「すると全ての人はイエスを見捨てて逃げた」(マルコ伝14-50)・・・① 外的証拠 この箇所には異読があります。 「そのとき,弟子たちはイエスを見捨てて全ての人は逃げた」・・・② 日本語訳聖書の読み(①)を支持するのは,アレクサンドリア系の写本のみです。一方で,異読(②)を支持するのは,カイサリア・アンティオケア・アフリカ系の写本であり,いくつかアレクサンドリア系の写本もあります。原文は,幅広い写本の支持を得ているという意味で,②の異読を採用すべきでしょう。
中世と近代の大きな違いは,科学的思考の有無です。その科学的思考を初めに提唱した者こそ,イギリスのフランシス・ベーコン(1561~1626)でした。今回は,フランシス・ベーコンの主著「ノヴム・オルガヌム」を通して,近代文明の特徴を確認したいと思います。 新しい論理学 「知識は力なり」 中世に用いられた論理学は,アリストテレス式の推論法でした。推論法とは,議論と論証のための論理学であり,感覚など個々のものから普遍的な一般命題に飛躍し,その不動の真理から中間的命題を発見する
「全体性としての自己は記述不可能である」(ユング) 三つの私 人間には三つの「私」が存在します。一番表層に位置するのは,社会的自我です。これは,人間がこの世界で生きるために形成した後天的な「私」です。社会的自我の内奥に位置するのは,個人的自我です。これは,生まれ持った各自の性格であり,長い転生輪廻の過程で形成された魂の傾向性です。最内奥に位置するのは,本来的自己です。本来的自己とは,神の似姿としての自己であり,唯一無二の独自性を持つ霊的核です。 無意識の素材 人間
滅亡寸前のユダヤ国と現代日本の類似性について。 「天よ,聞け。地も耳を傾けよ。主が語られるからだ。『子らは私が大きくし育てた。しかし,彼らは私に逆らった。牛はその飼い主を,ロバは持ち主の飼葉おけを知っている。それなのに,イスラエルは知らない。私の民は悟らない』」(イザヤ書1-2・3) 父を悲しませる子は親不孝者である。同じように,親なる神に背く民も親不孝者である。日本人は神を知らない。生ける神を信じない。それどころか,偽りの神を信じ,偶像崇拝に身を捧げている。日
誤解された日本人 かつてフランス人作家ポール・ボネは,「不思議の国ニッポン」の中でこういう逸話を語りました。ある日本人商社マンが海外赴任した際,欧米人にこう聞かれたそうです。「あなたは神を信じているか?」と。その日本人はこう答えました。「私は無神論者です」と。その後,日本人商社マンは仕事に支障をきたしたそうです。理由はこうです。当時の欧米人にとって,神を信じないことは,「神に見られているという意識」が欠けていることであり,それはすなわち倫理の欠如を意味しました。簡単に申し
秘義としての福音 福音の本質は,愛ではありません。なぜなら,ストア主義やユダヤ教も愛を重視したからです。福音の本質は,創造です。神の似姿としての人間が,神の創造を継続すること。今までは神が人間に啓示してきましたが,これからは人間が神に啓示すること。そして,愛は創造という観点から再評価されねばなりません。なぜなら,人間は人間仲間に赦されることにより,生まれ変わることができるからです。 命名の意味 「主の口が定めた新しい名をもって,あなた方は呼ばれるであろう」(イザヤ書62
二つの道 社会の進むべき道が二つあります。自由の道と平等の道です。自由の道は通称「資本主義」と呼ばれ,平等の道は「社会主義」と呼ばれています。資本主義とは,単なる自由放任ではなく,有効な競争を作り出す道です。そのため,考え抜かれた法的枠組みを必要とします。一方で,社会主義とは,特定の存在(独裁者・政党・官僚機構)の計画に従うことです。しかし,人間の知性には限界があることから,人為的計画は必ず失敗します。 「人々は例外なしに何らかの偏った好みや特殊利益によって動かされてい
はじめに フリードリヒ・ハイエク(1899~1992)は,経済学者として有名です。なぜなら,ノーベル経済学賞を受賞し,「隷属への道」において痛烈に社会主義政策を批判したからです。 しかし,ハイエクの本領は,自由を基本原理とした包括的な法哲学でした。ハイエクが提唱した未来社会の構想を通して,自民党総裁選(日本)や大統領選(アメリカ)を考える一助となれば幸いです。 「私の意図は将来の発展のために扉を開くことであり,他の扉を閉ざすことではない。・・・自由の哲学,法学,及び
