユウが深々と頭を下げると、浦野は顔を伏せた。
そして浦野は両手を顔に当て、声を上げて泣き始めた。
「ち、ちょっと、何泣いてんスか?」
ユウがオロオロとしていると、奥の席で教員同士の話がユウの耳に入ってきた。
「いやぁ浦野先生流石だわ。うん。やっぱ違うなぁ。休み中ずっと新田と有田の面倒見てたっつうもんな。」
「補習もほとんど浦野先生一人でやってた様なもんだろ?凄いよ、本当に。もうアレだろ?もうこれで決まりだな。来年度は学年主任だろ?で、そのまま主幹だろ?教頭先生の気持ちはもう浦野先生で決まりだ。」
「本当に凄いですよね。浦野先生は。中々あそこまで出来る人いませんよ。教員として尊敬します。」
ユウはピクリと身体を揺すると、浦野を見下ろした。
むせび泣く声はするが両手の隙間から涙は見えないし、鼻をすすることもしない。
『まさか…こいつ…この野郎…。出世の道具にしやがったか?』
ユウは足を軽くギッと踏み鳴らすと、浦野は一瞬身体を震わせた。
そして下を向いたまま顔に当てた両手を少し両サイドにずらすと口が裂けんばかりに口角が上がり、三日月を真横にした様な何とも形容し難い、不気味で嫌らしい目をした浦野がその顔を見せた。そしてその目には涙は浮いていない。
『こ、この野郎…。そういう事か…。』
ユウは辺りを一周見回すと、頭を下げて大きな声で挨拶をした。
「ありがとうございました!本当に!ありがとうございました!」
その声を皮切りに、再び盛大な拍手が湧き起こった。
・・・
「ほぉん。なるほど。中々ずる賢いですね。」
「ずるはいらない。賢いと言ってほしいわね。」
浦野の車の助手席にユウは座っていた。
報告が遅くなったユウを家まで送るという大義名分の元浦野はユウを車に乗せる事に成功したのだ。
恐らくこの行為も周りの教員達には神々しく、見習うべき聖職者の模範として写った事だろう。
「賢いかもしれないけど…。」
「何度も言っているじゃない。あなたは志望校に合格した、私はそれを材料に出世する、お互いいい事だらけ。ね?」
「まぁ…そうですかね…。」
「そ・れ・に、あなたは私で童貞も捨てれたのよ?」
浦野は最新のスポーツカーのエンジンをかけた。
2000ccクラスで中々の高級車だ。
「なんです?ど、どうてい?なんです?それ。」
「女の身体の中に男の分身を挿れたことが無いってこと。童貞を捨てる、つまり、初めて女とセックスするってこと。」
浦野はユウの股間に手を置き、ニヤリと笑った。
「な、なる、なりゅるほど。」
「アハハ!噛んじゃってかわいい!ね?お互いいい事だらけでしょ?私は男を虜にした男を堪能した。新田くんは女を知れた。あなたを女として見たら処女ではない…と…うん、ややっこしいわね!アハハハ!」
浦野は笑いながら車を発進させた。
「機嫌…いいですね…。」
ユウはパンパンに膨張した自らの男性の象徴に目をやると息が荒くなってきた。
「そりゃいいに決まってるわ。最高よ。」
「そ、卒業する前…か…その…後でも…」
「私はまだ独身!結婚するまでは私が誰とセックスしようと関係無いわ。だからいつでも声をかけて?時間が合えば好きなだけこの身体で気持ち良くなっていいわ?」
浦野はユウが何を言うか察し、全ての答えを言ってしまった。
「あ、ありがとうございます…。今日はダメですよね…。」
ユウは顔を真っ赤にして下を向いた。
「ごめんね、今日はダメなんだ。一人でして?いい?」
「はい…浦野先生を想像して…も…いいですか?」
「もちろん…。ンフフ…ホントかわいい…。」
浦野のスポーツカーはユウの家の前に到着した。
ユウは何事も無かったかの様に浦野の車から降りると自信に満ちた表情で頭を下げた。
「じゃ、お疲れ様。」
浦野は運転席からユウに声をかけると颯爽とその場から走り去った。
「チッ…さっぱりしたもんだ。」
ユウは顔を上げると物置の中に煙草を隠し、玄関の鍵を開けようとしたが、鍵が空回りする。
「は?開いてる?」
ユウは鍵を抜き、恐る恐る玄関のドアを開けるとキッチンの方向から物音がする。
