これまでの家づくりのメリット・デメリットと アフターコロナの注文住宅の考え方 (2)
ローコスト住宅を実現する「その理由」を見極める
なるべくローコストで家を建てたい。
でもそもそも、どうしてそのコストカットが実現しているのでしょうか?
どの方法で家を建てるにしても、その理由をしっかりと理解しておくのは非常に重要。
ローコストには、ローコストなりの理由がしっかりとあるからです。
例えば、フランス料理を格安で提供する「俺のフレンチ」というレストランがあります。
高級料理の代表格でもあるフランス料理を、なぜ格安で提供できるのか?それにはしっかりとした理由が存在します。
通常、外食産業では食材にかけるコスト(原価)は20~30%とされています。そこに人件費や光熱費、家賃などの固定費を上乗せしたものが一皿の料金となるわけです。
ところが、俺のフレンチではその原価率が60%前後、メニューによっては90%を超えることもあるそう。つまりそれだけ、一皿あたりの料理を安く提供しているというわけです。
ではどうしてそんなにもローコストでフランス料理を提供できるのか?その理由が、材料費以外のコストにあります。
通常、フレンチレストランではディナー時のお客の回転数は1回転。つまり、一つのテーブルにつき一組のお客様だけを相手とします。フレンチレストランではコースでゆっくりと食事を楽しむため、そうなってしまうわけですね。
ところが、俺のフレンチでは一組あたりに時間制限を設け、ディナー時でもお客を3回転させます。
1回転でも3回転でも一日あたりの人件費や光熱費はそれほど変わりませんから、3回転させる場合の一テーブルあたりの固定費は、1回転のときと比べて三分の一になるわけです。
つまりそれが、俺のフレンチの料理が安い理由。テーブルをフル回転させてその分人件費や固定費を抑え、格安のフランス料理を提供しているのです。
俺のレストランがローコストで料理を提供できるこの「理由」がしっかりと分かっていれば、安かろう悪かろうのお店ではなく、安くても美味しいフランス料理を食べられるお店という期待を持つことができます(そして実際に、俺のフレンチのお料理は本当に美味しいんです!)。
逆にローコストであることの「理由」が分かっていないと、そんな値段で美味しいフランス料理なんて食べられるわけがない。あるいは、フレンチなのに時間制限があるなんて信じられない!と考えてしまうでしょう。
家づくりの方法を探るときにも、このようにローコストであることの「理由」をしっかりと理解しているなら、自分の納得のいく仕方で、しかもローコストな家づくりができる可能性が高くなるのです。
では、従来どおりの方法で注文住宅を建てる場合、ローコストにできるその「理由」を調べていきましょう。
これまでの家づくりでローコストにできる理由
家づくりに関しても、ローコストにはそれなりの理由があります。
そしてその理由を探ることが、より良い家づくりを見極めるカギでもあるのです。
ハウスメーカー、パワービルダーがローコストにできる理由
ハウスメーカーやパワービルダーがローコストの家づくりを可能にしている音は、大量生産・大量仕入れによるコストダウンです。
大手メーカーでは材料を大量に仕入れることによって、全体的なコストを押し下げています。例えば、床平米あたり3,000円の材木を使うか、一万円なのかによって、一件あたりでは70万円の差が出てくるわけです。キッチンにしても1,000万円もするキッチンもあれば、50万円で済ますことも可能。
建築資材の値段の差は、そのまま性能の違いにも直結します。断熱材一つとっても窓やドアの部材の違いによって、一軒あたり100万円くらいは軽く差が出てしまうのです。
ただし、最初にも述べたように最近のハウスメーカーやパワービルダーの建てる家はローコストでも性能自体は問題ありません。安いものを仕入れているのではなく、大量仕入れによってコストダウンを図っているのですから、モノ自体は悪くないわけです。さらに設計段階でも施工の段階でも同じものをつくるので間違いも減り、工期も短縮されてさらにコストが下がるというわけ。
ですから、とにかくローコストで性能が良い家を安心して建てたいのであれば、ローコストを売りにしているハウスメーカーやパワービルダーにお願いするのが一番おすすめです。
でもそうすると当然ながら、自分の思い通りの家づくりは諦めなければなりません。注文住宅であっても規格以外の対応はできないため、どうしても妥協せざるを得ないからです。
それならそもそも注文住宅にするよりも、建て売りを購入したほうが早いですよね?そしてその方がさらにローコストにできます。
そのため、土地を買って注文住宅を建てるつもりだったのに、予算の関係で注文住宅を諦め、建て売りを買ってリフォームする人もいるくらい。気に入らいない内装の新築建売物件でも、LDKだけ自分好みにしてしまえば、自分のこだわりを反映させることができるからです。そしてその方が、予算もより抑えられるのです。
家づくりにこだわりがないのであれば、それでも良いでしょう。でもそんな人がわざわざこの本を手にすることはないですよね?
