旅香記Ⅶ_AMS→FCO
アムステルダムを離れている。
中央駅からスプリンター(国営鉄道の各停)に乗ってスキポール空港を目指す。
朝九時半、車窓の朝日が眩しい。オランダの晴れた空を四日目にして初めて見た。八時半にホテルの部屋で朝食を食べていたときは青い夜空に美しい月が出ていた。
朝食は昨夜スーパーマーケットで買ったカットマンゴー。夜のデザートに食べるつもりだったが、疲れとグリューワインの酔いで食べないまま眠りに落ちてしまった。
出発のためのパッキングを終え忙しなく食べ始めると、日本で食べるものよりも歯応えや酸味があり、これはこれで美味しかった。どこから来たマンゴーなのかとパッケージを見たけれど産地は分からなかった。
スキポール空港に着いたのはフライトの二時間前だった。まっすぐチェックインカウンターに行き、スーツケースを預けて保安検査場へ向かう。そこまではよかったのだが、保安検査場へ入る前にYが「スーツケースにパソコンを入れたまま預けてしまった」と言い出し、いっしょにチェックインカウンターまで戻った。受付のスタッフには「私、電子機器が入ってないか訊きましたよね?」と言われてしまったが、すぐに対応してくれ、搭乗口でスーツケースを受け取ってパソコンを取り出すことができた。Yは痛く感謝して、「これからはなるべくITAを使おう」と誓っていた。
二時間半のフライト中、最初の一時間は眠っていた。離陸するのを感じながら眠りに落ちることができて、自分も旅慣れたなと思った。
目覚めると雲の上にいて、夏のように真っ青な空が見えた。この機上でしか見られない贅沢な景色を眺めていようか、それとも疲れを癒すために少しでも眠ろうか、迷ったのち目をつぶったが、結局眠り直せずに起きた。
Yも眠っていたが、私がキャビンアテンダントから洋梨のジュースをもらう声で目を覚ましていた。洋梨のジュースは少しとろみがあり自然な味で美味しかった。
ジュースを飲んでいると、窓の眺めが雲の海から雪を戴いた山脈に変わった。真っ白な雪が陽光に輝いている。「アルプスかな」とYと話した。
そのあとはローマの地球の歩き方を二人で読んだ。スリや詐欺への注意喚起と実例がわんさか載っていて不安を煽られた。パリとオランダではずっと提げていたふたのないかごポーチをローマでは封印することに決めた。パスポートを入れている薄いポーチとスマホだけを首から下げて、それをコートの内側に入れて歩くことにする。スリはそれで防げても詐欺やぼったくりは防げないから、まだ不安は残るけれど。こんな場所でイタリア人はどうやって暮らしているんだろうと不思議に思う。
空港を出るとすぐに煙草の匂いがした。いや、正確には、出る直前の休憩スペースでもしていた。
パリやオランダでは苛つきもしたが、今は「イタリアに来たな」という気持ちがして許せた。
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