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インタビュー調査のオリエンテーション③〜「業界知識」よりも「業務知識」、そして「調査結果の利用法」を共有すること

「知っている」と「理解している」と「できる」の間には雲泥の差があります。「知っている」というのは、その言葉や概念を知識として知っているということ。「理解している」とはその内容が具体的にわかっていること。「できる」とは、我が身をもってそれを実行できることです。

マーケティングをメーカーやIT企業の現場で体験し、調査会社の現場も体験している私は、以前から、調査会社のマーケティングリサーチャーはマーケティングを「理解」している人は少なく、「できる」人はもっと少ないと感じてきました。

マーケティングリサーチャーが肩書であってもマーケティングを理解している人は実は少ないのです。コトラーの本は読んだことがあっても、あるいは統計やインタビューの専門家ではあっても、自分でモノやサービスを企画したことも、開発したことも、売ったこともない人は、その現場で何が起きているのかの想像ができないのです。例えば「コンセプト」という言葉は知っていても、その明確な定義や、あるべき姿や、作り方などを語れる人は少なく、自分で作って見せられる人はもっと少ないわけです。まして、先々に大ヒットしたものであっても、作った直後には影に日向に社内でボコボコにそれが批判にさらされることなどには思いも及びません(笑)。

これが、私が「リサーチングマーケター」を名乗る由縁です。セルフブランディングの観点において、そのような一般的なマーケティングリサーチャーとは一線を画したいという僭越なあがきです。

マーケティングリサーチャーがマーケティングを理解していないとはどういうことなのかと言うと、調査結果の利用のされ方、調査の後工程がわかっていないということです。つまり、その後工程に必要な情報が何なのかがわかっていないということになります。要はマーケティング現場の調査に対する「クライアントニーズ」がわからないのです。

これは、前回述べた「状況把握」がされていないことと相乗すると深刻な問題となります。それが一般的な状況であるが故に、満足度3.8%といったことが起きているわけです。

しかし現実には「理解している」以上の人は多くないですし、「餅は餅屋」で、マーケティングを理解していなくても、マーケティングリサーチャーにはリスペクトするべきスペシャリティがあるわけですから、その問題をどうクリアするのがを考える必要があります。

まず、C/S領域の現場情報の共有は必須です。

ついで、マーケティングリサーチャーはクライアントの「業界知識」よりもむしろ「業務知識」を身につけるべきだと言えます。例えば、商品や広告の開発プロセスに関しての知識や、モノの売り方についての知識です。「業界知識」よりも「業務知識」なのです。これは、再現性をもって新事業や新商品を成功させてきたマーケティング実務者の事例に関する体験や理論、手法を学ぶことが一つの有力な手段です。成功も失敗も含め、そのプロセスを疑似体験するのです。

また、私は「マーケティングのリバースエンジニアリング」と呼んでいますが、良きにつけ悪しきにつけ、世の中で話題になっている商品やサービスについて、なぜそれがそうなったのか、という思考実験、脳内シミュレーションを行うことがそのトレーニングになります。例えば以前に「O家具理論」を紹介しましたが、あのような思考実験がそれにあたります。世の中に出てきた新商品が成功するのかしないのかを、根拠をもって予想することも有益です。

その「勉強」の範囲がクライアントを超えると、それはS/C領域の武器となります。

もう一つの有力な手段は、現場のクライアントからそれを学び取ることです。そのためには、クライアントから聴取されるべきC/S領域には「調査結果をどのように利用するのか」という観点の具体的な情報が含まれるようにする必要があります。前回、「調査」ではなく「経緯」の観点でヒアリングするということを申しましたが、その時間軸を延長してさらに「調査後どうするのか?」という観点も必要だということです。その利用の仕方ですが、観念的な話ではなく、具体的にどの調査項目を何にどのように使うのかという具体的なレベルで把握されることが望ましいわけです。例えば、何かの判断に使われるのだとしたら「判断に使う」だけでは不十分でその「判断基準」を明確にしておく必要があるわけです。

また、同じような調査でもそれが商品開発に使われるのか、販促に使われるのかではあるべき細部の調査仕様は異なってくるわけですし、商品開発に使うと言ってもクライアント社内での商品開発スタイルや思想の違いによって必要な調査項目や分析軸は違ってくるわけです。

マーケティングの実力のあるしっかりとしたクライアントは、後工程についてもそれなりのしっかりした考え方やシステムを持っています。しかし、実はクライアントも「参考情報にしたい」といった程度の認識しか持っていないことも少なからずあるのが実態です。「こう使いたい」という明確な目的も意思もないわけです。

これはクライアント側においてもマーケティング知識や経験が必ずしも豊富ではないことや、そもそも調査に対しての期待感が高くはないことに起因します。ですが、こういったモチベーションで行われた調査結果は活用されませんし、それが調査の価値や満足度を下げ、ひいては期待感の低さに悪循環するという不幸な結果を招きます。

しかし、これはこれで現実としてはあるわけですから、その場合は、S/C領域でリサーチャー側からその使い方を提示してみるか、あるいは、それがリサーチャー側にもない場合には、お互いに「持ちネタ」をハラを割って話をした後に、S/S領域でその使い方を共に考えるといったプロセスが必要であるわけです。これがパートナー関係です。

S/S領域の検討の結果、本当に見るか見ないかもわからない「参考情報」にするしか無いような調査だと明らかになったとしたら、良心のあるマーケティングリサーチャーは「調査の中止」を進言するべきでしょう。それがクライアントのためでもあり、調査業界のためでもあります。何よりもリサーチャー本人の実力と信用を高めることにもなります。私も何度かそのような経験があります。

調査企画書には必ず、「調査の背景」と「調査結果の利用法」を記載することが肝要です。これを習慣づけることによって、オリエンテーションにおいて「調査」のアスキングではなく 「経緯」や「後工程」のリスニングが行われることが動機づけられるようになります。クライアントも、リサーチャーと背景や結果の利用法の共有ができているのか否かの確認ができますから、より安心と信頼が高まることにもなります。

何よりも、調査の価値、調査への満足度が高まることは言うまでもありません。


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