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「イノベーション統一理論」⑧~「ブルー・オーシャン理論」と「NOHL理論」の対比及び統合

表裏の関係にあるNOHL理論とCAS理論はすでに統合されており、ブルー・オーシャン理論とCAS理論も前回のように統合できることを示しました。故にこの2つの理論も統合できるはずです。

この2つの理論は共に 「商品価値」観点です。すなわち「表裏」の関係ではなく「類似・同類」の関係となります。今回はその類似性と差異性を検討した上で、相互に補い合えるかという観点でこれらの理論の統合にアプローチしてみたいと思います。

まず、前回もお見せした「イエローテイル」の戦略キャンバス・価値曲線は以下の通りです。

イエローテイルのような新たな価値曲線を生み出すためには4つのアクションというプロセスが必要です。その4つのアクションとCASを対比させたのが下図でした。

この図は従来の既存の商品価値に対してNOHL理論で言うところのNew-Nゾーンを生み出す商品要素も示唆しています。すでにNOHL理論と統合されたCAS理論・ニーズの系統発生理論によりNew-Nゾーンを生み出す商品要素とは「ディファレントニーズ」を満たす商品要素であるということができます。下図も既出ですが、ブルー・オーシャンであるNew-Nゾーンとニーズの系統発生の関係です。

すなわちNew-Nゾーンをもたらす商品要素とは、この「酒好きが集まるカジュアルなパーティのホストを務める」というシーンにおいて「ワインも含めて友人たちの好みの酒を悩まず選んでもてなせる」という未充足のベネフィットを満たし「気軽にパーティ用ワインを選べる生活」を生み出す商品要素です。

New-Nゾーンに位置付けられる商品=イエローテイルを開発するためには、従来のワインにあるその「悩まず選べる」という条件を阻害する商品要素は「減らしたり、取り除いたり」する必要があります。また、その条件を促進してNew-Nゾーンへ誘う要因は「増やしたり、付け加えたり」する必要があります。特にその「悩まず選べる」というディファレント条件すなわち魅力条件(購入促進条件)は今までにワインには存在しなかったものですから新たな商品要素を「付け加える」ことが必要でしょう。

一方、ワインには「香りや味わい」、「伝統や格式」など従来から存在した競争要因・商品要素がありました。それらのレベルを高めることがワインというカテゴリーにおいてH方向へ価値を高める要因となっていたものです。しかしカジュアルなパーティというオケージョンでは逆に「選びにくさ」という問題を生むそれらの要素はそのオケージョンで利用される商品からは基本的に「取り除く」ことが検討されなければなりません。それもディファレント条件を満たす手段です。

しかしイエローテイルはどこまで行ってもワインには違いありませんから、ワインとして認められる必要条件(購入保障条件)は満たされる必要があります。完全に取り除くとそれはもはやワインと呼べず、ビールやカクテルドリンクと違いのないものになってしまうでしょう。

つまり、これらの従来から存在した商品要素は減らしてもカテゴリーとして認められるだけの必要条件のレベルは維持しなければなりませんから完全に取り除くことはできないということになります。

このようにブルー・オーシャン理論をNOHL理論やCAS・ニーズの系統発生理論と対比したことでキム&モボルニュも明らかにしていなかった4つのアクションの本質が明らかになったといえます。

その観点、考え方で具体的にイエローテイルをNOHL平面で表すと下図のようになります。この図において使われている競争要因=商品要素は上記の戦略キャンパスと同様です。すなわち、上記の戦略キャンパス・価値曲線が描かれた時点で、同様の情報を得ていれば同様に作成可能であったものだと言えます。

イエローテイルはそれまでには潜在していた「気軽にパーティ用ワインを選べる生活」を実現していますから明らかにその登場時点で従来のワインやビール・カクテルドリンクよりN方向に位置付けられると考えられます。そこに位置付けられるのは戦略キャンパスで付け加えられた「飲みやすさ、選びやすさ、楽しさと冒険」と、取り除かれた「伝統、ワイン用語、種類」などといった商品要素によるものです。

従来のワインが競争要因としていた「等級、格、コク・味わい、熟成、価格」などの要素については相対的な「レベル」が存在します。故に本図ではH=レベルを規定する要素としました。それらの要素はパーティ用のワインとして最低限のレベルを必要条件として満たす必要があります。但し、これらの要素はワインをOゾーンに位置付ける要素であるとも解釈できますから可能な限り減らしたり取り除いたりするべきものだとも言えます。故にあくまでも「ワインとして認識され、かつ、パーティでのもてなし用として最低のレベル」を必要条件としてあえて戦略的に目指すのだということになります。

この分析で明らかになったのは、戦略キャンバスをNOHL図に置き換えたことによってこの検討のようにより精緻な戦略策定ができるようになるということです。戦略キャンバスの4つのアクションは試行錯誤的ですが、NOHL理論及びCAS理論の概念を取り入れたことでそのアクションが戦略的に実行できるということです。

