表意文字としての漢字と、便利な中国語の話
こんなツイートを見かけました。
同じ商品名の表記でも、中国語だと日本語に比べてすっきりして見やすい、という旨のツイートです。たしかに日本語というかカタカナだと「ブラッドオレンジ・レッドグレープフルーツ・トマト味」とでも書くしかないところを、中国語では「血橙紅西柚蕃茄味」と、たった8文字にまとめられています。
しかも中国語を知らない人であっても、漢字の意味さえわかればそれがだいたいどんなものかは想像がつきます。特に日本人であればこれがどんな味のものかはほぼわかるのではないでしょうか。表意文字としての漢字の威力というか、便利さを感じますね。
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このような例は他にもあります。たとえば中国でスマホアプリを使っていると、アプリにおける情報量が段違いに多く、また親しみを感じさせるようなもの工夫がたくさん凝らされていることに気づきます。
こちらのnoteから例を借ります。
ECアプリである淘宝では、紅包(ここではクーポンのこと)が取得できるキャンペーンに参加するかどうかをユーザーに問う際、「忍痛离开」(もったいないけど、やめておく)と「立即开通」(今すぐ参加する)という選択肢を提示している例があります。
それぞれの選択肢がぴったり4文字で軽快なリズムを作っている上、こちらに積極的に働きかけてくるようなフレンドリーさを盛り込むことに成功しています。
日本語だと、なかなかこうはいかないでしょう。たとえば「もったいないけど、やめておく」「今すぐ参加する」とそのままボタンに書いてあったとしたらどうでしょうか。おそらく少し冗長だと感じるし、そもそも選択肢のボタンが大きくなってしまって(もしくはボタンの大きさを変えなければ文字が小さくなってしまって)、別の意味でUXを損ねそうです。
同じ文字数でも、乗せられる情報が段違いだなあと思い知らされる例です。
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その他、中国語における表意文字としての漢字を活用した妙技があります。それは、外来語を取り入れるときに、その音と意味を同時に借りてくる例があるということです。
少しわかりにくいので、これも例を一つ挙げます。
マクドナルドなどのファーストフード店で、車に乗ったまま商品が受け取れるサービス、つまりい日本語のいわゆる「ドライブスルー」のことを、中国語では「得来速」といいます。
この得来速の発音は「dé lái sù」で、明らかに英語の「drivethru」から来ていることがわかります。「来て早く得られる」という意味と、英語の音を両立させているのです。これに気がついた時は感動しました。
このような例の最も有名なのはコカコーラです。コカコーラは中国語で「可口可乐」(kě kǒu kě lè)といいますが、これには「Coca-Cola」の音訳と同時に、「飲み口がよく、飲むと楽しくなる」という意味が乗せられています。
この辺の翻訳というか、借用語を考えた人は天才なのではないかと思います。
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ただ、この辺のセンスって本来なら日本人にも備わっているもののはずなんじゃないのかな、とも思います。漢字は中国から取り入れられたものですが、日本人もけっこう器用に表意文字としての漢字を使いこなしています。
たとえば、和製漢語です。二字熟語で表されるような言葉、とりわけ社会科学系の語彙は、その多くが西洋の概念を翻訳したものとして明治以降の日本で誕生したものだといいます。Wikipediaの「和製漢語」の項には、日本で作られた語彙の例として以下のようなものが挙げられています。
これらすべて、現代の中国でも広く使われているものばかりです。「社会主義」や「共産主義」など、国の根幹に関わるようなものもありますね。
最近でも日本発の熟語が中国に逆輸出されることは頻繁に起こっています。たとえば「社畜」なんかは、長時間労働問題が顕在化しつつある今の中国でネットスラングとしてすっかり定着しています。ちなみに中国語の読み方は「shè chù」です。
音と意味を両立させた当て字にしても、たとえば「倶楽部」という素晴らしい例があります。英語の「club」と、「倶(とも)に楽しむ部」という意味が見事にかかっています。こういうのがもっと増えても良さそうに思います。
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こういう例って他にもたくさんありそうです。僕のnoteの読者には中国語学習者の人も多いです。もっと良い例をいっぱい知っている人もいるでしょう。
ここで挙げたものの他にピンとくるものを思いついた方は、ぜひコメントなどでお寄せいただければと思います。