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親の2,000万円を「当たり前」という中国人から、なんとか感謝を引き出そうとした話

1年ほど前だったでしょうか。日本への留学を準備している、中国人の男子と知り合い、話をしたことがあります。

彼は北京の大学で日本史の研究をしていたのですが、日本でもっと本格的に日本史を学びたいということで、日本への留学を準備していました。また学部の卒業後にいい就職先がなかったことや、そもそも日本のアニメが大好きであることなども留学の理由です。ある意味、典型的な日本留学を志す中国の若者です。

その男子はすでに東京の語学学校への入学を決めており、日本での生活への期待に胸を膨らませているようでした。両国の関係が難しくなり、また日本のプレゼンスが日増しに下がっていっているなか、日本にこれだけ期待を持っていてくれるのはありがたいことだな、と見ていました。

ただ、彼との会話の中で若干気になってしまった……というより、明確に違和感を感じたことがあったんです。今日はその話を。

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彼は日本での生活に期待を膨らませつつ、不安も大きいようで、日本での生活について僕にあれこれ質問してきました。銀行口座はどうすればいいの、日本で友達をつくるには、日本人とのコミュニケーションで気をつけることは、などと質問攻めです。

そんななか、住むところの話になりました。物件探しはどうすればいいですかというので、たぶん華人向けの不動産サービスがいっぱいあるからそれを頼れば、といいつつも、一緒にスマホで彼が住む予定の街の物件をいろいろと見たりしていました。

「どれくらいの家賃のところに住みたいの」と聞くと、彼は「予算は5000元(≒10万円)くらいです」といいます。10万円か、地方なら余裕だろうけど東京だとどうなんだろう? と思いながら、引き続きスマホでこんな物件があるよ、などと一緒に調べました。

そしてふと、「そういえば、その10万円の家賃は誰が払うの?」と聞くと、「親が出してくれます」といいます。

まあそうだよな、と思いつつも、家賃が10万だとすればそれだけで年間120万円です。彼の家はそこそこの資産持ちのようですが、それでも大きな負担でしょう。

そこで僕は何気なく、「家賃だけでそれだけ親が出してくれるなんて、すごいねえ」と言いました。「何気なく」といいつつも、僕は彼が「はい、親にはとても感謝しています」みたいなことを返してくるんだろうな、と思っていました。

しかし彼は、「でも、中国では親が子どもの留学費用を出すのは当たり前です」とあっけらかんと言いました。

……ここで、僕のほうに何かこう、スイッチが入ってしまいました。以下、彼からなんとか親への感謝を引き出せないかと試みた対話を再現してみます。

——あのさ、そういうけど、月10万円って大変なお金だよ。簡単に出せる金額じゃないと思うんだけど。

彼「そうですか。でも親がお金を出すのは普通だと思います

——……。親の負担を下げるために、ちょっと安い部屋に住もうとか思わない?

彼「でも、親が出してくれるので

——ああわかった、じゃあ家賃はそれでいいよ。でも、生活費はどうするの? それも親が出すんでしょう?

彼「はい、それも親が出してくれます。たぶん月10万円くらいもらえます

——じゃあ、それだけで年に240万円かかるよね。ていうか日本にはどれくらいいるつもりなの?

彼「5年くらいいられればと」

——じゃあもう、それだけで1,200万円だよね。あと、語学学校とか大学の学費だってかかる。君が行きたいのは有名私立だろう? 私立の学費なんて高いんじゃない?

彼「そうですね、だいたい年間で150万くらいかかると聞いてます」

——じゃあ、5年間でざっくり2,000万円くらいかかるじゃん。その金額について、どう思う?

彼「だいたい想像通りですね

——いや、そうじゃなくて……!! それだけ出してくれる親御さんってすごいな、感謝しないとな、って思わない!?

彼「ああ、そうですね。はい、そう思います」

最後は僕のほうが完全にムキになり、全身の毛細血管が沸騰するような感覚に支配されていました。

いまにして思えば自分の感覚を彼に押し付けるべきではないし、そもそも親子のことに僕が介入してとやかく言うべきではありません。反省しています。

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僕の大人気なさは差し引いたとしても、これだけの金額についてあっけらかんと話す彼の姿に、違和感を抱いた人も多いのではないでしょうか。

もちろんこれは彼の家がそれなりの資産持ちで、金銭感覚が富裕層のそれに寄っているということであり、この感覚が中国において一般的ということではありません。

ただ、「親が子どものためにお金を出すのは当然」ということに限っていえば、これはそれほど浮世離れした話でもないのです。

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