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中国の「ウチ」社会と情報統制

中国では、人々に伝えられる情報が政治的に取捨選択されているのは周知の事実です。いわゆる情報統制が存在している、少なくとも他国よりも統制の程度が強いということは間違いないでしょう(いや、こう書いておかないと「日本も同じだろ」みたいなしょうもないことを言ってくる人がいるので)。

たとえば最近では、経済不振にともなって「献忠」や「報復社会」と呼ばれるような、ヤケを起こした人の無差別的な暴走事件が増えている気配がありますが、それらは中国の公的な報道において積極的に言及されていません。

先日起きた日本人児童の殺傷事件もそこに含まれますが、これについても詳しい背景はなかなか出てこないままです。公的機関による「偶発的な事件」という評価を含めても、この件が大きく取り沙汰されるのを嫌っていることは明白です。

それは原因の究明や問題の根本的解決に真剣に向き合わない態度の表れでもあり、中国に住む日本人としては怒りと失望を禁じ得ません。

一方で、そのような日本人としての感情から一歩引いてみると、中国では人々に伝える情報を恣意的にコントロールすることがある種の安定に寄与しているという現実もあるので、国としてそういう形をとっている理屈自体は(肯定は絶対にできないとしても)理解できなくもない、と考えます。

ここで、なぜ中国では「恣意的な情報のコントロール」が「安定に寄与する」のかという問いが立てられます。中国ではなぜ、人々に伝える情報を取捨選択しなければならないのでしょうか。

僕が思う理由はさまざまあるのですが、今回のマガジンでは「『ウチ』社会による暴走の抑止」という点からそれを考えてみたいと思います。

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中国は、ある種究極の「ウチ」優先社会です。

極端に言えば、地縁血縁、または経済関係によって強く結びついた「ウチ」以外の世界を信用せず、「ソト」としての外界のルールよりも「ウチ」の秩序を優先することが生存戦略となります。

そこは「ウチ」の人間が黒といえば白でも黒となる、的な世界観です。その強い秩序のもと、搾取者・外敵としての「ソト」の人間から身を守り、重要なリソースを「ウチ」の中で循環させながら生きています。

この「重要なリソース」の中には、金銭や物品などのほか、情報のやり取りが含まれます。「ソト」に出回っている怪しいウワサではなく、信用できる「ウチ」から出た情報をもとに行動するべきだ、そのほうが安全だ(そうしなければ危険だ)、という意識が中国の人には少なからずあります。

さて、「黒といえば白でも黒となる」ほど閉じられた「ウチ」の世界に、誤った情報や、社会を不安定にしかねない危険な噂がひとたび流れてしまったらどうなるでしょう?

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