変容する中国の親子関係——価値観と現実の板挟みの中で
今日は、とあるツテで教えてもらった中国語論文を紹介します。
https://mall.cnki.net/magazine/Article/ZGQL202003002.html
タイトルを日本語にすると、「戦略的『報喜不報憂』と『孝』倫理の再構築:知識型新移民における家庭支援の追求メカニズムと文化的意義」といったところでしょうか。
これは中国の親子関係についての研究論文です。親元を離れて暮らす知識層の中国人へのインタビューをもとに、親子間でどのようなコミュニケーションをとっているのかということを明らかにしようとしています。
中心的なテーマは、「孝」と「報喜不報憂」です。「孝」とは儒教的な倫理の中で守られるべき規範的価値観の一つで、ざっくり言えば「親を何よりも大事にしなさい」ということです。
「報喜不報憂」とは「孝」の実践の形式の一つで、「喜」は報告するが「憂」は報告しない、つまり親に心配をかけないように「良いニュースは伝えるが、悩みや問題は隠す」という行動様式を指します。
長らく中国では「報喜不報憂」が美徳とされ、これを忠実に守る、つまりどんな悪いニュースも親に伝えないということが実践されてきたが、現代ではそれが変容しつつある、と論文は論じています。
現代の若い中国人の一部は、柔軟に親に自分の抱える問題や苦境を親に伝えることが多くなっているそうです。特に大きな悩みについては、親からの支援やアドバイスを受け取るために、ある程度共有する傾向があるそうです。小さな悩みについてはコミュニケーションの一環として伝え、いつでも相談に乗ってもらえる関係を築いておく戦略でそうしている、といいます。
また、従来通り親には問題を伝えないという若者も、親に心配をかけないためというよりは、「どうせ言っても理解されないから」とか、「過剰に心配されて、干渉が始まるのがウザいから」という理由でそうしていることが多いといいます。
いずれにせよ、現代では「報喜不報憂」はそこまで絶対的な価値観ではなくなっており、その実践は子ども自身の現実的な利得(あるいは余計なストレスを増やさないこと)を見据えた戦略的なものに変容している、というのがこの論文の論じていることです。
少し前までの中国人といえば家族とは絶対のもので、何よりも規範通りに行動することがよしとされてきましたが、それが少しずつ変容しつつある、というのは興味深い話です。「中国人は家族を大事にする」というのはよく言われていることですが、少しアップデートが必要な程度には、その形は変わっていっているのでしょう。
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僕がこの論文に興味を持ったのは、まさに自分と同世代とか、それよりも若い中国の人々が、こうした価値観の変化に揺れているのを実感しているからなんですね。
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