旅香記Ⅳ_パリ食記
パリで美味しかったものの記憶を、忘れないうちに記しておく。
・DALLOYAUのクロワッサン
パリでの最初の朝の朝食。東駅のDALLOYAUで買って食べた。フランス語で注文できて嬉しかった。
Navigo(IC乗車券)を買う列に並びながら食べて、パリのパンはこんなに美味しいのかと感動した。細やかな層のなす軽やかな食感とほのかなバターの香りと小麦の味、それだけでこんなにも美味しい。
・オランジュリーカフェのキッシュ
オランジュリー美術館内のカフェで食べたサーモンとほうれん草のキッシュ。
茶碗蒸しのようにぷるぷるで、ほどよい塩気の気取らない味。素直に美味しかった。
半径15cm/厚さ5cm/内角45度くらいの扇形に切られていて、大きさにも驚いた。
・オルセーカフェのクロゼットとショコラショー
オルセーの五階、印象派フロアの時計裏にあるカフェ。
クロゼットというそば粉でできた小さな正方形のパスタがやたらに美味しかった。少しだけブルーチーズのような風味があるクリームソースが絶妙。
初めてのショコラショーも甘すぎず美味しかった。分厚いカップを唇にあててとろっとしたそれを含むと、なんだか幸せな心地になった。
・DALLOYAUのマカロン
今回パリで食べたマカロンの中でいちばん美味しかった。軽い食感と品良い味の構成。
次点はLADURÉEとピエールエルメ。LADURÉEは他のマカロンに比べて表面がさくっとしているのが印象的だった。ピエールエルメは芸術点トップだが、DALLOYAUの味の方が素直で好みだった。
YはL'Éclair de Génieというエクレアの名店のマカロンがいちばん気に入ったと言い、日本で食べられないことを嘆いていた。
パリのマカロンの相場は2.5€で、いちばん高かったのはエルメの2.8€。1€ほどの安いマカロンも食べたが、やはり食感においても味においても差が歴然だった。
・Bertillonのいちごジェラート
サンルイ島にあるジェラートの名店。
「並んでたらスキップ」くらいの気持ちで歩いて行ったら、クリスマスイブだからか待たずに買えた。
私のいちごアイス番付では恵比寿のOUCAのいちご氷菓がトップなのだけど、それに並び立つ美味しさだった。果実が瑞々しく香り、甘みと酸味のバランスが取れている。
バニラビーンズたっぷりのヴァニーユと濃厚なショコラもおいしかった。
・Le Reminetの帆立のパン粉焼き
クリスマスディナーのメイン料理。
フランス語のメニューを読み英語の解説を聞いて、「scallop/saint-jacquesってなんだっけ……」と思いながらなんとなく頼んだら大当たりだった。
パン粉の存在感は控えめで、表面に食感を与える程度。それをまとった帆立の火加減が最高だった。レアではないが、帆立の風味とねっとりした食感がほどよく残されている。バニラ入りのトリュフのエスプーマやきのこも添えられていたけれど、そっけなく帆立だけで出されてもこの美味しさなら大満足だったと思う。
・ピエールエルメのクロワッサン=イスパハン
イスパハンのマカロンではなく、クロワッサンである。
「ピエールエルメのクロワッサンを食べてみたい」と立ち寄ったピエールエルメカフェでクロワッサンを注文したら、「イスパハンにする? クラシックにする?」と聞かれた。その前にイスパハンのマカロンを注文していたので、「イスパハンのマカロンとクロワッサンを」と言い直したら、赤い飾りがついたクロワッサンとそれがないクロワッサンを指さして、クロワッサンにもイスパハンがあるがクラシックなものとどちらがいいのか、と言われて、驚いた。
イスパハンの方を頼んでみて、近くのリュクサンブールへ持って行って食べた。芸術だ、と思った。一口噛みつく瞬間の高貴な香り、軽やかさを保った湿度を持つ内部の層、内側に詰まったフランボワーズのコンポートの華やかな甘み。一口ずつを驚嘆しながら食べた。
・Pan d'amiのクイニーアマンとエクレア
Pan d'amiはホテル近くのブーランジュリー。
ホテルから東駅へ向かう途中にあって毎朝前を通っていたのだけれど、五日目にして初めてパンを買った。
クイニーアマンは凱旋門の入場待ちに並びながら食べた。固い生地にかぶりつくと、約束された美味しさ。日本で食べたクイニーアマン(と言いつつ、メゾンカイザーかもしれないが)と違うとは思わなかったが、同様に美味しい。やたらと美味しい。甘いだけでないこの豊かで親しみのある風味は何だろう、と考えて、バターだと気づいた。だから美味しいフィナンシェやマドレーヌに近い味なのだ。凱旋門の足元でがしがし食べた。
エクレアはその後、ヴェルサイユの入場待ちで食べた。
コーヒー味を選んだら、アイシングもクリームもコーヒー味。日本ではチョコレートがけでカスタードクリームが詰まっているエクレアが多い気がするが、パリ二日目に食べたチョコレートがけエクレアは中身がチョコレートクリームだった。本流はこちらなのか。
さてこのコーヒークリームが絶品だった。生地の中にずっしりと詰まっていて、何口食べても飽きが来ない。この美味しさの組成はなんだと考えると、すばらしいカスタードクリームにコーヒーの風味をつけた味に思えて、この店のカスタードクリームも食べてみたいと熱望した。「なんだこれ、美味しい」と何度もつぶやきながら食べた。
同じ店のクロワッサンも食べたが、そちらもなかなかだった。ピエールエルメよりも湿度が低くパリッとした食感が楽しかった。
・La Citrouilleのオニオングラタンスープ
パリ最後の夜に食べた。
前菜の扱いだが、これだけでもおなかいっぱいのほくほくになれる一杯。
組成は分からないがとにかく美味しいスープに、たっぷりのパンととろとろのチーズ。やさしい味で、毎日でも食べられそうだった。
感動するとともに、「これを前菜に平らげた後フランス人は何を食べるのか、食べられるのだろうか……?」と思った。
・オデオンの小さなクレープリーのクレープParisien
店名を忘れてしまったけれど、メトロのオデオン駅近くの小さなクレープリーだった。オニオングラタンスープを食べたあと、Yが人気らしいと調べて連れて行ってくれて、クレープ・サレのメニューの一番上に定番のように書いてあったParisienというのを選んだ。
一人で立っているムッシューが目の前で作ってくれる。クレープ生地を旋盤に流して手際よく表裏と焼き、チーズとハムをたっぷりのせる。塩胡椒はいるかと聞かれ、いると言ったら豪快にかけられて、「味が濃いかな」と少し後悔したが、三角に包んで渡されたそれを食べてみるとそんなことはなく、絶品だった。クレープは薄いのにもちっとしていて、チーズとハムと塩胡椒だけなのに異様に美味しい。パリ、恐るべし。
オニオングラタンスープで苦しいくらいの満腹になったあとだったのに、美味しくて思わずぱくぱく食べてしまった。
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