「嫌いなものが肯定されている」に注意せよ
こんなツイートが流れてきました。
「大翻訳運動」というのは、在外の反体制中国人による活動で、中国国内のSNSなどから「中国人の恥ずかしい投稿」のようなものを集めて、各国語に翻訳すると言うものです(僕個人としてはその内容の粗末さや、幼稚なやり方にあまり良い感情は抱いてませんが)。
それはさておき、元投稿の内容です。おそらく日本にいる中国人が日本の電車の吊り広告に台湾の観光局によるPRを見つけて、「なぜ日本の電車は北京や香港、マカオについて宣伝しないのか?」という文句を垂れている、というものです。
コメントは「そりゃ台湾がお金を払って広告を出しているからだろ」「電車が自分で広告出してると思ってんのか?」というツッコミで溢れていたし、僕も感想としてはだいたい同じです。
しかし、一方でこの投稿にはそういう「アレな愛国中国人の世迷い事」で済ますには惜しい何かが隠れているような気がしたので、今日はそれを掘り下げてみます。
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まず、この投稿には中国(大陸)人による、台湾への嫉妬が少なからず含まれているのを読み取るのは難しくありません。
元投稿も見に行ってみたのですが、本文には「バンコクやパリ、ニューヨークなどもない。日本は観光国家だ。これでは外国人が来た時に誤解してしまう。他の観光地の広告も載せるべきだ」という、よくわからない理屈の文章が並んでいました(ちなみに、元投稿にも「広告費を出してないからでは?」「インプレ稼ぎ乙」的なツッコミが多数入っていました)。
ともかく、「台湾だけを取り立てるのはなぜだ」と言いたくなる裏には、「台湾ばかり贔屓するな」とか「他の国・地域(とりわけ大陸中国)も平等に扱え」という心理があるということがわかります。
ただ、広告費うんぬんのことはいったん考慮しないとしても、「台湾を取り上げている」ということは、「他の地域(とりわけ大陸中国)をないがしろにしている」ということとイコールではないはずです。そこにあるのは「台湾が取り上げられている」という事実だけであり、それは他の地域とは関係のない事です。
しかし、それでも「台湾だけを取り上げるな」と言いたくなってしまうというのは、そこには台湾を下に見る気持ち(なぜ台湾「なんかを」取り上げるのか)とか、さもなくば嫉妬に近い感情(なぜ「私たちではなく」台湾を取り上げるのか)が潜んでいると考えるのが妥当でしょう。
台湾に対する大陸からの偏った見方が、「日本の電車に台湾観光の広告が出されている」という、ただそれだけの事実を歪めて見せてしまっているのです。
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さて、これを「いまの中国における歪んだ自国愛」とか、「中華圏にありがちな自分への絶対的な肯定しか許さないメンヘラ気質」などと絡めて語ることも可能なのですが、今日はちょっと違う方向に行きたいと思います。
というのも、たとえば自分があまりよく思っていないもの/人があった/いたとして、それが誰かに褒められていたり、推されていたりするのを見た時、冷静さを失ってしまうというのは、意外と誰の身にも起こり得ることなんじゃないかと思うのです。
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