滑り台から落ちる子どもを、ただ見ているだけだった日
とある、家族3人でのお出かけの日。とても天気がいい日のことでした。
僕が息子を抱きかかえ、階下に降りたとたん、嫁が忘れ物をしたことに気が付きました。嫁が忘れ物を取りに戻る間、僕は小区(団地)の中の小さい公園のようなスペースで待つことにしました。
そのスペースには子どもが登って遊べるような、小さなアスレチック?のようなものがあって、いくつかの滑り台が下に伸びていました。中国の公園などにはよくある遊具です。
その遊具のところでは、3〜4歳くらいの男の子と女の子が楽しそうに遊んでいました。そして少し離れたベンチに、おばあさんが2人座っていました。おそらくはそれぞれが子どもたちの保護者なのでしょう。親が外に出て働き、祖父母が子どもの面倒を見るのは中国ではスタンダードな家族のあり方です。
僕は子どもたちが見える位置に腰掛け、息子とともに嫁を待っていました。
しかし、そのうちに男の子のほうがちょっと危険なことを始めました。滑り台の手すりの上に立って飛び跳ねたり、片足立ちをしたりと、調子に乗り始めたのです。
すべり台の高さは1メートルもなく、落ちたとしても深刻なことにはならないとは思いますが、万が一ということがあります。僕は危なっかしいなと思いながら見つめていましたが、保護者と思しきおばあさんたちは、おしゃべりに夢中で気がついていません。
やがて、男の子は滑り台に橋をかけるような姿勢でレーンをまたいで腹ばいになり、ウネウネと動きながら、身を乗り出して地面を覗き込むような格好になりました。いまにも顔から落ちそうな姿勢です。
危ないぞ——と思う間もなく、男の子はあわれ予想通り、バランスを崩して顔のほうから地面に落ちてしまいました。かろうじて手はついたものの、それでも顔を打ってしまったようでした。僕は自分の腕の中に抱いた子どもを、さらにギュッと抱きしめることしかできませんんでした。
瞬間、火がついたように泣き出す男の子。つられて一緒にいた女の子も大パニックで騒ぎ始めます。そこでやっと、保護者のおばあさんが飛んできて、男の子を落ち着かせようとあやしたり、顔を拭いてやったりし始めました。男の子は鼻血を出しているのが見えました。
僕はそそくさとその場を離れました。ちょうどその時、忘れ物をとった嫁が戻ってきました。僕らはそのままお出かけに向かいました。
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実のところ、男の子が危険なことをやり始めた時点で、声をかけて注意してでもやめさせたほうがいいんじゃないかという考えは頭に浮かんでいました。そうしていれば、落下は防げたかもしれません。でも、僕はそうしませんでした。
子どもを抱えていたからというのもありますが、僕が男の子に声をかけなかったのには、もっと根本的な理由があります。
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