生きること死ぬことを静かに想う邦画3本
映画というのは2時間ほどの尺に凝縮したコンセプトを煮詰めていくような、独特のコンテンツだと思います。焦点距離が短いほど物語以上にテーマが濃くなるというか。中でも私は昔から何かと「死」を扱った映画に惹かれるところがある気がして、その観点で記憶に残っているものを備忘録として書き出してみます。
湯を沸かすほどの熱い愛(中野量太 / 2016)
双葉は1年前に夫が家出して、ひとり奮闘しながら娘を育てています。家族で営んでいた銭湯「幸の湯」は休業状態になっていました。しかも、突然癌で余命2か月だと宣告される双葉。残された時間で家出中の夫を連れ帰って銭湯を再開させ、気が優しすぎる娘を独り立ちさせようと決めた彼女は逞しく動き出します。嘆く暇もない残酷な運命に流されず必死に歩こうとする双葉の、銭湯より深くて広い愛の大きさが終始満ち溢れている一本。死の輪郭が見えているとき、誰よりも彼女は生きていて、生きる意味をひとかけらも無駄にしない姿に心打たれます。宮沢りえ、杉咲花ほか役者陣もみんなが素敵。
ワンダフルライフ(是枝裕和 / 1998)
亡くなった人が天国へ行く前に立ち寄るとある建物。そこで人々は人生の中で大切な思い出をひとつだけ選ぶように言われます。そしてその場所で7日間を過ごし、選んだ思い出が建物の職員たちによって映像化され、最終日にその映像を観ながら天国へと向かいます。物語も世界観も美しい作品で、TSUTAYAでポスターを見かけて、ARATA(井浦新)の佇まいに無性に心惹かれて借りて観ました。是枝監督ならではのドキュメンタリー風味の強い映像なのも印象的。ただただ静かに、人生を終える最後の瞬間に抱きしめていたい気持ちを考えさせられます。
トイレのピエタ(松永大司 / 2015)
美大を卒業したものの画家への夢破れ、ビルの窓拭きのアルバイトをしながら暮らす園田宏は、ある夏、突然倒れて余命3ヶ月を宣告されます。たまたま巻き込んで妹のフリをさせ余命宣告の場に突き合わせた女子高生の真衣とは奇妙な関わりが始まり、入院生活でのいくつかの出会いもあって様々な想いを巡らせる宏ですが、いよいよ死に直面せざるをえなくなっていきます。死の不条理に呆然とする宏と、理不尽な人生から逃げられず常に怒りを抱えているような真衣。生き死にとは自分の手では決して掴めない雲のようなもの、そんな気持ちにさせられます。無力さの中で自分に残された生を見出していく野田洋次郎の宏は彼の淡々とした物腰がぴったりで、全てに対して怒りをぶつけながら宏の生を願い、自分の生とも向き合わざるを得ない真衣を演じる杉咲花のむき出しの感情に圧倒されます。
10代から異彩を放つ杉咲花が際立つセレクトですが、総じて出演者がみな良いです。ワンダフルライフは死者役の方々がごく一般の方々だったり、意外な俳優さんも混ざっていたり、独特で面白く。3本それぞれに鑑賞後の感情はまったく違うと思いますが、いろいろな角度から死と生きること、人生に想いを馳せる時間をもらいました。
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