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インタビュー調査の分析入門〜「分類」と「分析」の違い

ここまでに、調査企画についてはインタビューフローの実態やあるべき考え方から始まり、NEC理論によるリクルートの考え方、意識マトリクス理論による企画立案の原理原則、クライアントとリサーチャーの関係性などの話をしてきました。

インタビューと言うと「聞き出すチカラ」的なインタビュアーの手練手管的テクニック論に陥りがちですが、広く情報を得るためには虚心坦懐に傾聴(リスニング)することが最重要です。そこではアスキングのテクニックなど枝葉末節に過ぎないし、アスキングのテクニックに走ることがむしろインタビュー調査のクオリティを下げることになってしまうのは、意識マトリクス理論で単純明快に説明できるところです。おさらいのために下図を再掲します。

一方で「傾聴の仕方」=「リスニングのテクニック」というのは当然あるわけです。そしてその「傾聴」の結果は、結局、後工程の「分析」に役立つ情報が得られるかどうかがそのクオリティの判断基準になります。後工程の分析のクオリティは当然、調査目的の達成とマーケティング課題の解決がその判断基準です。

したがって、インタビュアーは意識マトリクスにおけるクライアントの状況と調査構造以外にも、後工程の分析について自ら「できる」レベルで理解をしておく必要があります。自分が分析者の立場になってこそ、自分の聞いている話の価値が判断できるのです。下図も再掲します。分析スキルと言うのはS/C領域にあるべきものです。調査とマーケティングの成功のためには、分析のありようをクライアントの思い付きで指示されるべきものではありません。特にクライアントがどこかで聞きかじって来た「○○とやら」の打診には、以前にも述べましたように慎重であるべきです。

しかし、私見ですが、その「分析」ができないインタビュアーが大半です。それは今までにも触れてきましたが、生活者の話の中にある何気ない生活の情景から、当人にすら意識もされていない生活課題を発見し、それを企業のマーケティング課題にホンヤクできるのか?ということです。これも再掲です。

それができないから、その「答え」を直接対象者に求めざるを得なくなります。それがS/C領域でのアスキングにつながるのだということは繰り返し述べてきているとおもいます。

今回からはその分析について書いていきたいと思います。

このように書くとインタビュアーの多くは「私は分析をやっている」と青筋を立てて反論すると思います。しかし多くの方々がやっているのは、発言の「分類」にしか過ぎません。つまり「分類と分析の違い」が認識されていないのです。

「分類」と「分析」は似た言葉ですが意味が違います。

ぶん‐るい【分類】
[名](スル)事物をその種類・性質・系統などに従って分けること。同類のものをまとめ、いくつかの集まりに区分すること。類別。「五十音順に―する」「―表」

goo 辞書

「分類」とは既知の概念に当てはめて分けることです。採集した鉱物サンプルをその特徴で判断して、火成岩か堆積岩か変成岩かと分けていくようなことです。インタビューの場合、例えば、「ポジティブ・ネガティブ別」とか「発言者別」、「質問別」、「婚姻状況・家族構成別」、「住居形態別」などの既知の「属性別」に発言を分けることがそれに該当します。これはグルインの発言録のフォーマットにも反映されており、「セル方式」と呼ばれている「発言者別・質問別」の一般的な記録法は、この分類に便利なために採用されるわけです。報告書においても「ポジ・ネガ」であったり、「各質問別」に「各対象者別」の回答が分類整理されて記載されることが一般的です。

ぶん‐せき【分析】
[名](スル)
複雑な事柄を一つ一つの要素や成分に分け、その構成などを明らかにすること。「情勢の―があまい」「事故の原因を―する」
哲学で、複雑な現象・概念などを、それを構成している要素に分けて解明すること。⇔総合
物質の組成を調べ、その成分の種類や量の割合を明らかにすること。

goo 辞書

一方「分析」とは「最小の単位・要素にまで事物を切り分ける」ことを言います。例えば、「この液体の中には何が含まれているのか」をガスクロマトグラフィーや遺伝子解析で明らかにしたりするようなことです。インタビュー調査の場合には、得られた発言を調査課題に対しての意味合いで解釈し、その解釈を最小の要素にまで切り分けていくことが分析です。最小の要素とは、その中に接続詞でつながれるような「論理」や「関係」を持たない単位のものです。発言の意味合いを解釈するためにはその発言までの文脈、シークエンスを考慮する必要があります。したがって、グルインの記録法はセル方式ではなく「ベタ打ち」方式の方が有利です。また、報告書はその切り分けの結果によって初めてフォーマットが決まってくるわけです。

