親戚のオッサンにスリッパを履かれた話
先週末、僕の家に親戚が遊びに来たんですね。
最近、隣の市に住むようになった親戚で、そのうち週末に遊びに来るかもという話は嫁から聞いていました。しかし、実際にはその日の午後3時に「あと1時間くらいで着くよ!いま家にいる?」と突然連絡をよこしてきました。「週末」が今週末のこととは聞いていませんし、もちろん今日だとも、1時間後だとも聞いてはいません。
中国人と結婚していると、まあこういうことが起きます。家族・親戚というのは中国人にとっては人生の起点であり、何よりも大切にしなければならないものです。よって、突然の訪問でも「ちょっと今日は無理」「突然来られても困る」なんて無粋なことは言ってはいけないのです。
その日の午後は時間があったので、Switchでゲームでもやろうと思っていたのですが、もちろんそんなことに使っている時間はありません。さっと部屋を片づけたり、茶菓子と果物を買いに出かけるなどして、準備を始めました。
その準備の時から、正直いって僕は機嫌が悪くなり始めていました。少し前に買ったけど忙しくて進められていないゲームをやるチャンスだったのに、ご破算になってしまったからです。また、その親戚というのも僕が親戚衆のなかでもとりわけ苦手としている人であり、なんで突然来るんだよ、ちょっとくらい気を遣えよお前そういうとこやぞ、というイライラもありました。
でも、それを表に出してしまっては大人ではありません。イライラはあれど、それをおくびにも出さずに対応するのが、デキた人間というものです。子どものようにイライラを振りまいて、嫁の顔を潰すのもよろしくありません。
深呼吸で心を落ち着けながら、テーブルにお菓子と果物を並べ、笑顔で親戚を迎え入れられるように待ちうけます。おもてなしの国の民族として、しっかり楽しんでもらおうじゃありませんか。
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そんな気持ちで待っていると、親戚が到着しました。
嫁が玄関にいって迎えます。僕はリビングから見ています。おう来たぞガハハと笑う親戚(オッサンです)に、相変わらずデリカシーのないツラだなあ、だから突然来るんだよなと思いつつも、遠目から歓迎のあいさつをします。
そしてそこで、嫁が「スリッパがない!」といいました。思えば今の家に引っ越してからは来客がなく、客用のスリッパは物置の奥にしまいこまれています。おもてなし民族としてそんなことにも気づいていなかったとは、うかつでした。
ああそうだった、と僕が客用のスリッパを出しに行こうとしたその時、嫁は何を思ったか、「これでいいでしょ!」と、僕がいま現役で使っている冬用のスリッパを親戚に差し出しやがりました(その日は暑かったので、僕は夏用のスリッパを履いていたのです)。
親戚の手前、おい! と声を荒げることもできず、「ちょ、僕が客用のスリッパを出してくるから……」と言おうとするも、嫁は「没关系!」(関係ない=大丈夫の意)と元気よく言い放ち、そのまま親戚を家に上がるよう促しました。いや関係大アリだろ、と反論するヒマもなく。無情にも僕のスリッパに差し込まれる親戚の足。
この時点で、僕のおもてなし民族としての心が砕け散りました。出会って4秒で戦意喪失です。
そこからは死んだ目のままできる限りの笑顔を作り、親戚をソファに座らせ、あとはコーヒーを入れたり果物を切るふりをしてキッチンに居座り、持ち込んだスマホでツイッター(ペケッター)ランドに逃避するという時間を過ごしました。なんとか部屋にSwitchを取りに行けないかと思いましたが、さすがに嫁に怒られそうなのでやめておきました。
キッチンにいるのが不自然な時間が経ったあとはリビングに出て行き、僕のわからない方言で盛り上がる嫁と親戚の横で、手持ち無沙汰な時間を過ごしました(中国の方言は日本のそれよりも標準語との乖離が激しく、中国語を勉強してもわかるようになるものではありません)。
その後親戚が帰り(帰るまでの過程でもいろいろあったので、それは別の記事にしようと思います)、僕が嫁に「スリッパ……スリッパ……なんで……」とうわごとのようにいうと、嫁は「何よ、それくらいどうってことないでしょ。小事情(小さなこと)でしょ」というような態度でした。
腹は立ちましたがここでケンカしてもしょうがないので、「僕はスリッパを他人に使われるのは不愉快」ということだけを伝えて、話は終わりにしました。嫁が納得したかどうかはわかりません。
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起きていることといえば「親戚のオッサンに自分のスリッパを履かれた」という、それだけのことなのですが、意外とこれだけでも中国人の家族関係みたいなものがわかるかもな、と思いました。以下に書いていきます。
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