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学習支援のあり方(後編)
文科省の「LDの判断基準」では、学習障がいは「中枢神経系に何らかの機能障害があると推定される」とされています。
中枢神経系とは、何でしょうか。
これは、部位としては脳と脊髄のことを表しています。この部分から命令が出されることで、私たちは体を動かすことができています。
例えば、字の形から音を思い出す脳機能に課題があると、字が読むのが苦手だなぁという状況になります。
また、上手く手に指令が出せなければ、書くことに苦手さをもちます(医学的な学習障がいとは別)。
こういった学習の苦手さに関して、仕組みがくっきりと解明された話は聞いたことがありません。
脳などの神経系が、どのように関わっているのかはわからないんですね。
確実に言えるのは、親御様のしつけや育て方は学習障がいの原因とはならないということです。診断を受けられたときに、ご自身を責められる保護者の方々と多く出会ってきましたが、そういった考え方は適当ではなさそうです。しかし、前回お伝えしましたように、周辺者の接し方、あり方によって学習が困難となることは十分あり得ます。
発達障がいとしての困りごとの解決・軽減方法と、環境に起因するものの解決・軽減方法は別であると言えます。
学習支援を行うときには、よくよくこのことを考えなければならないと思っています。
2024年6月13日付の中日新聞にて、岐阜県飛騨市の全小中学校に作業療法士の部屋が設けられることが報じられました。
作業療法士は、心と体のリハビリを専門にする方々です。医療現場だけではなく、放課後等デイサービスなどでも活躍が期待され、近年その専門性への注目がされています。
新聞記事には、グラフ問題が苦手なお子さんに対して、透明な三角定規を使うよう助言する姿が載せられていました。以下は作業療法士である奥津光佳さんの働きかけに関する部分の引用です。
この児童は目の動作が苦手で、手先が不器用なことに劣等感を抱いていた。持っていた定規は目盛りが細かい上に色も付いていて、グラフ用紙に重ねると見えづらかったのだろうと奥津さんは見抜いた。児童は透明なものに替えると「描けるようになった!」と喜び、笑顔で教室を後にした。
この具体例には、多くの支援に通じる本質的な洞察があります。
そのひとつは、できないことを単純に「経験不足」としないところだと思います。経験の浅い支援者は、描けないという状況から、描く練習をさせようという思考になりがちです。計算が苦手なら計算させるし、読めないなら読ませてしまうわけです。これでは、成功体験がずっと遅れてしまい、ときにはお子さんの気持ちが折れてしまうかもしれませんね。
学習支援とは、その苦手さを細かく分解し、原因の仮説をいくつも立て、その解決や軽減がたやすいものから試みていくものだと思います。