旅香記Ⅷ_ローマ
ローマの中心部、サンタマリアマッジョーレにほど近いホテルのベッドにいる。
家具は古びているが広くて湯船もある一室。十日ぶりに湯船に浸かってゆっくり足を休められた。パリではセージの香り・アムステルダムではマンゴーの香りだったソープは、ローマではバニラの甘い香りだった。
フィウミチーノ空港に着いたのが午後三時前。そこからシャトルバスで中心部まで移動してチェックインをしてから、五時半頃に夕食に出た。
シャトルバスの中でのリサーチ結果は、「美味しそうなお店はいくらでもある」というものだったので、とりあえずホテルに近くレビューの良い店に行った。
マルゲリータとカルボナーラとアマトリチャーナ、ビールと水を注文する。最初はガラガラだった店内に、六時頃から立て続けに客が入って、早い時間に来てよかったと思った。すぐ後ろの席を占めたのはイタリア語を話す八人家族で、「年末の帰省かな」とYと話した。一人がマッシュルの単行本(私はそのタイトルを初めて知ったが)を持っていて、Yが何やらアイコンタクトをしていた。
マルゲリータとカルボナーラとアマトリチャーナは一気にやってきた。マルゲリータの生地はローマ風、カルボナーラのパスタはトンナレッリ、アマトリチャーナはリガトーニ。どれもおいしかった。
マルゲリータは、私がアルバイトしていたレストランのローマ風ピザよりもふっくらしており、それでいて底面がさくっとしていた。噛みついた瞬間のオリーブオイルの香りとトマトのコクが印象的だった。バジルは真ん中に一枚のっているだけで少し物足りなくもあったが、本場はこうなのかもしれない。バジル以外の要素だけでもけっこう美味しかった。
カルボナーラは、チーズのコクに振っている仕上がりだった。色も薄くて卵黄の印象は薄く、チーズの塩気とコクが支配的。パンチェッタには塩味だけでない旨みがあった。アマトリチャーナに入っていたグアンチャレ(塩漬け豚肉)も同様で、何だかよく分からないが美味しかった。トマトとにんにくと豚の脂の旨みのコンビネーション。いちばん胃袋をそそられた。
どれも飾り気のない素朴な料理で、これがおいしいのが本場だなぁと思う。
しょっぱいものを食べたあとは甘いものが食べたくなり、近くのジェラトリアに立ち寄った。味がたくさんあって選びきれず、店員さんのおすすめを聞いてバニラとダークチョコレートを選んだ。苦めのダークチョコレートが、見た目もつやつやしく特に美味しかった。バニラは少しオレンジのような風味が付けてあって、バニラ自体の味は強くなく、私の好みではなかった。明日はフルーツ系も食べてみようと思う。評価の高いジェラトリアも、ローマにはゴロゴロしている。
ジェラートを買ったのが十九時頃で、「これでホテルに戻るのはもったいない」と主張したYはもう一軒ピッツェリアに寄ってテイクアウトのアマトリチャーナピザを買っていた。部屋に戻ってから食べると、これも何やらおいしかった。私は満腹すぎて一口しか食べられなかったが、Yはぺろりと平らげていた。
ローマ食い倒れ旅、なかなか好調なスタートを切っている。
何せローマに寄ったのは「大きな都市の年越しのお祭り騒ぎを見てみたい、せっかくヨーロッパに行くならイタリアによってピザを食べたい」というYの希望のためだ。観光は二の次三の次の腹ごなしで、本題は年越しとイタリア料理なのだ。
この調子で明日も食い倒れたい。