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映画感想「TANG タング」

※ この記事には、個人的に良さとビミョウさを本作品に感じたことへ、それが何故かの深堀りと、夏映画の勝ち組・やや勝ち組・負け組と興行収入のみをもって断ずる価値観への毒意見が入ります。



素直な感想を言うと、かなりB級テイストな印象を受けるこの作品。ジャニーズ好き、嵐のニノさんが俳優としても好き、家族みんなで子どもといっしょに安心して観たい。そんな要望はすべて叶います。が、言語化しづらい「もうちょい、こう……」な鑑賞後の感覚を、できるだけ言語化してみます。

エラソーに夏映画の興行収入100億超えを勝ち組、10億超えをやや勝ち組、それ以外を負け組と、数値ざっくり過ぎて私にとってはなんの分析にもなってないスマホのニュースで流れてきた記事に腹も立っていますので、今回はちょいとそこは辛口かもで、すみません。

そのざっくり興行収入差の結論から行くと、この「TANG タング」は夏映画のひとつとして、ワンピースの最新作やジュラシックパークの完結作、5月から息の長い「トップガンマーヴェリック」に興行収入としては見劣りするのは否めません。

が、この作品、原作は「ロボット・イン・ザ・ガーデン」で、英国の作家さんによる家庭小説。小学館から翻訳された本のシリーズも出て、ベストセラーにもなりました。そこから映画では舞台を日本と中国の深センに絞り、ニノさん演じる主人公と、タングというロボットと、周りの登場人物をすべて日本人に置き換えて映画化しているんです。

原作が好きな方は劇団四季がお芝居として「ロボット・イン・ザ・ガーデン」を興行中なので、そちらを観たほうが設定を忠実にしているようです。

映画と演劇との連動をしているこの作品の成功、不成功を映画の興行収入の推移だけで判断するのはかなりナンセンス。お芝居のジャンルとしては、同じ英国からの作品としてはハリーポッターなども最近は日本に進出していますし、2,5次元のゲームやアニメのコラボも盛況。しかしながらお芝居は生モノなので、上演中止になる案件もたびたび出ていて、かなり厳しい状況にはあります。

映画を観て原作はどういう内容なんだろう、と気になったひとたちにはお芝居をコアに楽しめる、あるいは原作や演劇からのファンが、ニノさんの「ロボット・イン・ザ・ガーデン」はどうじゃいな、という道を作れたのなら、映画と演劇の連動としてはまずまずの成功と言えるわけです。

というか、100億は勝ち組、10億はやや勝ち組、それ以下は負け組って何を基準に分けているのか。たとえばこの夏に快走をしているワンピース最新作ですが、こちらは配給が東映。5月に映画館ではひっそり規模縮小をあっという間にしていった「ハケンアニメ!」と同じ配給元会社なので、ぶっちゃけ「ハケンアニメ!」できっちりがっちり作ったがゆえに総製作費に対する赤字が出ても、このワンピースの夏映画でそれを補てんするだけの収入が上がればネットでの評価は非常に高い「ハケンアニメ!」も成功になるでしょう。「ハケンアニメ!」の敏腕プロデューサー、行城さんのセリフどおりで面白い(笑)

そうなれば、ひとつの映画の収入で成功・不成功を言うのはどうかと。

何億超え、を基準にするのでなくて、総製作費がまかなえて、できれば次の作品を出せるだけの収入が入る、それならばどんな作品でもまずまずの成功と言えるわけです。ほとんど俳優さんのギャラや裏方スタッフを必要としないドキュメンタリー系の、中村哲さんの歩みを記録した「荒野に希望の灯をともす」や、ウクライナとロシアの紛争地域のことを描いた「ドンバス」など、映画にも種類がいろいろあり、作って表現しただけでも価値の高い内容、という場合も世界には存在しますから。

今回は、英国の演劇界がわりとグローバル戦略を持っていて、劇団四季とともに原作寄りの「ロボット・イン・ザ・ガーデン」を展開しつつ、映画「TANG タング」の配給元であるワーナーとタッグを組んでアジア向け、おそらく中国への配信向けも兼ねて映画のほうを作っているのではないかな? という感じがしました。

その意味では、やや日本人オンリー向けではない匂いがしたのは確かで、ここからは映画の内容についてモヤッとしたことの言語化を。作品についてのネガティブな情報を一切見たくない、という方はここでさよならをしましょう。私も、芸術作品のひとつである映画に対して、文句は付けたくないのが基本なのです。







……いいでしょうか??

たぶん、この映画の最大の弱点があるとすれば、ロボットであるタングの造形に力をきすぎて、良い映画では自然な間合いが連続するグルーヴ感が、とぎれとぎれになっちゃったという点だと思うんです。シーンでウルッときたり面白かったりするところはあるんですが、最初から最後まで音のない音楽のように流れている感覚、演劇だとキャストがセリフをときたま間違えたって進んで問題のないことも多い流れが、ところどころ止まる。

レトロなリアルロボットの描写をどういう技術で作ったのかは浅学のため分からないんですが、かなり力を入れていることは伝わってきます。ニノさんとタッグを組むもうひとりの主人公に等しいキャラクター、タングが造形として架空と実在の狭間にあると、キャストさんたちはそれをリアルに反応する演技、苦しんだんじゃないかなあ、と思うんですね。

同様に、主人公を架空の造形創作で表した映画として思い出すのは「バック(邦題:野性の呼び声)」という一匹のワンコさんが主人公の映画なんですけど、この造形には犬を真似た人間の動きを細かく細かくコンピューターで取り込んで分析して、そのあと犬ができるだけ自然に動いて見えるよう、加工したそうです。もっと過去で言えば「Who Framed Roger Rabbit(邦題:ロジャーラビット)」もアニメと実写の融合の走り。

監督の三木孝浩さんが、ここ最近でかなりの数の映画を撮っておられてもいたようなので、先にどんな作品があり、どんなアプローチを子ども向け、家庭向けに行ってきたのかの分析と良い部分の吸収と再構築まで回り切らんかった、というのもあるのかも。

子ども向けでもしっかりとしたグルーヴ感のある内容に昇華できているのか、それは「TANG タング」の制作に携わった方々の、今後の課題なのかもしれません。うまくいけば子ども向けの作品は「アナ雪」や「トロールズ」や「SING」シリーズ、ミニオンズなど、日本だと「すみっコぐらし」のヒットみたいになる場合もありますからね。子ども向けを舐めたらあかん、です。それとも子ども向けなら実写でなく完全なアニメーション主体の方が強い?? それでも今回の制作方法に挑戦したのであれば、リアルのなかでどれだけの造形が可能かを試した、かなりの意欲作と言えそうです。

リアルキャストとタングとのやりとりにずっと流れるグルーヴ感が乏しいという印象は、もしかしたら日本人だけが感じることで、世界配信となればカワイイ造形のタングと現地の言語にて構成される間合いは再構築されるはずなので、日本の特撮のなんとなくのしょぼさ、も含めて日本の優しい映画はかなり好き、というひとたちならいいと思ってもらえるかも。そこは未知数です。

夏映画は、家族や友だちといっしょに観て良かった、良くなかったと話し合えるネタのひとつになるものなので、そうした挑戦ができるような映画館の賑わいが帰ってきたことに、まずは感謝です。そして映画を作ってくださるすべての方へも感謝を込めて。

それでも今後が良くなってほしいゆえのモヤッと感を覚える場合も、たまにはあるんですねぇ……。

毒舌こいて、マジですみません。

ここまでのお目汚し乱文の読了、誠にありがとうございます。

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