※世の実態は「セル方式」が大半ですが、これこそがインタビューの「分析」と呼ばれているものが実は「発言の分類」であることの一つのあらわれです。

埋めるフォーマットが先に決まっているのか、結果として決まるのかという点にも「分類思考」と「分析思考」の違いが現れます。分類思考ではこれから得られる情報をこの「分類項目」によって分類しようとするモチベーションでフォーマットが先に決められます。その結果、その各セルに該当する発言、情報を獲得してそこを埋めていこうとするモチベーションが発生しますから、アスキングに陥りがちになります。特にその対象者には意識されていないことでも、そのセルがあればなんとか手練手管を使ったアスキングでそこを埋めようとするわけです。これはS/C領域への侵入に他ならないわけです。

分析思考では結果として出てきた話を切り分けていくのですからアスキングを行う必要は無いわけです。むしろ切り分ける対象=調査課題に対しての意味を持つ話、すなわちC/S領域のナラティブ、エピソードを増やすことに集中していれば良いわけです。ネタを増やせば増やすほど、その中に未知のものが含まれる可能性は高くなります。

この点において、私は浅薄な「フレームワーク」には懐疑的です。この話は追ってしていきたいと思いますが、その例は「ペルソナチャート」であったり「カスタマージャーニーマップ」であったりします。特にその使われ方が、「先にフォーマットありき」では分類思考になりがちですからアスキングに陥るわけです。定性調査、インタビュー調査の威力とはむしろ、その「フレーム」すら破壊したり、創造したりできるところにあるのです。しかしリサーチャーの考え方すら「フレーム」に制限されているところでは、創造的なことができるはずもないのです。インタビュー調査と言うものはもっと創造的なものであるべきです。

分類と分析の決定的な違いは「発見の有無」です。

分類は既存の概念によって分けていくわけですから発見は生みません。既存の概念からは外れないのです。多少の違和感があっても既存の概念の枠の中に押し込められるわけです。「変成岩」という概念が無ければ、変成岩は多少の違和感は持たれながらも、堆積岩か火成岩かのどちらかに分類されてしまうのです。なので「変成岩」の発見は起きないわけです。インタビューの「分析」(本当は「分類」)としては「わかっていた」ようなことしか出てこなかったということになります。

しかし、企画のパートで「飲食店の情報に金融機関が興味を示した」例でも触れましたが、そのような「違和感」は意図的にせよ、無意図的にせよ、悪く言えば隠ぺい、よく言ってもスルーされる傾向があるのが悲しい実態であるのです。

一方、分析をしていくと、最小限の要素にまで切り分けていく中で、既存の概念には当てはまらないものが出てきます。「ちょっと変だな」と思って変成岩の成分を切り出していくと、堆積岩でも火成岩でもない未知の成分がでてくるようなものです。また、既知であっても、そこにはあるはずのないものが出てきたりもします。特にC/S領域はそもそもが領域自体が未知なのですから、宝の山です。つまりそこでの「分析」は、多くの「発見」を生むわけです。

インタビュー調査が「分類思考」に陥りがちになるのは、アンケート調査の影響が大きいかと思われます。業界関係者の大半は定量調査をより多く体験していても、定性調査に関しての経験は不十分です。従って、インタビュー調査をアンケート調査と同じように考えがちになります。それが質問の列記羅列のインタビューフローであったり、クロス集計と同じ考え方での情報分類であったりするわけです。それで事が済むのなら、オンライン化でコストが劇的に低下している昨今は、定量調査を行うべきなのです。

※「クロス分析」と言いますが、大半は属性などによるデータの分類です。本当に「分析」と呼ぶべきなのは、様々にマイニングをかけてみたときに、今までになかった概念での切り口が見つかるようなものに限られるべきでしょう。

分類思考というのはそれ自体が決して悪いわけではないのですが、本来発見を求められるべきインタビュー調査の場面では、それが前面に立ってしまうと大きな弊害を生むということです。しかし、分類思考のインタビュー、すなわちアスキングが大半であるからこそ、満足度3.8%という事態が引き起こされているのだと私は考えています。


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