ローコストでも自分らしく納得のいく家づくりを実現したいのであれば、ハウスメーカーやパワービルダーを頼るのはやめたほうが良い、ということになります。
工務店や設計事務所がローコストにできる理由
地元の小さな工務店がローコストの注文住宅を建てられるのは、ズバリ余計な間接費がかかっていないからです。
建築業界では広告費や人件費などのコストに、家一軒分の値段の10%以上はかけています。そのため、小さな工務店に頼む場合は、単純にその分だけコストカットになります。
しかしだからといって、あまりにもローコストな家づくりを工務店に押し付けると、トラブルに発展する可能性も少なくありません。何しろ相手は大工さん、職人です。ローコストにこだわるあまり無茶なお願いをすると、へそを曲げかねません。向こうにも職人としてのプライドと、生活がかかっているのですから。大手ハウスメーカーのようなコストダウンを期待するのが、そもそも間違いなのです。
また設計事務所に設計を依頼して工務店が注文住宅を建てる場合、ローコストをお願いすると、コンペで工務店を選んで一番安いところを選ぶという手段を取ることがよくあります。そうすると施工の精度が悪くて工期が延びたり、現場の空気が悪くて依頼者としても気分的に満足できないというケースも多いのです。
では、工務店や設計事務所でローコストの家づくりを実現するにはどうしたら良いか?
そのためには職人さんや設計事務所に任せっきりにするのではなく、こちらがある程度建築のことを知っていなければなりません。
工務店は余計な人件費がかからないのでコストカットできますが、そのかわりに依頼者と職人さんの橋渡しをしてくれるような人がいない、というケースもまま見受けられます。こちらが建築のことについて知っていればよいのですが、そうではない場合はうまく話が噛み合わない、ということもありがちなのです。
また設計事務所に依頼する場合にも、安い建築資材を使っていないかどうかを見極める目を持っている必要があります。
例えば素地を表しにしてみたり、断熱性などのグレードを落としたりすることによってコストダウンを図ることがあります。大手メーカーと違って大量発注によるコストダウンの手法は取れないので、仕方がないですよね。でもそれだと、家の性能が大きく変わってくる可能性があるのです。
そのため工務店や設計事務所に丸投げするのではなく、こちらから家づくりに積極的に関わっていかなければなりません。
具体的には、最低限、次の2つのことができることが望ましいでしょう。
1.図面がしっかり読めること
設計事務所に頼む場合は設計上の間違いなどは考えにくいですが、設計士のいない工務店に直に頼む場合、図面が間違っていたりすることもあります。でも、その図面を読めないと間違いに気が付かずに、仕上がりが思っていたのと違ったり、余計なコストがかかってしまうこともありえます。
また設計事務所は、自分の「作品」を作りたがる傾向があります。使いやすさよりもデザイン重視で、手の届かない高さに窓があったり、収納力が不足している間取り、また壁のスパンが飛びすぎて耐震性が不安な間取りなどを私も実際に見たことがあります。
そのため、設計事務所に図面を引いてもらった割にはローコストで注文住宅が建てられる!と思っていても、施工の段階や完成後に不満を感じる依頼者も少なくないのです。図面が読めればおかしなことがあっても最初の段階で気がつくので、後々問題になることも少なくなります。
2.仕様と見積りの誤差を見抜けること
注文住宅の見積書には決まった書式がなく、各社バラバラです。そのため自分の仕事で見積もりを見る機会が多い人でも、注文住宅の見積書はよく分からないことも多い。普段目にしたことも無いような項目も多いですからね。私も相談者の見積書をよく見てみたら、金額の桁が間違っていたということありました。そして注文住宅の場合は見積もりそのものだけではなく、仕様との誤差を見抜く「目」も求められます。
例えば、断熱材が変わるだけでも金額は大きく変わります。仕様書にはその断熱材のグレードや内容が記載されていますが、見積書には金額しか書かれていない。そのため、見積りと仕様を見比べてその内容で本当に良いかどうか見極めなければなりません。
また写真に映えるという理由で壁をコンパネにしたり、キッチンを業務用のステンレスにすることも多いですが、その仕様をスルーしてしまって実際に使ってみると、ザラザラしていたり掃除が大変…という目に合うことも。
また仕様と見積をしっかりチェックしたとしても、設計事務所の書く図面は詳細がないことが多く、大工が住みやすい家にしよう仕様を変更して工期が延びたり、追加料金を請求されたりすることもあります。そのため、仕様と見積もりのどちらが契約上有効なのか、といったことも確かめておく必要があるのです。
そもそも建築費は積み上げ式です。それぞれの工事、基礎、躯体、外装、内装、設備費などを足した金額が、建築費となります。全部最高級を求めれば、当然安くすることはできません。ローコストを実現するためには総予算の中でどこを優先にするか、そしてどこを削るかを考えなければならないのです。
ここまでをまとめると、ローコストで注文住宅を建てるというのはそんなに簡単なことではない、ということが良くお分かりになったのではないでしょうか。
不安なくローコストで家を建てたいのなら、大量仕入れ・大量生産のハウスメーカーかパワービルダーに頼むのが一番です。しかし、家づくりにこだわりたいのであれば、それもちょっと寂しい。
自分のこだわりを反映させるために工務店や設計事務所にローコストの家づくりを依頼するには、建築に関する知識が求められます。でも今からそんなこともやってられない。
では、どうするか?
次回は具体的な方法についてお話ししたいと思います。