"ニューリテールの本質を知ることは新たなビジネス機会創出につながる" -China Conference Vol.2イベントレポート-
スタイラー代表取締役、小関 翼と日本美食株式会社CEO董 路(Lu Dong)氏が日本のインターネット業界はもとより、ビジネスマンへのヒントになればと始めた『China Conference』。
シリーズ2回目となる今回のテーマは「ニュー・リテール」。
6月14日のトークイベントでは、衣食住にまつわる企業の事例を元にニューリテールの現状と今後、そしてそれを日本がどう応用していくかについて語りました。
ニューリテールについて話をする前に、外せないのが二人の経歴。小関はこれまで国内外の金融機関、Amazonに勤務した後、スタイラー株式会社を創立し、アパレル企業向けにニューリテール プラットフォーム、FACYを提供している(https://apple.co/2FHKpB9)。
活動範囲は中国、台湾、さらに今月末はシンガポールで開催されるテックカンファレンスSeamless Asia 2019でもニューリテールのトレンドについて基調講演を行う。
董も、中国で戦略コンサル、VC、アパレル系ECを立ち上げた後、日本で、日本美食株式会社を創立。現在はスマホ決済サービスTakeMe Pay(https://www.takemepay.com/)を展開している。また、かつて中国国内で立ち上げたEC事業は中国全土に20店舗展開し、当時オンライン・オフラインという言葉がなかった時から、ECと実店舗の垣根を超えたユーザー中心のコマースのあり方を実現した経験を持つ。
小関 我々のキャリアは、金融、Web、小売と全く異なる業界を横断的に渡ってきており、日本ではかなり特殊と言えますね。今回のニューリテールの話は、実はそことも大きく関係してくるかなと思っています。
董 おっしゃる通りですね。ニューリテールはユーザー中心に各分野横断の知見が必要ですから。また、私が今まで展開してきた事業は全て業界未経験で立ち上げてきています。やったことがないからこそ、この業界のディストラクティブ・イノベーションを起こすことができたのではないかと思います。
中国のニューリテールもオールドリテールを革新するような意味でやっていますので、我々の経験も当てはまるのではないかと思います。
ニューリテールとは何か
ニュー・リテールとは、2016年のアリババ・コンピューティングカンファレンスでアリババ創業者のジャック・マーが、今後ECだけ純粋にやっていたら存在価値がなくなる。もっとオフラインとシームレスに繋がったニューリテールでなければ生き残れないというを表明したのが発端です。もちろん、アリババは年の流通額が80兆円を超えるEC事業者です。
その後、2018年のInteropで、アリババが下記の図でまとめられているので見てみましょう。
成長機会はオフラインにある
小関 董さんにお尋ねしますが、アリババが、オンラインだと成長スピードが遅いというのは、日本人が見ると、これはオフラインのことを言っているのでは?と感じるかもしれません。日本人にはインターネットビジネスは、成長スピードが早いという印象がありますから。
董 まさに中国ならではですが、オンラインの世界は現在非常に競争が激しく、新規顧客獲得コストが高騰し、相当お金をかけるか、あるいは相当革新的なグロースハックをしないと成長が鈍化してきているというのが現状です。それに対してオフラインは、例えば最近流行っているLuckin Cofeeが1年半で2,000店舗展開することができたように、非常に伸びが早いと実感として持たれています。
マーケットの機会としてはインターネットだけではなく、オフラインも豊富に中国はあるというのが特徴。ただ裏を返すと、オフラインは運営コストがもちろんかかる。
そこで、オフラインの世界にデータやテクノロジー、さらにはエンターテイメント性を取り入れ上手く商業化しているアリババ傘下の盒馬鮮生(以下フーマー)を事例として見てみよう。
フーマーでは、店舗で商品についているQRをスキャンするとアプリ上で、その商品の説明や、レシピを見ることができる。さらにフーマーから半径3キロメートル以内に住んでいれば、アプリで注文して30分以内で自宅に配送される。店内には多くの店員がインターネット上で注文されたオーダーをバッグに詰め込み、裏側の配送センターからオーダーした消費者の自宅に届けられる。
店員は店頭にいるお客へのサービスだけでなく、オンラインのオーダーもフルフィルメントと店頭で対応をしている。
董 わざわざ店内を走り回り、オンライン上のオーダー対応までするのかと思いますが、来店しているお客様に対して「今度は来店しなくても、こういう風にあなたの商品はお店からピックアップして、あなたの自宅に発送できます」という演出も込めてやっています。
さらに、フーマーには巨大な生け簀があり、魚介類は来店客が生け簀から取り出して決済した後、調理カウンターで調理法・味付けを指定すると、店内常駐の調理師がその場で料理し店内のテーブルで食べられるサービスも展開されている。
董 この背景ですが、中国ではサービスのクオリティも商品のクオリティも高くないものが多いので、あえて生きている魚介類を売ることで、新鮮であることをアピールする。そうすると、他の食品も全て新鮮だというブランディングになります。イメージを変えるために行なっています。
小関 裏を返していうと、ある意味お金を払ってでもこういう新鮮なものを買いたいという消費者が増えているということですね。
ニューリテールの主役は中産階級
