「世界地理から観た宗教」第三回 アジアの光・仏教
インドの地理
地形的特徴
ヒマラヤ山脈の南方に位置し,ほとんど正三角形の地域をインドと呼びます。インドは南北に二分されます。南は三方山脈で囲まれた半島であり,その中心はデカン高原です。北はガンジス川・インダス川の水域であり,広大な平原です。インダス川の恩恵はインダス文明を生み,ガンジス川の肥沃さはインダス川水域以上です。
気候的特徴
インド気候の特徴を一言で申し上げれば,「正反対」です。デカン高原は熱帯性であり,大インド砂漠はアラビア的な乾燥地です。一方,ヒマラヤ山脈には永久の雪が存在し,カラチの辺りは大湿地です。急激なる反対,これがインド気候の特質です。
地政学的特徴
ガンジス川とインダス川で養われた豊穣の地は,周囲を荒涼の地で囲まれています。東のインドシナは小国であり,北のモンゴルは大山脈によって分離され,南はインド洋が広がります。つまり,三方は天然の防壁なのです。よって,インドの敵は西から来ます。なぜなら,インドに侵入する唯一の入口は,インド西方に位置するカイバ―峠だからです。
インドの歴史
インド史の特徴
豊穣の地インドはカイバ―峠から敵軍に侵入され,インド史は掠奪の歴史でした。敵軍は常に西方のイラン高原からカイバ―峠を通ってインドに侵入し,インドは十数回も掠奪されました。ペルシャのダリウス,ジンギスカン,ティモール,バベール,ナディールのようなモンゴル,ペルシャ,アラビア,アフガニスタンの強族がインドを侵略。掠奪の民は常に掠奪され,土民は常に北の平原から南の高原に追いやられました。主要民族はつねに新陳代謝し,遂にはカースト制度がインド社会に根付きました。
インドの独自性
インド史は,破壊と殺戮の繰り返しでした。必然的に,インド人は現実社会に失望し,彼らの意識は抽象的な宗教的方面に特化しました。つまり,政治・経済・工業・商業・科学よりも,霊界・来世や神性について沈思黙考するようになったのです。バラモン教や仏教・ヒンドゥー教など,世界的宗教が誕生する所以です。
仏教の特徴
東洋的無
世界の中心であるユダヤから福音が誕生したように,宗教的意識に特化したインドから仏教が誕生しました。紀元前6世紀,釈迦は八正道と解脱の思想を説き,ここに「アジアの光」と称される仏教が成立しました。仏教の本質は,「自我の滅却による無の観念」と「慈母のような宗教的寛容さ」です。無とは,究極の真理であり,神以前の神である創造的エネルギーです。仏教的無は,神以前の神であるが故に,すべての宗教を包含することができました。
包含的真理
仏教は,様々な宗教を吸収・同化しながら,その姿を変容しました。ユダヤで誕生したキリスト教が中央アジアで仏教と融合,愛の思想を中心とする大乗仏教が成立しました。大乗仏教の祖・龍樹(ナーガールジュナ)がキリスト教の影響を受けた形跡は,昨今専門家が指摘しています。
アラビア半島で誕生したイスラム教が中央アジアで仏教と融合,来世を願う浄土宗が成立しました。コーランの特徴は,具体的な天国の描写にあります。このイスラム教的な天国観が仏教に流れ込み,浄土宗系の経典(浄土三部経)が成立したのです。つまり,浄土思想に感化された我々日本人は,間接的にコーランの影響を受けているのです。
ペルシャのゾロアスター教やギリシャの新プラトン主義もまた,仏教に影響を与えました。新プラトン主義に代表される「光の一元論」が仏教を刺激,大日如来を崇拝する密教が成立しました。ちなみに,真言密教を創始した空海は,キリスト教に感化された形跡もあります。ご興味のある方は,空海の思想とヨハネ伝のロゴス論を読み比べて下さい。
宗教的統一の精神
いずれにせよ,インド宗教の独自性は,宗教的統合を求めるところにあります。シャンカラ,ナーナク,ヴィヴェーカーナンダ,ガンディーなど,インドの思想家は皆,宗教的統合を求めました。唯一神教であるユダヤ教・キリスト教・イスラム教は,互いに争い合い,殺し合いました。しかし,仏教やヒンドゥー教は,他宗教に寛容で和合を求めました。今までの排他的一神教から全ての宗教を包含する統合的一神教へ。我々は今こそ,インド宗教から多くを学ぶ必要があります。
以下は参考書籍です。
① ナーナクについて
② ヴィヴェーカーナンダについて
③ ガンディーについて