上記のようなケーススタディを経た上で、NOHL図と戦略キャンパスの考え方を統合すると下図のようになると考えます。※

※図中「JOB解決」とありますがこれは次のJOB理論検討のパートでご説明します。

即ち、ディファレントニーズのディファレント条件をクリアしてNew-Nゾーン=ブルー・オーシャンに入る基本は従来あった商品特徴(商品要素)を取り除くか、新たに付け加えるか、というところにあるということになります。言い方を変えると取り除くか付け加える目的はディファレントニーズを満たすことであるということにもなります。

例外的に4つのアクションのプロセスで既存の商品要素を取り除いたり、新たにつけ加えることがなく、既存の商品要素のレベルの組み合わせに際だった特徴が生じる場合(価値曲線に独自性やメリハリが生じた場合)でもディファレントニーズに応えられることがある場合も考えられますが、その場合には潜在していても常に「ディファレント条件をクリアする」という新たな価値、商品特徴が付加されるわけですからこの図で説明できるということになります(すなわち付け加えられた要素が潜在しているということ)。むしろオリジナルの戦略キャンバスでは説明されていなかった、そのような潜在価値の生じ方の説明ができることや、そのような潜在価値を見出すことができることにこの図の意味があるということになります。

さて、このように考えますと「戦略キャンバスの改良」という大胆なアイデアも生まれます。具体的には「NOHL図と戦略キャンバスの統合」です。

まずイエローテイルのオリジナルの戦略キャンバスに若干加筆したものを示します。

ここで注目していただきたいのは「4つのアクション」の並び順です。
「増やす」→「取り除く」→「減らす」→「付け加える」となっています。キム&モボルニュがなぜこのような並び順にしたのかについては原典では私の認識する限り説明はされておらず、それぞれがコストとの関係で説明されているのみです。特にルールがあるようにも説明されていません。しかし上記のNOHL図との関係で考えた場合この並び順は「増やす」→「減らす」→「取り除く」→「付け加える」と決めるべきだということになります。そう考えるとこの戦略キャンバスは下図のようになります。「増やす」「減らす」「取り除く」は従来からこのカテゴリーにあった商品要素に関するアクションであり、「付け加える」は従来はこのカテゴリーには無かった商品要素に関するアクションだと整理することもできます。

上図をさらにNOHL平面の概念と重ねたものが下図です。

この「NOHL-戦略キャンパス統合図」を一般化したものが下図です。

このように考えますと、NOHL図が商品全体の価値を主に図上に表現しその要因となる商品要素については従であったのが、戦略キャンパスは商品要素を主に図上に表現しており、商品全体の価値については従であるという表現の仕方だという事ができます。すなわちこの図は戦略キャンバスの商品要素についてNOHL理論でその位置づけを分析しようとするものです。

戦略キャンバスとNOHL図の違いはその用途の違いや用いられる状況の違いを規定することにもなります。具体的には商品価値として検討する場合にはNOHL図が便利であり、商品要素として検討する場合は戦略キャンバスが便利です。また、ブルー・オーシャン理論には「リサーチ」という概念が希薄なのですが、商品知識のあまり無い生活者を対象に価値評価調査を行う場合には商品要素個別での評価は難しく、商品価値全体としてNOHL理論に基づいて行うことが合理的です。一方商品知識を十分に持つ企業内で商品要素を検討する場合には戦略キャンバスを使う方がなじみやすいことがあると考えられます。すなわち、イノベーション開発において、単一の理論・手法に依拠するよりもより対応、応用の幅が広がっているわけです。

また、NOHL理論もブルー・オーシャン理論も商品価値観点であるため、その背後にあるニーズについては表現されていないということも言えることです※。そのニーズの観点があってこそこの両図の意味が解き明かせたということもこれまでの検討で明らかになっていることです。それはディファレントニーズの観点があれば商品要素に対しての4つのアクションの方向性、すなわちNew-Nゾーンに位置付けられる商品の方向性を明らかにすることができるということです。

※特にNOHL理論にはIレベルという「どの程度ニーズに応えているか」という概念がありますがブルー・オーシャン理論には全くニーズの概念がありません。

ここにもこれら理論統合の意義があるということになります。

次にこの図式の妥当性を事例によって検討してみました。原典にある各種オリジナルの戦略キャンパス・価値曲線は以下の通りでした。

これらを上述の図式に当てはめさらにどのようなディファレントニーズに応えてどのような「新しい生活」をもたらしたのかを付記したものが下図です。

当然ですが価値曲線で各商品・サービスの商品要素のあり様が表現されるとともに、NOHL平面でNew-Nゾーンに位置付けられるような新たな商品価値を生んでブルー・オーシャン化させるアクション、商品要素が明らかになります。さらに、それがどのようなディファレントニーズに応え、どのような新しい生活を提供するのかも図上に表現できるようになったわけです。結果としてこの図ではオリジナルの戦略キャンバスよりも分析の結果が見やすく、理解しやすくなったのではないかと思われます。これは企業内で情報を共有する場合に重要かつ有用な条件です。

このように理論の統合にはメリットがあるわけですが、それは逆の見方をすると各理論には不足点があるということにもなります。次回はその観点でここまでの分析をまとめてみたいと思います。


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