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「書いたものは、わたしではない」から始まる学び

昨日書いたエントリーでは、相手の反応を過度に気にしすぎて書けなくなってしまうようなこと、伝えることを躊躇してしまうことは、(それが仕事の場面でも、個人的な場面でもあっても)なるべくならない方が良いんじゃないかというようなことを書いた。

そういうことを考えるようになったのは、もちろん、昨日書いたとおり、日々の仕事がきっかけになっているのもあるけど、それともうひとつ、今年の正月休みに読み返したワインバーグ氏の『ワインバーグの文章読本』もきっかけのひとつになっている。

「文章読本」の独特さ

この本、リンク先のAmazonの書評を見るとわかるように、あらゆる人に絶賛されている本ではない。

ワインバーグというと、ソフトウェア開発関連の本はもちろんのこと、それ以外でも『ライト、ついてますか―問題発見の人間学』や『コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学』など、「ワインバーグ節」とでも言うような彼独特のノリで書かれている本が多い。

例えば、『コンサルタントの秘密』で紹介されている法則の一覧を見るだけでも、その「独特なノリ」というのがわかるはず。

そして、この「文章読本」でも同じようなノリで書かれているので、初めてワインバーグ節に触れる人は、まどろっこしいような感じを受けるだろうし(実際、読み慣れていてもまどろっこしく感じるところはあるけど)、もっとスパッと要点を書いてほしいとも思う本だ。

それでもこの本が良いと思うのは、文章を書くとは自分に立ち戻ることなんだなと気づかされることがたくさんある本だからだ。

「書いたもの」と「わたし」を分けて考える

その中でも、昨日からの流れで「相手の反応を過度に気にせずに書いたり、伝えたりすること」を考えるきっかけになったのが、次の部分。

駆け出しのライターの頃には、そういったこと(筆者注:自分が書いたものに対する否定的な反応のこと)があると悩んだが、そのうち「所詮、紙に書いた言葉のことじゃないか。わたしのことではない」と考えるようになった。そして前へ進みほかのことを書いた。そしてまたほかのことを。そしてまたほかのことを。(同書39ページ)

そう、自分の書いたものや伝えたこと、何かしらの成果物に対して何か否定的な反応を向けられたとき、ここにあるように「それ(書いたもの、伝えたこと、成果物)は、わたしではない」と思うことはとても大切だ。

そう思えるようになれば、誰かが自分が書いたものや仕事ぶりに対して辛辣なコメントをしていたとしても、辛辣なコメントを向けられた仕事と自分自身を一度は切り離して考えることができる。

そうすると何が良いって「あー、自分はなんてダメなヤツなんだ…」と漠然と落ち込むことを最小限に抑えることができる。それができれば、貴重な時間とエネルギーの節約になる。

その上で「で、今回の自分の仕事のどこが悪かったんだっけ?」と、本来、時間をかけるべきところに早い段階から取りかかることができるようになる。

こう書いてみると何のことはないようにも見えるかもしれないが、頭の中で

・書いたもの ≠ わたし

を明確に意識することは、とても大事なことだ。「書いたもの」の部分を「伝えたこと」や「仕事の成果」などに置き換えても同じ。

上でも書いたように、自分が書いたものなどに否定的なフィードバックをされると、特にその直後は、「指摘されてしまった自分」と「指摘された内容」を明確に区別できないでいることが多い。

時間がたっても、それを区別できないでいると、往々にして頭の中では「指摘されてしまった自分」の方が大きくなっていく。そして、せっかくの「指摘された内容」がボロボロとこぼれ落ちていってしまう。

わざわざ書かなくてもわかるように、きちんと受け止めなくてはいけないのは「指摘された内容」の方だ。そして、その「指摘された内容」に向き合い始めることで、自分にとっての学びが始まる。

ここで「指摘されてしまった自分」と「指摘された内容」が渾然一体となってしまっていると、せっかくの学びが始まらないどころか、自分を責め出したり、返す刀で指摘した相手を責め出したりしてしまう。ただし、いくら自分や相手を責めたところで、自分にとっての学びは一向に始まらない。

時間は有限だ。

だから、何かを指摘されてしまった時には、ワインバーグの知恵を拝借して、「それ(書いたもの、伝えたこと、成果物)は、わたしではない」と唱え、少しでも早く学びを始めよう。

「文章読本」には、文章を書くための具体的なアドバイスも紹介されているけど、長くなったので、それは次の機会に紹介しよう。

Photo by Jessica Lewis on Unsplash

■最後まで読んでいただき、ありがとうございました■
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新井 宏征(『実践 シナリオ・プランニング』著者、株式会社スタイリッシュ・アイデア代表)
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