下記の図は、中産階級の定義です。5万ドルから10万ドル(500万〜5000万)の個人資産を持っている人が中産階級と定義されていますが、実はその人数は中国が世界No1。2016年の統計であるがその数は、約1億3千万人います。これだけの資産を持っている人は日本でもお金もちと言われている人たち。実は中産階級の絶対的人数は今や中国が1位なのです。(実質GDPの計算)
小関 収入の増加と共に、毎年新しいトレンドが出てきているし、それが欲されているというイメージですね。
董 そうですね。新しいものが出てきたらどんどんお金を出して買う。なぜかというとお金を使い終わったら来年また増える。というのが中国人の今の発想です。
ニューリテールのトレンドも中国ミドル層と大きく関わっている。2つ目の事例、一条を紹介する。
一条は時価総額1兆円を超える企業。SNS上にライフスタイル、アート、カルチャーに関する質の高いコンテンツ動画をアップする分散型動画メディアで有名です。
しかしながら、一条はメディアだけではなく、コマースを行なっている。日本人でも違和感のない質の高い商品店内に陳列されており、タグについたQRをスキャンすれば商品に関する詳しい情報がわかります。店側は店頭自体も顧客獲得メディアの一つとして運営し、購買情報を収集しているのです。
ニューリテールとモバイルの親和性
小関 都市の中間層はどんどん所得が上がり、自分が何にお金を払えばライフスタイルが上がったと実感できるのかを、この一条が伝播していると言えますね。さらに特徴的なのは、中国ではスマートフォン以外の情報機器を持たないユーザーが日本より圧倒的に多いため、非常にハイクオリティーなコンテンツをテレビではなくスマートフォンで見るのが一般的になっています。スマートフォンの影響がよく理解できますね。
董 つまりオフラインがなくなってきています。今やオフラインでも、スマホの世界で出来ないことはありません
バズワードではOMO(Online Merges with Offline)と呼びますが、双方が融合している中で、情報収集も購買も全てオンラインでできます。これが中国のニューリテールの本質ではないかと思っています。
小関 スマートフォンが購買のフローにどんどん入ってくると言う話をさせてもらったので、もう一つ別の事例を見ましょう。
3つ目の事例はURBAN REVIVO。中国では200近い店舗数に及び、ブランドイメージは簡単に言うとZARAのコピーキャットであるが、テクノロジーの投資も忘れていない。
URBAN REVIVOの実験店では、ハンガーにかかっているスカートをユーザーが手に取ると、センサーがハンガーに内蔵されており、QR誘導されます。
QRを読み取ると、商品情報を確認できるようになっているため、服の情報を店員に聞く必要がありません。
董 こういったお店を作ろうとするとお金がすごくかかるので、儲からないのではないかと言われますが、実はオフラインでしかできない顧客体験をしっかり提供すればめちゃくちゃ儲かります。
小関 続けて、4つ目の事例を見てみましょうか。
4つ目の事例は造作。シンプルでスタイリッシュなデザインのものをメインに揃えているインテリアショップ。日本人や欧米人のデザイナーがデザインをしているが、中国製なので価格はミドルプライスです。
造作では、ユーザーが商品について店員に聞くのではなく、QRを読み込みスマートフォンを通して「付加価値」を知ります。商品ページには、デザイナーのインタビューから部屋でのコーディネート例などを動画で見るこもできるようになっている。
董 オフラインをやる時に一番悩ましいのは店員の教育です。一律にできるようになるまで時間がかかり、やっとできたら辞めてしまうなどもあります。我々が店舗運営をしていた頃、最後に行き着いたのは、一番優秀な店員は商品ページということです。全て店員が喋ることを集約してページを作れば、これ以上良い店員はいません。
ニューリテールはユーザー中心、データ中心
小関 少し話が戻りますが、普通の小売だと店舗での売上と、不動産代や人件費などの運営コストのバランスで計算します。なので、坪あたりの売上や、店員一人あたりの売上がいくらかを計算します。
一方で、ニューリテール はWeb的な数字の管理方法を導入していますよね?
例えば、スマホによって購買フローにインターネットが挿入されているので、お店で会員登録やユーザー情報収集が可能です。もちろん、後からアプリを通じて売る機会ができますね。そう考えると店舗指標も、単に店舗で売れた金額だけでなく、オンライン上も含めたライフタイムバリューがベースになっています。
董 おっしゃる通りですね。ライフタイムバリューはユーザー視点です。ユーザー獲得コストという視点で見ると、不動産や人件費といった店舗運営コストを払っても、顧客獲得コストは最終的にはめちゃくちゃ安くなります。
今回テーマとして取り上げるニューリテールの背景からは、中国が特殊な訳ではなく、中産階級が暮らす大都市で、スマホ中心の生活をしている場合、インドや東南アジアでも同じような現象が観測できるのが分かります。今後ともChina Conferenceを通して、ビジネスや海外進出に役立つ情報を提供していきます。
スタイラー株式会社と日本美食株式会社の共同運営で、完全招待制の「China conference」グループを運営しております。ご興味がある方は、ぜひ下記のe-mailアドレスまでご連絡くださいませ。
(招待は審査制となりますので、あらかじめご了承ください。)
▼お問い合わせ先
china@styler.link