[短編小説]マスクの奥から 5話
れんが目覚めると
首を吊っている母親がいた。
一瞬、自分の母親ではないのでは、と疑ったが、病室の窓から太陽の光が差しこんでくるため、顔がはっきりと見えてしまう。
人のものとは思えないほど、唇が真っ青。
その姿はまるで、冬の桜の木のようだった。何も葉っぱがついていない、誰も興味を示さない時期の桜の木。
あぁ、人が死ぬとこうなるのか、
そんな事を思いながら、少しの間母親を見つめ、自分も死ぬ決意をした。
という経緯の話を、担任の鈴木先生から知らされた。
れんがなぜ死んだのか、これではっきりした。
僕は、れんの家庭環境について度々れんから伝えられていた。父からDVをうけていること。母親が精神疾患であること。
だが、れんが死ぬ2日前にこんなことが起きたという話は聞いてない。それは堀岡さんも同じようだった。
あともう一つ、れんがこんなことを言ってたらしい。
「なんか最近、人のマスクが透けて見えるんです。でも、お母さんとかクラスの何人かのマスクは透けて見えなくて。
何か法則性があるのかなーって考えてたら、マスクが透けて見えない人に共通していることがあって。この人たち、精神疾患を持っている人たちなんです。」
れんは、この能力の正体について、自分で考えていたらしい。だから、堀岡さんを助けたのだろう。あと、れんは世の中がマスクをつけはじめた頃から、見えていたとも言っていたようだ。
そういえば、れんが学校を休んでいた日があった。そう、それはれんの母親が亡くなった日になる。
れんはいつも休まない学校を休んでいたので、僕は不思議に思ってれんの家に行っていた。
インターホンを鳴らして家から出てきたれんは、本当にいつもと変わらない様子で、
「ごめん、、さぼってしまった。」
そんなことを言ったのである。
れんがそんなことをするかな、、と思ったが、特にしんどそうでもなかったので、軽くしゃべって僕は家に帰ってしまった。
自分の鈍感さが憎い。悔しい。
なんで気づいてあげれなかったのだろう。
「れんにこんなことが起きて、亡くなってしまって、、、田中に伝えようと思ってたんよ、、、れんが一番信用してたから、、、」
「そう、なんですか。」
「うん、れんが亡くなる前、田中のことについて言ってたことがあって。」
「涼太って、クラスに全然なじめないし、自分の事には全然自信なさそうやけど、誰よりも人情深いんですよ。それこそ、昨日学校休んだときにわざわざ差し入れ持ってきてくれたし、めっちゃ心配してくれたし、彼女かて思いました。
だから、一番信頼してるんです。」
「そんな感じのこと言ってたよ。」
「、、、」
もう耐えきれなかった。今まで、人前では泣かないようにしていたが、その分の涙が溢れてくる。
泣くな、こんなとこで泣くな、そう思っても目から溢れる。
「本当になんで、、、」
あのときもっと話してたら、異変に気づいてあげていたら。
ただただ悔しい。
そんな感情に心が長い間支配された。
ただ、これでれんが亡くなった理由が知れた。
誰かに殺されたのではないかと疑っていたが、そうではないことが分かり、とりあえず事は済んだ。
それから、1週間。
れんの身に起きていたことが衝撃で、気持ちはずっとブルー。不思議なことに、この1週間ずっと雨だった。
だか、今日は久々に晴れた。
やっと気持ちも晴れだしたと感じはじめた頃、
ある重要なことを忘れていることに気がついた。
なぜ僕は、人のマスクが透けるという能力を持ったのか。
堀岡さんは、精神的に回復してこの能力を得た。
れんは、最初から透けて見えていた。
もし、精神疾患を持っていない、もしくは克服した人からこの能力を得るならば、僕は意味のわからないタイミングでこの能力を得ている。
そんなことを一日中考えていた日の夜中、
テレビを見ていたらある速報が入ってきた。
"速報です。今日の午後、大阪府の公立高校の教師が生徒を殺害したとして、現行犯逮捕されました。逮捕された男の名前は、鈴木亮。鈴木容疑者は、自宅から持ってきたと思われるナイフで、生徒を殺害したと思われます。"
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