「The Graveyard Book」by Neil Gaiman / レビュー
The Graveyard Book
by Neil Gaiman
【作品情報】
ジャンル:Middle Grade(10歳~)以上
#フィクション #ファンタジー #ホラー
出版:2008年(HarperCollins)
受賞:カーネギー賞、ニューベリー賞、ヒューゴ賞、ローカス賞、他。
【あらすじ】
ある夜、悲劇が襲う。何者かが眠っている一家を惨殺した。しかし赤ん坊だけが運よく生き延び、開いていたドアから外に出ていく。導かれるようにしてたどりついたのは墓場だった。そこに現れたのは幽霊の夫婦だ。その墓地に眠る幽霊たちと協議の上、赤ん坊を協力して育てることにしたが、彼を狙う敵は後を絶たない。さまざまな困難に立ち向かいながら、成長していく少年を描いたファンタジー。
【感想】
墓地のシーンで、まず幽霊夫婦が出てくるのですが、イメージとしては「ホーンテッドマンション」(2003年映画)に出てくる召使いコンビ(エズラとエマ)のようなコミカルなやりとりが面白かった。幽霊夫婦が赤ん坊の親代わりとなり、その子を「Nobody(誰でもない)」(愛称Bod)と名付け、同じ墓地に眠る他の幽霊たちと協力しながら育てていきます。ただし男の子は生身の人間。育てるのは実体のない幽霊たちです。彼らは何十年、何百年も前に死んでいるので、埋葬された時代によって知識も話し方も違って、実際にそういう人たちとしゃべれたらどんな話が聞けるかなって考えると面白かったです。
Bodは少年期になると行動範囲も広がり、霊廟を探検したり、学校に行ってみたり、実家に戻ってみたりとさまざまな冒険をしていきます。彼の命を狙う者もたくさん現れてくるのでハラハラドキドキしました。
今回は先に引用を1つ。
【心に残った言葉】
(要訳)「君は生きてる。つまり無限の可能性が手中にある。なんでもできるし、なんでも作れる、どんな夢だって見られる。君が世界を変えようとしたなら世界は変わる。それは可能性だ。だが死んだ瞬間にそれは消える。終わりだ。君は作りたいものを作り終え、夢を見終えて、名を刻んだ。(中略)可能性は終わってる。」
孤独なBodに、Silas(Guardian)が正と死の違いについて説く部分。他にも、人間と超自然的存在、生者と死者、墓場と現実世界(社会)の対比的描写を通して、Bodに生きることや変わること、前を向くことを教えています。Nobody(誰でもない)から「誰か」に変わっていくBodの成長物語を通して、生と死を見つめることができる作品だと感じました。
著者のニール・ゲイマンは、ニューベリー賞授賞式スピーチ(本書の最後に収録されていたものです)で、(以下要訳)「この本を書くのに二十数年かかった。2歳だった息子が25歳になった。最初は子ども時代についてーー墓場で育つBod(主人公)の成長についてーー書いていたが、最後は子育てについて書いていた」と話しています。この作品は、少年の成長物語であると同時に幽霊たちによる子育ての物語。ゲイマンが子育てをしてきた人生経験がこの作品を完成させたというのも、親である私としては感慨深いものがありました。困難を乗り越えること、子育てとは何か、生と死、死者への敬意など、注目したい部分がたくさんある作品です。
著者は他にも児童向けの「コラライン」、コミックの「サンドマン」、などゴシック調のちょっと怖くてゾクゾクする系のファンタジーを得意とするニール・ゲイマン。幅広い仕事を手掛けていますが、作品はファンタジーの中でもホラーや超自然系に傾倒してるかなという印象で大好きな作家さんの1人です。
英語の難易度は中くらい。英語の文体なのかイギリス英語だからか語り口が少し読みづらかったですが、太刀打ちできないほどではありませんでした。ミドルグレードですが若いほう(8~10歳)ではなく10歳以上向けのミドルグレードなので、ヤングアダルト(YA)への導入期にいいかもしれません。英語圏では小学校高学年に推奨されているみたいです。
既に読まれた方もこれこらの方も、ぜひ印象や感想をお聞かせください♪
【訳書情報】
邦題:「墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活」
著者:ニール・ゲイマン
翻訳:金原瑞人
出版:2019年 角川文庫