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味に関する中国語は翻訳が難しい話
最近フォローしていただいた人にはご存知ない方も多いと思うでのですが、もともと僕は商品パッケージなどによくある中国の怪しい日本語をTwitter(現X)で紹介することで、インターネット上でみなさんに面白がっていただいておりました。上の記事がその時に僕が発見した最高傑作の「パチミレー」の紹介です。よければご笑覧ください。
そして、いまでも怪しい日本語の収集活動は続けているのですが、先日見つけたのはこんなやつです。
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「脆ぜい脆脆ぜい」。意味は分かりませんが、リズム感があっていいですね。その下の「サクサクしている」や、「カリカリ肉のササミです!」というのも味があります。どう見てもジャーキーなのにササミとはこれいかに。
他にも、最近見つけたものにこんなものがあります。
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チーズ味のビスケットなんですが、「中国台湾の焙煎師姜台宾が開発しました。チーズが濃くて、香りがよくて、脆いです。」とあります。
わざわざ「中国」台湾としているあたりに政治的配慮を感じますね。焙煎師の姜台宾って誰やねんというのもポイント高いですが、やはり怪しい日本語としての味(?)を感じるのは「チーズが濃くて、香りがよくて、脆いです。」の部分でしょう。たどたどしいがリズミカルな日本がチャーミングです。
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さて、これらの怪しい日本語のパッケージに共通することとして、「脆」という字が登場していることが挙げられます。日本語だと「脆弱」の「脆(ぜい)」であり、訓読みでは「脆(もろ)い」と、どちらかというとマイナスイメージのあるこの字が登場しているのはなぜでしょうか。
答えは、中国語の「脆」には日本語と同じ「もろい、壊れやすい」という意味のほかに、ある種の食べ物の食感を表す意味があるからです。2つ重ねて「脆脆的」のように使われたりもします。
2(食物が)歯当たりがよい,(食べて)さくさくしている
ここでは「さくさくしている」とまとめられていますが、実際に使われる時の意味はもう少し広いです。日本語で言うなら「さくさく」のほか、「パリパリ」「ザクザク」「コリコリ」のような、硬めの食感を思わせるようなものはほぼすべて「脆」で表されます。上に挙げた画像で、ビーフジャーキーとビスケットというまったく違うものの描写に使われていることからも、その適用範囲の広さがわかってもらえるのではないかと思います。
こういう言葉は翻訳泣かせです。たとえば中国語から日本語の翻訳の時に、漢字の意味通りに「脆い」としてしまうと、上の怪しい画像のように意味が通らなくなります。「中国語と日本語は漢字で大体意味がわかる」とか言いますが、あまりナメてかかっていると、このような意味がまったく違う場合に足元を掬われることになります。
「脆い」を回避したとしても、今度はそれが「パリパリ」なのか「さくさく」なのか「コリコリ」なのかという判断をしなければなりません。
以前、中国のゲームの日本語ローカライズに関わっていた友人が、この「脆」の扱いに困っていました。キャラクターが食事をするシーンでこの表現が出てきたらしいのですが、何を食べているかの描写が曖昧で、どんな言葉を当てていいかわからなかったそうです。
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他にも味や食感に関わる言葉として、どう日本語にすればいいのかわからない中国って結構あります。たとえば上のビスケットの画像にも地味に登場している「香」です。
中国の人と食べ物について話していると、この「香」って本当にしょっちゅう出てくるのですが、どういう意味なのかきちんと理解できたことはありません。
一義的には「香り・匂いがいい」ということなのですが、食べた時においしいという意味で使われることもあるし、そもそもどういった種類の香りを指してそう言っているのか、よくわかっていません。
嫁にも説明を求めたことがありますが、「考えたこともない」と言われてしまいました。まあ、言葉なんてそんなもんですよね。とにかく食べ物のうまそうな香り・味はすべてこの「香」で処理しているのだ、と考えることにしています。
そのほか、「Q」や「QQ」という、もはや中国語なのかどうかすらわからない言葉もあります。
もともとは台湾で使われていたようですが、中国大陸でも日常的に出てきます。表すのは「柔らかくて弾力のある食感」のことで、タピオカやナタデココなどの食感の表現に使われることが多いようです。
日本語でいえば「もっちり」とか「もちもち」が近いのかもしれませんが、大陸ではお菓子のグミの名前にも使われていたりするので、どうもしっくりきません。グミの食感を「もちもち」とはあんまり言わないよなあ。
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と、今回は食べ物に関する中国語の話をしてみました。食べ物ってその国や地域の文化そのものなので、他の言語には置き換えにくい表現が出てきやすいのかもしれませんね。
以前にも中国語の「鮮美」という、味にまつわる中国語の話を書いたので、よければ合わせてご覧ください。
ではまた。
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