オリエンテーションから調査企画までを「意識マトリクス」で統合する
インタビュー調査、というか、調査一般のオリエンテーションの進め方と、調査企画の原理原則を説明しました。すでに簡単に触れておりますが、この一連のプロセスが実は「意識マトリクス理論」で統合されます。
下図が、オリエンテーションから調査企画決定までの場面での意識マトリクスです。「Z攻撃」によって、C/C領域→C/S領域→S/C領域が順に共有され、最終的にS/S領域が創発・共有されるというシステムです。各領域間の仕切り線が破線なのは、それぞれの領域はクライアントとリサーチャー各々の意識領域の広さによって可変であることを表しています。
以下にそれぞれの領域について説明していきます。
C/C領域
リサーチャーにもクライアントにも「オリエンテーション」というからには「調査の必要性」があり、それによってリサーチャーに対してクライアントには「調査の要望」があるということは認識されているわけです。それがオリエンテーションの最初の状態です。もし、クライアントの調査スキルが非常に高く、両者の間に日ごろから「発注元と下請け」の関係が確立しているのならそうではないのですが、一般的なクライアントのレベルではここには「とりあえず」というレベルで、調査の目的や手法、仕様などについてのイメージや、予算や納期のイメージがあるだけです。いわば「たたき台」と言ってもよいかもしれません。リサーチャー側も、調査を請ける以上、そういったことを決めていかなければならないということだけは意識できています。
しかしそれは、多くの場合「なんとなく」のイメージでもあって、クライアントにもリサーチャーにもそれでマーケティング課題が解決できるという自信・確信や論理は共有されてはいません。なのでこの図内には「偽」とか「仮」といった言葉が入っています。あくまでも「なんとなく」のイメージです。
これは、「挨拶」に付随して交わされるような情報です。仮に、この状態で調査の受発注が決定されてしまうと、それでマーケティング課題が解決されるかどうかは運任せということになります。また、この状態でリサーチャーが調査仕様などの細部についてクライアントにアスキングを行ったとしても、それはまさにS/C領域への侵入を発生させるだけですから、危うさと言うのは何も変わらない、むしろ高まるということになります。しかし、そういうことは経験上普通にあると思われます。
C/S領域
そこで、気の利いたリサーチャーは「ヒアリング」すなわち、C/S領域のリスニングを行います。クライアントはこの図のように物事を明確かつ構造的に認識しているとは限りませんが、マーケティングリサーチが必要と感じられるようになった背景や経緯は語ることができるわけです。その中には現状と目標、およびそのギャップがあります。また、目標を達成することの目的と、ギャップに対応した課題があります。その課題を解決するための施策が必要なことは明確に問題意識としてあり、そのために調査結果を利用したいという意向も間違いなくあるわけです。また、そのために費やすことが可能な費用と期間の見込みもあるでしょう。
また、重要なのはその課題が発生している状況であり、それはこの図の中では
C(Circumstance)+4c
として表現されています。これはマーケティング環境を示す私オリジナルの表現ですが、C(以後、ビッグCと呼びます)とは、外部の自然環境と社会環境で、例えば、天候や気候から、パンデミックのような天災であったり、経済状況や政治、思想のトレンドなどが入ります。4c(スモールcと呼びます)とはマーケティング用語で、Customer(顧客)、Competitor(競合)、自社(Company)とチャンネル(Channel)です。
すべてのマーケティング課題はこのC+4cから逃れることはできません。C+4cによって市場の見え方、捉えられ方が違ってくるからです。例えば、トップ企業と下位企業では違いますし、上昇局面と下降局面でも違うわけです。そもそもこのC+4cの見え方自体がそれぞれのクライアントの主観的なものだと言ってよいでしょう。しかし、その主観状況の中でマーケティング課題というのは発生しているのです。
上記のような情報を具体的に得てこの図のように構造化することが「状況把握」です。クライアントからのこの状況の見え方というのは千差万別の環境と主観に依存するわけですし、この図のように構造的に整理されて認識されているわけでもありませんから、このヒアリングは「アスキング」ではなく「リスニング」で行われなけれなりません。
そのアプローチ(インタビューフロー)はすでに一部述べていますが
①「調査を必要だと思われるようになった『経緯』」を聞かせてほしい。
②「調査の後工程、この調査の結果をどのように利用したいのか」を聞かせてほしい
③調査に対して特に要望があれば(予算や納期など)その事情を聞かせてほしい(そうなっている経緯も含めて)
という「インタビューフロー」をつかうことです。逆に言うとそれ以外は必要ありませんし、「マーケティング課題は何ですか?」というようなアスキングのアプローチをしないことも肝心です。状況は千差万別の主観なのでここをチェックリストや質問紙にすること、すなわちその結果としてアスキングになることをしてはいけないわけです。
つづく
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