中国で流行る「アヒルのうんこフレーバードリンク」の謎を追う
義実家で消耗してふらついているとき、ふと入ったコンビニでこんなジュースを買いました。
名前は、「鴨屎香小気弾」。どういう意味でしょうか。
「鴨」は日本語では「カモ」と読みますが、中国語では一般的にアヒルのことを指します(カモは「野鴨」などといって区別されるようです)。パッケージにもアヒルっぽいキャラクターがいるので、ここではアヒルで間違いないでしょう。
「屎」は、シンプルに「うんこ」のことです(ニュアンスとしては「クソ」のほうが近いかな)。「香」はここではそのまま「香り」のこと、「気弾」もいくつか意味がありますが、ここでは炭酸飲料のことを指していると考えられます。
つまりこの商品は、「アヒルのうんこフレーバー炭酸飲料」ということになります。中国ではなんと、アヒルのうんこ味のドリンクが売られているのです。さすが燕の巣や鹿の角を珍味として嗜む人々です。その「食」への追求、ここに極まれりです。
……というのはもちろん冗談でして、実際にはお茶の品種の名前として「鴨屎香」というのが存在しており、この名称はそこからとったものです。「鴨屎香」という名前の由来には、「鴨屎土」という土で育てられたからであるとか、茶葉の形がアヒルの足の形に似ているからであるとか、他の茶農家に盗まれないようにあえて変な名前にしたとか、さまざまな説があるそうです。
冒頭のドリンクは、そのお茶の香りのついた炭酸ドリンクというわけです。よく見ると下の方に、「檸檬味碳酸茶飲料」(レモン味炭酸ティードリンク)とあります。実際に飲んでみても、その通りの味です。さわやかな味わいで、悪くありませんでした。
+++++
ところで、この「鴨屎香」の名前を冠した商品ですが、ここ数年の中国でかなりたくさん見かけるようになりました。
ECサイトで検索しても、類似の商品が見つかります。
ボトルや缶で売っている飲料以外にも、街中のティードリンクスタンドの商品の中にこの「鴨屎香」の名前を持つものがよくみられます。たとえばこれは、大手ドリンクチェーンの「奈雪的茶」のメニューにあった「鴨屎香奶茶」(鴨屎香ミルクティー)です。
調べたところによると、2018年ごろにとあるドリンクチェーン店がこの「鴨屎香」を使った商品を出したところ大いに評判を呼び、その他のドリンクチェーンも真似しはじめ、さらにペットボトル飲料などいろいろな商品にも派生していった、という流れがあるようです。
しかし、なぜ「鴨屎香」がそんなにウケたのでしょうか。ドリンクチェーンが採用したことによって中国の伝統的な茶葉の味が再発見され、改めて普及するようになった……という見方もできなくはないかもしれません。
しかし、おそらく流行の本質はそこではなく、ネーミングのインパクトによるものでしょう。商品名に「アヒルのうんこ」を用いることによって注目を集める、という手法がまんまと成功しているわけです。
それにしたって「屎」(うんこ)を商品名に入れなくてもとは思いますが、14億人がしのぎを削る中国の市場ではとにかく目立ったもん勝ちなので(一部のECサイトでは誇大広告などもしょっちゅう見られます)、ちょっと過激な商品名やキャッチコピーが出やすい土壌があるのかもしれません。
その証拠に、他にも過激な商品名やコピーは存在しているし、「屎」(うんこ)を用いた例も実は他にあります。
ここから先は
いただいたサポートは貴重な日本円収入として、日本経済に還元する所存です。