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現代文明の課題~哲学の視点から~
古代
古代ギリシャ哲学の主題は,「宇宙(コスモス)とは何か?」でした。この問いを最初に発したのは,ギリシャ哲学の祖タレスでした。この問いに答えを与えた者は,西洋哲学の屋台骨を創ったプラトンでした。そして,宇宙の姿を体系的に叙述したのは,神秘主義哲学者プロティノスでした。
中世
中世キリスト教哲学の主題は,「神(デウス)とは何か?」でした。この問いを最初に発したのは,キリスト教神学の創始者オリゲネスでした。この問いに答えを与えた者は,「神の国」の著者アウグスティヌスでした。そして,神学を体系的に叙述したのは,天才的な体系家トマス・アキナスでした。
ソクラテスが哲学の精神を,プラトンが哲学の理論を,アリストテレスが哲学の体系化を遂行したように,オリゲネスが神学の精神を,アウグスティヌスが神学の理論を,トマス・アキナスが神学の体系化を担当しました。
近代
近代哲学の主題は,「人間とは何か?」でした。この問いを最初に発したのは,合理論哲学の祖デカルトでした。この問いに答えを与えた者は,ドイツ観念論哲学の祖カントでした。そして,人間の本性を解き明かしたのは,実存主義哲学の祖キルケゴールでした。
近代の目標は,「私」の解明です。デカルトは自我としての人間を解明し,カントは主観としての人間を解明し,キルケゴールは神の前に立つ実存としての人間を解明しました。
西洋哲学の限界
西洋哲学の間違いは,行き過ぎた個人主義です。つまり西洋人は,まず個があって,その後に,個の合計としての全体があると考えたのです。しかし,本当にそうでしょうか?個と全体は同時に成立するのではないでしょうか?生まれたての赤ん坊に「私」という意識はありません。顔を覗き込む他者(母親)を通して,後に自我が芽生えるのです。つまり,あなた(母親)を認識した後に,私という意識が芽生えます。あなたと私は表裏一体であり,個と全体は表裏一体なのです。
しかし,西洋の哲学者は,個としての私から出発する。デカルトの自我も,ライプニッツのモナドも,カントの主観も,ヘーゲルの精神も,キルケゴールの実存も,ユングの自己も,ハイデガーの現存在も,「まず個ありき」という幻想があります。そして,西洋の極端な個人主義の反作用として,19・20世紀の狂信的な集団主義が起こったのです。ナチスの民族主義もマルクスの国際主義も,西洋哲学が産んだあだ花と言えるでしょう。
現代哲学の課題
未来哲学の主題は,「共同体とは何か?」でなければなりません。ちなみに共同体とは,個と全体が有機的に調和した組織体です。この共同体では,神と人間と自然が調和し,個人の道徳(愛)と社会の道徳(正義)が一致合同しなければなりません。それは,イエスが説いた「神の国」であり,パウロが重んじた「キリストの身体」であり,新約聖書における「εκκλησια(神の子の共同体)」です。
ヘーゲルが説いた弁証法的止揚は,歴史の運動法則です。その考えに立てば,これからの哲学は,「中世のスコラ哲学」と「近代の実存主義」を弁証法的に止揚した思想なのかもしれません。ロシアの哲学者ベルジャーエフは,これからの時代を「あたらしき中世」と呼びました。私は「第二枢軸時代」と呼びたいと思います。
※枢軸時代=哲学者ヤスパースが提唱した概念であり,紀元前6世紀前後を指す。この時代に,現代文明の土台が一斉に創造された。中国では孔子と老子が生まれ,インドでは釈迦とヴァルダマーナが生まれた。イランではゾロアスターが,ギリシャではソクラテスとプラトンが,ユダヤではエレミヤとエゼキエルが生まれた。つまり,各文化圏の基盤となった世界宗教が成立したのである。
以下は参考書籍です。
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