開国後の日本 日本は開国後,欧米列強諸国に追いつくべく,富国強兵に邁進しました。そして遂に,1905年,日露戦争に勝利。ちなみに,当時のロシアは,イギリスと世界覇権を争う超大国でした。 イギリスの支援があったにせよ,東洋の小国(極東の島国)が大国ロシアに勝利したのです。白人至上主義の時代にあっては,革命的な事件でした。 しかし,アメリカ・ロシア・イギリス・フランスに並ぶ五大国の座を手に入れた日本は,この時から傲慢になりました。そして,次々と同盟関係を破棄。最後には,四
はじめに 代表的な幸福論が三つあります。ヒルティとアランとラッセルの幸福論です。これらの中で,ヒルティの幸福論が最も深くかつ根本的です。しかし,ヒルティの幸福論は,キリスト教信仰を前提にしています。故に,無神論・無宗教が蔓延する現代において,ヒルティの幸福論は物足りないかもしれません。今回は,心理学的観点を用いて,「キリスト教を前提にしない幸福論」を展開します。 なぜ人間は幸福を求めるのか? 「私」の誕生 生まれた直後の人間には,「私」という意識はありません。つま
はじめに 人類は,地球の周りに人工衛星を飛ばし,月に行き,太陽系をも抜け出しました。そしてこれからは,すべての人が自由に宇宙旅行する時代が来ます。本格的な宇宙産業の始まりです。では,そもそも人間は,どのようにして宇宙への道を切り拓いたのでしょうか?今回は,宇宙への道を切り拓いた三人の人物を紹介します。 イエス・キリスト 人は言います,「キリスト教は愛の宗教である」と。間違いではありませんが,愛は必ずしも福音の本質ではありません。福音の本質,つまり,イエスの教えの本質と
それぞれの世代には,それぞれの苦悩があります。今日はロスジェネの苦悩について。 失われた世代 ロストジェネレーションとは,1970年から1984年に生まれた世代です。つまり,現在40代から50代半ばの世代といえるでしょう。私は1974年生まれですので,私もまたロスジェネです。 学校生活 この世代は,多くの悲劇を背負わされました。学校教育は徹底したつめ込み式で,教師が生徒を殴るのは当たり前の時代でした。私の通った公立校は,警察が定期的に巡回するほど荒れていました。シ
三大使徒 新約聖書の三大人物は,ペテロとパウロとヨハネです。ペテロは十二使徒のリーダーであり,忍耐と希望の人でした(ペテロ書Ⅰ)。パウロは異邦人の使徒であり,信仰の人でした(ガラテヤ書)。ヨハネは聖書最大の神秘家であり,愛の人でした(ヨハネ書Ⅰ)。 三大教会 三種類の教会があります。第一に,ペテロを信奉したカトリック教会です(ローマ教皇はペテロの代理)。第二に,パウロを信奉したプロテスタント教会です(教義の中心はパウロの信仰義認説)。第三に,ヨハネを信奉したギリシャ正
捏造された聖書 教会は,聖書を後世に伝えました。そういう意味において,教会の功績は絶大です。一方で,教会は聖書を改変しました。そういう意味において,教会の罪は小さくありません。では,どのようにして教会は聖書を改竄したのでしょうか?今回は,ヘブライ書13-25を用いて,聖書を捏造した心理的背景を探りたいと思います。 パピルス46番 ヘブライ書最古の資料は,パピルス46番,俗に言う「チェスター・ビーティ・ビブリカル・パピルス」です。紀元200年の巻き物です。最古の資料に
現代文明の行き詰まり 西洋文明の弱点は,身体(σωμα)を忘れた抽象です。デカルトの心身二元論以来,欧米人は心を重視し,身体を軽視してきました。ヘーゲルに代表される観念論は,身体の否定です。マルクスに代表される唯物論は,肉体の観念化です。いずれにせよ,西洋哲学は,抽象的世界という雲霧に迷い込んでしまったのです。こうした現代文明の処方薬となるのは,徹底的に身体(現実)を重視した道元の悟りではないでしょうか。 ※昨今のLGBTQ+の過度な強調も,身体軽視の結末と言えるでしょう
意識の構造 人間の意識は,四つの機能によって構成されます。一番表層に位置するのが感覚(sensation)です。感覚とは,何かがある(is)ことを教える機能であり,最も現実的な機能です。次に思考(thinking)です。思考とは,何であるか(what a thing is)を教える機能であり,心の中の観念を作る機能です。次に感情(feeling)です。感情とは,あるものの価値(value)を定める機能であり,好き嫌いの判断です。最後に直観(intuition)です。直観と