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TouchによるDefault mode networkの不活性化


背景

 ヒトとヒトの相互関係の中心的な影響である”感情的タッチ(affective touch)”は社会的に重要である(例えば、友人とのハグや恋人からの愛情、母親からのいい子いいこなど)。感情的タッチは、情動的な側面を持ち、言葉などがなくてもタッチを介して、感情を変化させることができる。


 末梢神経系では、ゆっくりとしたストローク刺激は、C線維(触覚求心性)をターゲットとする;1~10cm/s程度のゆっくりとした刺激に選択的に反応する。
 C触覚線維は温度にも敏感で、皮膚と皮膚の接触に近い約32℃の温度でゆっくりなでるような刺激を与えると、発火頻度が最も高くなる。このような特徴から、C触覚線維は社会的、対人的なタッチに調整されていると提唱されている。


 C触覚線維の神経学的経路は一次・二次体性感覚野(S1, 2)、上側頭回(STG)、島後部、眼窩前頭回、帯状回前部(ACC)などの活性化を伴う。C触覚刺激によるS1,2の活動性は触覚情報によって調整される(先行研究では、ブラシを当てることで触覚刺激を再現している)。この研究では、感情的タッチの対人的側面を無視するものであり、やや限定的である。


 タッチは、外界への注意に関連する脳内処理の変化(Default mode network(DMN)の変化)を引き起こすかもしれない。
 DMNは大規模な脳内ネットワークであり、集中的注意、外部指向の認知課題などに代表される外部注意へのシフトによって、不活性化される(安静時に活動性が高まっている)。

DMNはいくつかの領域で構成されている;

・腹内側前頭前皮質(VMPFC):感覚情報を収集
・背内側前頭前皮質(DMPFC):自己言及的な判断に関与
・後帯状皮質(PCC):以前の経験の記憶に関与

本研究では、感情的なタッチ、特に対人的なタッチの神経処理を調べることを目的とし、fMRIにて検討した。



方法

対象は、21名の右利きの被験者である。DMNに影響を与える因子を除外するべく、以下の評価表を事前に行った。

  • Beck Depression Inventory(BDI):中等度から重度のうつスコアはなし

  • Autism-spectrum quotient(AQ):自閉症のカットオフ値を上回る被験者はなし


MRIは3.0Tのものを使用し、task-based fMRIを行った。行ったTaskは以下の通り;

  1. 人の手で行うタッチ(3 cm/s):C触覚をターゲットとする

  2. 人の手で行うタッチ(30cm/s):C触覚をターゲットとしない

  3. ブラシで行うタッチ(3 cm/s)

  4. ブラシで行うタッチ(30cm/s)

上記刺激はすべて被験者の左前腕背側(10cm)を近位から遠位へ刺激した。刺激する人は手のひらで撫で、ブラシは細い柔らかい山羊の毛でできた幅50mmの水彩ブラシで撫でた。両刺激の温度差は、C触覚線維の反応性に影響を与えると考えられる。

 各介入は、12回の刺激時間(15秒の刺激と15秒の非刺激)で構成され、一つの刺激の介入時間は6分であった。実験中、被験者は目を閉じて行われた。

 各介入終了後、被験者は快感(pleasant)と強さ(intense)をVASで評価した。

【MRI解析】
使用したものはSPMとMATLAB。
(taskの解析したことはないけど、多分Gold standardな、美しい解析してるような気がする)


結果

【行動学的結果】
 C触覚線維をターゲットとしているタッチ(3 cm/s)の方が、非C触覚線維のタッチ(30cm/s)と比較して、常に有意に快感だった(p<0.001)。
 さらに意外なことに、ブラシタッチは人の手タッチよりもより心地いいと答える人の方が有意に多かった(p=0.022)。

タッチ条件は、快感の評価に従ってランク付けすることができた:
(1)ブラシ、C触覚線維タッチ
(2)ヒト、C触覚線維タッチ
(3)ブラシ、非C触覚線維タッチ
(4)ヒト、非C触覚線維タッチ
この順番を「タッチ快感重み付け」と呼ぶことにした。

人の手タッチはブラシタッチよりも強く(intense)評価された(F[1, 29] = 32.8, p < 0.001).


【タッチによるBOLDシグナルへの影響】
 4つの刺激条件全てでSⅡとSⅠ領域でのBOLD信号の増加が見られた。またそれら活性化はブラシタッチよりもヒトのタッチの際により顕著であった。

 このデータのPost hoc解析では、先ほどの「タッチ快感重み付け」を使用した。
 SⅡ/STGはブラシタッチと比べて、ヒトのタッチでの増加が見られた(F[1, 29] = 7.1, p = 0.012)が、それらは速度などの影響はなかった。
 また、SIは、ヒトのタッチはブラシと比べてBOLD信号の増強と関連していたが(F[1, 29] = 15.3, p < 0.001) 、C触覚線維(速度)の効果は見られなかった。またSI活性化には「条件」のみで、「強度」や「快感」は関係しなかった(F[1, 123] = 7.5, p = 0.007)。


【DMNの不活性化】
 4つの刺激条件それぞれにおいて、DMN内のBOLD反応の低下が見られた。しかし、ブラシで非C触覚刺激ではp<0.001(補正なし)が必要である(=統計を甘くしないと認められない)。



考察

 本研究の仮説通り、神経活性化はタッチ動作により影響した。ヒトのタッチでは、強度の増強とともに、SIとSII/STG領域のBOLD信号がブラシタッチに比べて強く増加することが明らかとなった。

 強度とは対照的に、心地よさの評価は、ヒトとブラシではあまり一致しなかったが、触覚の速さでは強く一致した。C触覚線維ターゲットの速度(3 cm/s)は、そうでない方(30 cm/s)に比べ、より心地よいものだった。しかし、このような触覚速度の行動効果は、神経の活性化パターンには反映されなかった。

 私たちの仮説と一致して、DMNのBOLD反応の不活性化がすべてのタッチ条件において認められた。私たちの仮説とは対照的に、DMNの不活性化に対するタッチ条件の有意な影響は見られなかったが、不活性化はブラシタッチ条件と比較して、ヒトタッチ条件でより顕著であった。


【研究の限界】
 私たちは、ブラシタッチと比較して、ヒトタッチの強度の評価が高まったのは、人間的なタッチが本来持つ高い"Salience"を反映していると考えている。しかし以下のような方法論上の特殊性によって制限される。

  • ヒトタッチは手のひらで行うため、ブラシで行うよりも前腕部の皮膚表面を大きく刺激しなければいけない。

  • 触覚が心地よい条件であるため、心地よさの評価のばらつきが少なく、ルーフ効果があること(ルーフ効果とは、測定値が上限に達してしまうこと)


結論

 異なるタッチ条件では、触覚に関連する領域が活性化し、この効果は、特にヒトタッチ条件下で顕著であった。さらに、TouchはDMNの強い不活性化に関連していた。


***自分メモ***

  • 本能的・治療者目線でもわかりきっている”ヒトが触れることの重要性”を科学的に検証した論文。

  • でもDMNの不活性化はヒト・ブラシともに有意差はなし。柔らかいブラシで撫でられるのって気持ちいいし、やっぱり対称群が難しい。

  • 被験者だけでなく、治療者側のMRIも撮りたい。

  • 鍼灸で言ったら、ていしんとかもこのような機序が言われているのかな?

  • マッサージ歴*年以上、と、マッサージ免許なく普段もマッサージをしない治療者との比較とか?う〜ん。。。

  • DMNに焦点を当てて介入研究って多分難しいんだろうなあ。



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