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「TikTok禁止」のグダグダが浮き彫りにするもの

先日もマガジンで扱ったアメリカでの「TikTok禁止令」ですが、法律発効の19日に一時的に使用不可となる場面があったものの、トランプ新大統領の働きかけによって猶予期間が設けられることとなり、結局はアメリカでもTikTokがそのまま使用できる状態が続いているようです。

大統領令がすでに決まった法律を上回って効力を持つかどうかの法解釈は微妙なようなのですが、事実としてはトランプの「鶴の一声」を受けて、TikTokはアメリカで今日も元気に営業中です。すわ利用停止というあの大騒ぎはなんだったのでしょうか。

個人的に面白いなと思ったのは、トランプが妥協策として提示している「新たな合弁事業を設けてアメリカの資本が50%の株式を持つこと」というのが、過去の中国が自動車産業などでやっていたことにそっくりだということです。

かつて中国も有力な外国企業の受け入れにあたって「中国で商売をしたくば合弁企業を作れ(=中国の管理を一部受け入れろ)」と迫ったものですが、いまは逆に中国企業がアメリカに同じことを言わせるだけの交渉力を持っているということになります。時代の流れを感じます。

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あと、前回のマガジンで拾えていなかったのですが、TikTokが使えなくなるかも!? と慌てたアメリカのユーザーたちの間でも、面白い動きがありました。

禁止令の発行される19日より前、TikTokが使用停止になることを懸念したユーザーたちが、一斉に「RED」というアプリに流入しました。しかしこのREDというのは、中国で若年層を中心に大きな人気を誇る「小紅書」と同じものです。もちろん、運営元は中国の企業です。

うちの嫁はわりと熱心にこの小紅書を見ているのですが、そういえば何日か前に「なんか急にアメリカ人が増えたって話題になってる」と教えてくれました。

「中国企業がユーザーの情報を不適切に扱っておりけしからん」ということでTikTok禁止令につながったはずなのですが、その結果別の中国のアプリに人が流れるとはなんとも皮肉というか、現代の寓話を見ているような気分になります。

ショートビデオという仕組み自体はYouTube ShortやInstagramなど他にもありそうなものですが、米国民はTikTok、あるいは中国という国のそれを求めていたのか(小紅書とてショートビデオ専門のアプリではないのですが)。それともTikTokが締め出されることへの抗議の意味合いで、ユーザーがあえて中国のアプリを選んだのか。ともかく、面白いことが起きているなと思います。

もうひとつ面白いなと思ったのが、こうしたユーザーの増加をRED、つまり小紅書の側が喜んで「いない」ということです。

これまで海外に大きく展開しておらず、いろいろと面倒なことも多い中国の基準を守って堅実に人気を集めてきたのに、突然空気の読めないアメリカ人が大量流入してきたことで、政治的にセンシティブなことが起きる可能性が大幅に向上してしまいました。下手をすれば中国の行政に睨まれかねません。とんだとばっちりもあったものです。

かようにアメリカの「TikTok禁止令」は、発行と同時に猶予期間となったり、別の中国のSNSを盛り上げてしまったりと、グダグダの様相を呈しています。

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しかし、こうしたグダグダを一歩引いて見てみると、そこには別の側面も浮かび上がってきます。それは、アメリカと中国もなんやかんやで一蓮托生というか、お互いに切ってもきれない関係になってしまっているのだな、ということです。

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