sty

音楽プロデューサーです

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最近の記事

10年前、僕たちは流星だった

夏の匂いがしていた。風はまだ少し暑く、車内に留まった昼間の熱をかき混ぜながら抜けていく。 「あ、ペルセウス流星群だ。」誰かの声を皮切りに星が夜を横切る。空に引かれた銀の糸が、雨粒のように消えていく。僕らは言葉少なに空を見上げ、ただその光の軌跡を追いかけた。 流星はひとつひとつが独立した輝きのようでいて、夜空全体と切り離せない。ひとつの星が消えるたびに、次の星を目が追いかけていく。点だったものが線になり、やがて夜空全体がひとつの風景に溶け込む。そんな関係性は、僕らそのものを

    • 夜はまだアフリカにいる。

      夜はまだアフリカにいる。脇から滑り込んだその一言が、君の横顔を盗み見る理由となった。ディスプレイを見つめる君のその一言は詩の一節のように響く。夜は本当に移動するのだろうか?それとも私たちが夜を追い越しているのだろうか? バリ島への直行便。成田を出発した朝の感覚が飛行機の中で奇妙に固定される。着いたときにはすっかり夕方なのに、その移ろいをどこかで見逃してしまったような感覚がある。外の世界は流れ続けているはずなのに、この機内では時間も季節も漂うだけで、どこにも向かおうとしていな

      • おじさんのハミ出し

        若い頃、人は少々のハミ出しなど気にも留めない。 公共の場での大きな会話や、雑踏での突然のTikTok撮影、交通機関での無頓着な荷物の扱い、珍妙なファッション、店員への横柄な態度など様々なふるまいを「そういう時期なのね」と軽く受け流している。成長過程にある若者に対し、社会は許容範囲を大きめに設定している。しかしこれがおじさんになると、そのハミ出しは突然社会的な異物として浮き上がりその存在を必要以上に際立たせる。この歳になって初めて、おじさんのハミ出しがどんな意味を持つのかを知

        • インクルーシブ・プレイグラウンド

          “Incluive playground”と英語表記のノボリが秋風に揺れていた。広場には家族連れが集まり、子どもたちの笑い声が響いていた。新型の車椅子が並べられた体験ブースがあり、子どもたちは次々とそれに乗り込み、楽しそうに走り回っていた。車椅子の動きは軽やかで、サイバーなデザインがどこか近未来的。健常者の子どもたちとその親たちにとって車椅子は、どうやら「体験」するものだったらしい。 「インクルーシブ」って外国人も、クイアも、ホームレスだって含まれるだろうに、そのどれもが存

          Hush hush ―孤独は自立の親友なのだろうか?

          街の灯りは遠く彼方で小さな星屑になり、ただの輝きの断片にしか見えない。どれほど大きな星も離れてしまえばただの屑でしかないと気づく。車の窓から流れる東京の残像は、ただ遠ざかり静かに夜に溶け込んでゆく。 さよなら、と呟きながらも、心のどこかに絡みついて離れない、名前のない感情が静かに胸底に横たわっている。誰かと分かち合うのとは違う、それは自分だけが触れる静かな秘密のような安らぎだ。逃れるのではなく、むしろ抱え込むべきものだと思えてくる。 孤独は自立の親友なのだろうか。 心の

          Hush hush ―孤独は自立の親友なのだろうか?