「おか、お母さん…?仕事は?」
ユウの母親が料理を作っていた。
煮物の良い香りが家の中に広がっている。
「ユウ?ただいまくらい言えないの?」
ユウがキッチンに行くと母親は背中をユウに向けたまま話かけた。
「あ、あぁ…ただいま。仕事は?」
「休んだ。」
「そ、そう。S高、受かったよ。俺、勉強したもんよ。バッチリだった。たまにゃ褒めてくれよ。」
「その報告を聞くために休んだの。お疲れ様。よくやった。」
母親は背中を向けたままだ。
明らかに何かが違う。
普通の親子のやり取りだがユウは得も言われぬ違和感を感じていた。
「本当によくやったわ。ユウみたいな馬鹿がまさかS高に入るとはね。お母さんは本当に嬉しいよ。」
「ハハハ、普通に馬鹿とか言うなよ。S高生だぞ?もう馬鹿なんて言えねえよ?ハハハ。」
「そうだな。本当に嬉しい。嬉しくないこともあれば嬉しいこともあるもんだね。人生って。」
ユウは母親のセリフに何かが引っかかり、笑うのを止めた。
「嬉しくないことも?どういうこと?何を言ってる?」
「ユウ、私はお前の母親だよ。」
「だから何だよ。馬鹿にすんな。それくらい知ってるよ。」
「味方だ。お前が何者だろうと何をしようと私は味方だ。」
「ハハハ、ありがとう。でも前に聞いたよ、そのセリフは。」
「そっか…。ボケたかな。」
「やめろよ。息子はまだ中学生だぞ?ハハハ。」
「とにかく、おめでとう。今日は久し振りにちゃんとご飯作ってるんだよ。肉じゃがだよ、しかも牛肉。」
「ん、んああ。ありがとう、嬉しいよ。な、なぁお母さん。何か俺したっけ?何か悪いこと…。」
母親の背中が僅かに反応した。しかしまだユウの方は見ない。
「お前が理解して、お前のタイミングでお前からの話を待ってる。安心して。別に悪いことなんかじゃない…と…思う。」
ユウの顔から血の気が引いていく。
『何を言ってるんだ?何が言いたい?心当たりがあり過ぎるからどれなのか何なのかわかんねぇ…。』
「お前は本当によく勉強した。ユウお前はなんで勉強したの?公立高校に行く為かい?」
「もちろんそうさ。私立なんか行けねえだろ。」
「ユウ、勉強は全て無駄じゃない。選ぶべき道、進むべき道、拾うもの、捨てるもの、そして生きるべき時、死ぬべき時、その判断材料の為に知識を貯め込むんだ。」
「お母さ…」
「わからなくてもいい。最後まで聞いて。1+1は2だ。人生はね、2になる為にはどうするかを考えていくのが人生だ。年齢を重ねていくに従ってその数式は難しくなる。答えは分かってる、目指すべきところは分かってる。その答えに辿り着く為に単純な計算をするのか、難しい計算をするのかそれはお前次第だ。いいか、全てユウ、お前次第だ。」
「…。」
ユウの母親はそこまで言うとようやくユウの方を向いた。
そして満面の笑みを浮かべて煮物の入った両手鍋を持つと改めてユウを祝福した。
「ユウ、高校受験お疲れ様。よく頑張った。さぁ!!ご飯にしよ!今日はお父さん遅いから食べちゃおう!!」
「あ、あぁ…お母さん…?」
「ん?」
「今俺は数式どころか答えすらわからないんだ。悪いな。」
「そう。さぁ!ご飯ついで!」
「フフフ…わかったわかった。美味そう!」
しばらくの間母親の幻の事は黙っておこうとユウは心の中で頷いた。
細かい事はわからないがそれが母親に知れたら足元から崩れて行きそうな気がするのだ。
ユウにとっての戦いの1つが終わった。
再び歩き始めた者
空を見つめる者
恐怖から解放された者
夢を追い続ける者
斬りつけられた傷を抱き血を吐き続ける者
一つの旅立ちが
幾千の思いになり
荒波の様に渦巻く
その手を離せ
その思いを断ち切れ
反逆と性によって離別し
とある者は死を選び
とある者は復活を試みる
その手を離せ
その思いを断ち切れ
欲望と軋轢によって圧縮され
とある者は潰れ
とある者はそこからはみ出す
そしてとある者は
一粒になろうとも
幾千の旅立ちをもう一度試みる
一粒になろうとも
一つになろうとも
折り重なる自我は
必ず遺産と意思を
超えて行くことだろう