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夢見草(元ネタ:ゲゲゲの鬼太郎)

本当に綺麗な女じゃった。天子はいつでも活発で、ワシとは違ってハイカラで、工場で働いていたり、よく町に繰り出しておった。ショートカットでワンピース。モダンガールじゃった。何より、山から降りないワシに比べて、人間にもとても親しんでおったのじゃ。
 じゃが、それが災いだったのかもしれぬ。いや、時代のせいだったかもしれぬ。当時、ワシら妖怪のエネルギーが人間の呪術師によって人間の長寿化に使われておってな。ワシら妖怪は近代化によって人間の恐怖心も薄れ、力も弱り腹をすかしておった。
 天子はそんなワシや仲間たちに工場でもらったパンをくれてなあ。ああ、ありゃあうまかった。
でもそんなことは人間には関係ない。工場にいるところを人間の呪術師に捕えられた天子は、地下の施設の千年桜と呼ばれる大きな桜の大木に養分として吸われておった。
 それが見つかってから、ワシら妖怪は総力を持って人間たちと戦った。丁々発止、50余を打ち合った。天子は見つかった。
 しかし、もうそれはワシらの見知った天子ではなかった。千本桜に血を抜き取られ、頰はこけ、あばらは浮き出で、目は片方潰れていた。
 ああ、人間よ、許すまじ。しかし、かすかな声で天子が言った。
「ああ......この子をお願いします......」そう言って、小さな、小さな男の子を渡された。最後まで人間たちから隠していたのだ。その子は小さいながらも生きていた。天子はその栄養を抜き取られながら、稚児に栄養を渡していたのだ。
 ワシらは、人間に復讐することをやめた。必死で逃げた。どことも知らぬ寒村へ。竜太郎。お前の故郷だよ。あの家は逃げた俺たちが居着いた所だ。
 けれど、今でも一度だけ。ここにこうして来るんだよ。あの千年桜のあった場所。妖力が消え、今ではたった一つの小さな木。夢見草と呼ばれるあの木の下で。ワシらは天子の忘れ形見と一緒に参ると毎年言っておった。
 今日ようやくじゃ。ようやく叶う。夢にまで見たこの光景が。

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